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続続・御用猫  作者: 露瀬
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薔薇髑髏 18

「猫の先生、ヘイロンに動きがありました」


 少し遅めの夕食を終え、御用猫は、みつばちからの報告に耳を傾ける。膝の上には、彼の胸に吸い付きながら眠る黒エルフと、彼を枕に腹を膨らませる卑しいエルフを装備していた。


「ふぅん、短気で短絡的な奴にしては、随分と遅かったな……上手く食い付いては、くれたのか? 」


「それは、問題無いと思われます、直ぐに動かなかったのも、ラキガ二の方を警戒しての事かと……最近は、真正面から対立していたそうですから」


 南町を取り仕切る、大やくざの元締め「男爵」ヘイロン。その二つ名の通りに、元は貴族である彼は、野蛮ではあれど、自尊心と虚栄心に満ち満ちている。


 固肥りの、がっちり、とした体躯に、白髪の総髪、齢は六十を越えているのだが、腕っ節の方は、まだまだ現役であるという。一直線に左右に伸びた白ひげ、が特徴の、南町では知らぬ者も無い大物であった。


「あと、薔薇髑髏について、なのですが……遡って調べてみれば、どうにも、最初は殺しをしていなかったようなのです、むしろ、手当たり次第に斬り捨て始めたのは、最近の事……これは、世間の注目を集めたことで、調子に乗ったのでしょうか」


 御用猫は、猪口を傾け、中身を喉に流し込む。胃の中に染み渡る清酒と共に、彼の思索は、その深度を増してゆくのだ。


「若先生、斬るか斬らぬか、その取捨選択……かように、自在に操る事が叶いましょうか」


「出来なくは無いだろう、俺だって、そうしてる」


 小さく猪口を振り、御用猫は笑ってみせる。その瞳の中には、少しばかり、自虐的な光が見えるであろうか。


「いえ、薔薇髑髏は、若先生とは違います、明確に線を引いておりません……ある日は人を殺めず、また、とある日は、全て打ち殺す……これは、余程に気分屋であるものか、それとも……」


「ん、そっちの線が濃厚だな、リチャードはリリィ達と、予定通りヘイロンを張ってくれ、搦め手は黒雀に……いや、それは、あれか……おーい、ドナドナちゃんよ」


 不意に呼び掛けられた女は、ひょいん、と跳ね上がり、片付け中の食器を取り落としそうになる。そんな彼女を揶揄ったものか、若い男がドナに肩を叩かれていた。


(なんだ、もう馴染んでいるのか……傭兵あがりの割には、社交的な奴だな)


 驚きながらも笑う野良猫に、侍女姿のドナは、大股にて、ずかずか、と近付いてくるのだ。


「その、呼び方を、するんじゃないよ! 」


「ちょいと、頼まれてくれないか、サクラからな、毛玉を取り返してきてくれよ」


「聞けよ」


「あとおかわり」


「だから聞けよ……はぁもう、なんだかんだ、慣れてきた自分が怖い……んで、どうしたの、アタシにも何か、させようっての? 」


 言いながらも、律儀に酌をする彼女に、御用猫の頬は緩むばかりである。


「ん、そうだな、店が終わってからで良いから、しばらく手伝ってくれ、もちろん金は出す、きぃちゃんを付けるから、詳しい事は、あいつに聞いといてくれ」


「ちょっと、金は要らないよ……でも、きぃと、かぁ……あの子、苦手なんだよな、べたべた、くっついてくるし」


「何だ、嫌いだったのか? なら、サクラでも良いけど」


「き、嫌いとは言ってないだろ! 」


「好きなのか」


「すぅっ! 好き、とか、そんなんじゃ……何でそうなるのよ! 」


 わはは、と笑う御用猫に、揶揄われたのだと気付いたドナは、彼から乱暴に酒器を取り上げ、手酌にて酒を呷る。これは、赤くなった頬を、誤魔化すためであろうか。


「……リチャード様、男というものは、ああいった、初心な反応が好きなもの、なのですかね? 」


 何やら楽しげに肩をぶつけ合い、じゃれつく二人を、テーブルの向かいから眺め、ぽつり、と零したみつばちの疑問であったのだが。


「知りません」


 少年の返しは、何とも淡白なものであったのだ。




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