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続続・御用猫  作者: 露瀬
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薔薇髑髏 24

「く、くそう、何だあれ、何なんだよ! 」


 夜のクロスロードを、仮面の少年が疾走する。がちゃがちゃ、と赤瓦を鳴らし、屋根から屋根へと飛び移る様は、ロクフェイトの英雄譚に登場する、盗賊王を想起する者もいるだろうか。


 これは、彼が父から教えられた「韋駄天(スカンダ)」の呪い、によるものであった。優秀な呪術師であった彼の父は、ヘイロンに勧誘され、その仕事を手伝った事があるのだが、しかし、その結果として、命を落としたのだ。


 それ以来、女手ひとつで少年を育てた彼の母も、程なくして、心労から病に倒れた。彼にとって、裏社会の存在そのものが、幸せな家庭を破壊した、憎むべき仇であり、この呪いは父の形見である、そして、ひとつ事に執着した彼の想いは、それを異能と呼べる程に、磨き込んでいたのである。


 しかし、いま、彼の表情には、焦りの色が、ありありと浮かんでいたのだ。それもそのはず、常人には考えられぬ機動にて、逃げ続ける彼の後方からは、それ以上の速度をもって、追い縋る白い影があるのだから。


「あははー、早いね早いね、その調子だよ、頑張れモコタン、モコモコたん! 」


「だから、うっさい! けど、きぃちゃん、どうすんの、随分と近付いたけど、どうやって捕まえんのさ! 」


「んー? 」


 腰にしがみ付く黄雀に振り返り、ドナは、自身も大声をあげる。かなりの速度で移動しているため、風切り音に紛れて、会話がしづらいのだ。


 しかし、穴羊の背中の上は、非常に安定している。先程から、黄雀の技にて、屋根から地面から、急上昇急旋回と、常識外れの動きを見せているにも関わらず、モコタンは即座に反応し、自身の脚が接地した瞬間に、見事な加速を続けていたのだ。


 確実に薔薇髑髏を追い詰めてはいるのだが、手綱どころか、(あぶみ)も鞍も備えていないこの魔獣である。ドナとしては、自身の存在理由に、少々疑問も覚えているであろうか。


「……両足を、斬り落とす、とか? 」


「全然、ちょっとじゃないだろ! 乱暴すんなって、猫も言ってたじゃん! 」


 こてり、と首を傾げた水着少女は、その可愛らしい(かんばせ)から、恐ろしげな提案を口にする。勿論、これは黄雀なりの冗談ではあったのだろうが、彼女の力を知るドナには、到底、そうは聞こえぬのであろう、慌てて、それを却下するのだ。


「あは、じょうだん冗談だよー、きぃちゃんに任せてほい、もう、おててが届くからね……さーんど、こんぱくしょーん、そーどっ! 」


 ぽいぽい、と黄雀は、懐から小さな黒い丸薬を取り出すと、それを足元に放り投げた。彼女の声と共に、通り過ぎた後方の屋根瓦が数枚消失し、五十センチ程の白い刃が精製される。


「はい、どーん! 」


 ひゅるひゅる、と回転しながら宙に舞う二本の白刃は、薔薇髑髏の死角から襲い掛かり、彼が着地する直前の赤瓦を、左右から切り割ったのだ。


「あっ!?」


 着地点が突然に消失した事により、大きく姿勢を崩した薔薇髑髏は、前につんのめると、屋根の端から落下してゆく。


(ちくしょう、こんな、ところで……父さん、母さん……)


 受け身には自信も持っていたのだが、流石に、この体勢から、十メートル近い落下をしては、ただでは済まないだろう。


 彼が逆さになった事で、しゃれこうべの仮面が外れる。世間を騒がす薔薇髑髏こと、クラネ少年は、ぎゅう、と目を閉じ、身体を強張らせたのだが。


 なんたる事か、その身体は、がくん、と、した衝撃と共に、空中に静止するのだ。


「ほいほい、手荒な真似は、ちょっとだけ、捕獲かんりょーぅ」


「……なんか知らないけど、便利だよね、それ……呪いなの? 」


 黄雀の、不可視の腕に掴まれ、ぷらん、と吊り下げられたクラネ少年は、訳も分からずに、目を白黒させるばかりであった。




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