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続続・御用猫  作者: 露瀬
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うでくらべ 17

 普段よりも大股で歩く御用猫は、城の外堀に架かる巨大な跳ね橋を渡り、中央公園まで進み出た。この広大な広場は、軍事行進前の編成や、国民を集めての記念式典等に利用されるのだが、普段は、関係者以外には利用出来ぬ決まりである。


 馬車の出入りは、別の道路である為、遠慮なく中央を歩いていた御用猫の隣に、音も無くさんじょうが現れる。空間を確保する為に、樹木の類は無く、遥か向こうに緑の壁を作り出すのみであったのだが、一体、何処に潜んでいたものか。


「さんじょう、みつばちを呼び戻せ、黒雀もだ、他に動ける者が居たならば、皆雇う、金はカンナに立替えて貰え」


「……了解、しました」


 主人の不機嫌さを感じていたものか、言葉少なく、彼女は対応する。その、困ったような表情を見て、御用猫は、ようやくに、自分が冷静さを欠いている事に思い当たるのだ。


「はぁ……悪かった、いかんな、急いては事を仕損じる、か……さんじょうよ、ハボック ヘェルディナンド、という男の捜索だ、顔は分かるな? お前達は南町を当たれ、東はリチャードとティーナに、北はゲコニス達を使え、西町はハルヒコが詳しかろう……かなりの遣い手だからな、見つけても手出しせぬよう、きつく言い付けておけよ」


「はい、姉様には、そのように」


 安堵の息を、密かに小さく漏らすと、さんじょうは一礼して、立ち去ろうとしたのだが、しかし、その手を、がっし、と掴まれるのだ。


「いや、待て、今回はお前が仕切るのだ、その方が話が早いだろう、みつばちには俺から話す……出来るな? いや、やってみせろ」


「は、はい! 心して」


 今度こそ、彼女は走り去る。初動が遅れている以上、クロスロードの追っ手を出し抜くためには、彼女の念話が、必ず役に立つだろう。


「果報は、食って待て……だったか……ハンバーグにするか」


「うひ、そのとーりですわよ、慌てるこたぁ、ござりやせん……しょせん人生、なるようにしか、ならねーのですからね、やる事やったら、どっしりと構えとくもんですわよ」


 ぴょいん、と御用猫の背中に取り付き、チャムパグンは、卑しく笑うのだ。


「しかし、何故だ……ハボックが、ロンダヌスの間者とは思えぬ、それならば、なぜ姿を隠す必要があるのだ……ラースを殺し、逃げた賊を追っている? いや、それでも言伝くらいは頼めよう、他に、何か理由があるのか……」


「んー? 先生ぇ、また、助けるつもりなんですか? 後が面倒ですよぉ? 」


 ぴた、と足を止め、御用猫は気付くのだ。


(助ける? 俺が? ハボックを? ……それこそ、理由が無いな……アルタソに喧嘩を売ってまで、何故だ)


 腕を組み、ううむ、と悩み始めた御用猫の背中から、しかし、くすくす、と、悪魔の笑い声が聞こえてくる。


「ふふ、揶揄ったつもりだったのに……自分で言った事も、忘れてしまったの? 仕方のないひと」


 背後から伸びてきたのは、白より白く、まるで、淡い輝きを纏うかのように、それ自体が、生き物であるかのように、艶かしくうねる、細く、嫋やかな腕であった。一瞬だけ、御用猫の思考は止まり、それ、の動きだけに、心が囚われる。


「……辛島ジュートは、正義の味方、なんでしょう? 」


 今は見えぬ、顔の傷を撫でられる。薄絹が触れたような、微かな、しかし、柔らかい感触。


「ぐひひ、まぁ、それも、良いんじゃねーですかね? 気分転換でげすよ、気分転換」


 はんばーぐ、はんばーぐ、と、歌い始めたチャムパグンは、御用猫の肩までよじ登り、ぺしぺし、と頭を叩いて調子をとるのだ。


 気付けば、足は前に進んでいた。


「……なぁ、おチャムさんよ、俺はな、今の今まで、お前の事を、卑しいエルフだとばかり思っていたのだが」


「ほほぅ、ようやくに気付いたでごぜーますか、この、アテクシの愛らしさに」


 照れるぜ、と、頬を赤らめるチャムパグンの尻から、ぷり、と音が漏れる。


「うわ臭っ! お前、昨日なに食った……ん、そういや、餃子だったな、言われてみれば、何となく、ニラの匂いがするな」


「ちょっ! よせ! さすがにそれはおかしいやろ、おい立ち止まるな! やーめーろーよー」


 この卑しいエルフにも、多少の恥じらいはあったのだろうか、しかし、顔を覆って頭を振り、いやいや、と、してみせたところで、再び音が漏れ出すのだ。


「くっ、わはっ、やめろ、何で出した」


「今がその時だと、思いました」


 堪らず、二人は笑い出す。


(そうだな、陰気になるのは、全て終わってからだ、……馬鹿にならねば、人助けなど、できまいよ)


 頭を切り替え、御用猫は、駆け出した。


 悩んでいても、始まらないのだ。




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