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続続・御用猫  作者: 露瀬
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うでくらべ 2

「私と、結婚して頂きたい」


「断る」


 後日、王城内の通路で出くわしたリリィアドーネに、ハボックは、もう四度目なる求婚を行い、それと同じだけの回数、即答にて、返事を賜っていたのだ。


 互いの隣に並ぶ、ニムエとラースは、それぞれの相方の袖を引き、赤い顔と、青い顔を見せている。


「いい加減に、しつこいぞ、私に、そのつもりは無いのだ、もう二度と、口にするな」


 藍玉のように美しき串刺し王女の瞳は、相も変わらず、冷え切ったものであったのだが、しかし、ハボックの方も、これがまた、平然とした無表情であるのだ。これをどこからどう見ても、若い男女の恋愛劇だと思う者はいないであろうし、むしろ、新手の決闘の申し込みだと説明した方が、しっくりくるであろうか。


「……失礼ながら、リリィアドーネ殿には、私の気持ちが、なにか、上手く伝わっていないような……返答は、まだ、頂けぬのですか?」


「返答ならば、もう、何度も伝えた筈だ」


 少しづつ、少しづつ、串刺し王女の眉根が寄ってゆく、それに反比例して、周囲の温度が下がっているような錯覚さえ覚え、ラースは、この何を考えているのか分からぬ友人の、肩を押さえて前に出るのだ。


「も、申し訳ありません、こいつは、昔から、ちょいと変わった所がありまして、貴女の美しさに、当てられただけなのでしょう、ほんと、きつく言っておきますから、ね、……ほら、ちゃんとごめんなさいしろよ」


「そうですよ、リリィアドーネには、もう、心に決めた方が、おいでなのですから、袖にされた女性に追い縋るのは、騎士の美徳に反しますよ」


 少々、憤慨した様子にて、ニムエもハボックを責め始めた。彼女は、リリィアドーネよりも年上だというのだが、上背では負けており、また、丸っこい童顔である為、若く見られる事の方が多いだろう、現に今も、その可愛らしい顔に、怒りの表情は浮かべているものの、迫力、などというものからは、遠く距離を置いているのだ。


 テンプル騎士団には、約五十名の女性騎士が在籍しているのだが、やはり、腕力体力的には、男性に敵わないのだ。故に、彼女らは、呪いの能力を加味して選抜されており、剣技だけで認められたアルタソマイダスやリリィアドーネは、やはり、別格の存在と言えるだろう。


「ともかく、話は終わりだ、失礼する」


 全くもって、取りつく島の無い串刺し王女を見送りながら、ハボックは、はて、と首を傾げるのだ。


「……どうにも、女、というやつは、良く分からない」


「うーん、同意したいのは、やまやまなんだがな、それをすると、俺の中で、お前も女だという結論になっちまうよ」


 呆れ顔のラースは、しかし、まぁ良いかと、友人の尻を、ひとつ叩くのだ。




「全く、無粋な男だ、ダラーンといい、どうしてこうも……騎士というのは、皆、そうなのか」


 かつかつ、とブーツを鳴らし、不機嫌さを隠そうともせずに、リリィアドーネは廊下を進む。少々大股になってしまっていたのか、騎士としては小柄なニムエは、小走り気味に追走してくるのだ。


「そうですね……でも、騎士というか、男の人って、いくつになっても、なんていうか、少し、子供っぽい所がありますよね、人の気なんて知らないし、わがままだし」


「……そういったものか? 」


 少しだけ、歩調を緩めながら、リリィアドーネは同僚に尋ねるのだ。いかにも、興味の無い風を装いながら。


「ええ、そういったものです……でも、そんな所が、すこし、可愛いな、なんて、思う事もあるんですけれどね」


「ほ、ほう、例えば、ラースなども、そうなのか」


 さり気無く、聞いたつもりではあったのだろうが、指先でスカートの縁を叩き、ちろちろ、と視線が彷徨い始めたリリィアドーネは、注意力のある者から見れば、明らかに挙動不審である。幸いにも、たちまちに惚気話を始めたニムエには、勘付かれていないようであったのだが。


「そうですよ、ラースなんて、それこそ子供みたいに、私に甘えてくるばっかりなんですから! それに独占欲も強くって、私が他の男の人と話してたらですね、夜になって、やれ、何を話してたんだとか、口説かれはしなかったか、とか、ずっと聞いてくるんですよ……その日は、もう、激しくって……求婚された、なんて言った日には、どんな事になるか、それでなくとも、最近、彼ったら私の……」


「ま、待て! そういった話は、人前でしないものだぞ! 」


 リリィアドーネは、慌ててニムエの暴走を嗜めるのだ。二人は、昨年末に互いの気持を打ち明けたばかりなのだとかで、まだまだ熱が冷めやらぬのか、こうして、ことある毎に、赤裸々な痴話を彼女の耳に届けようとする。


 そういった事に、全く知識の無いリリィアドーネからしてみれば、見てはならぬ物を見たような、何か触れてはいけない箱を開けてしまったような、罪悪感さえ覚えてしまうのだ。


「あ、ごめんなさい、私ったら、はしたない」


 こつん、と額に拳を当てて、はにかむ彼女は、あざとくとも、確かに、騎士とも思えぬ、可愛らしさがあるだろうか。


(はぁ……しかし、私にも、あのような可愛げがあれば……多少は、違うのだろうか)


 頭の中に傷面の男を思い浮かべ、しかし、リリィアドーネは、すぐさま雑念を振り払う。今は公務中であるのだ、真面目な彼女は、思い悩むのは、帰宅してからにしようと、気持を切り替える事にした。


 したのだが。


「でも、そうですね、リリィアドーネも、たまには彼に、焼きもちを妬かせてみてはどうですか? 私、辛島さんの事は良く知りませんが、きっと、青い顔して慌てますよ……それで、そのあと、きっぱり断ったと伝えて、ぎゅっ、て抱き締めたりなんかして、私が好きなのは、貴方だけよって囁いたら、ね、もう、ね……次の日は、お仕事にならないかも」


 あざとくも、きゃっ、と、顔を手で覆い、身体をくねらせるニムエに、すれ違う者たちが、訝しげな視線を送るのだが、二人は、それにも気付かない様子であるのだ。


 私も、やってみようかな、と淫らな妄想を始めた同僚を、彼女は叱る事も忘れていたのだ。


(はたして、猫が、そのような……これは……いや、これならば……)


 少しだけ、息を吐き出し、きっ、と前を見据えると、まるで、戦さ場にでも向かうかの如く。


 リリィアドーネは、歩き始めたのだった。




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