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続続・御用猫  作者: 露瀬
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薔薇髑髏 8

 クロスロードの南町を、二人の女性騎士が歩いていた。女性の騎士が多いこの国では、取り立てて珍しいとも思えぬ光景であったのだが、その両名が共に、白い騎士服を身に付けている、となれば、話は別であろう。


 クロスロードの最精鋭である中央テンプル騎士団、その証たる、白い騎士服。初夏の陽光に煌めく制服には、見事な金の刺繍も施されていたのだが、すれ違う通行人の視線を集めるのは、やはり、その上に乗せられた、なんとも美しい、相貌であるだろう。


「しかし、どうにも腑に落ちぬ……薔薇髑髏の噂、私も聞いてはいたのだが、なぜ、今になって、団長は対応する気になられたのか……そもそも、この様な仕事、本当に、我々のするべき事であろうか? 」


「そうですわね、ですが、リリィさま、髑髏騎士の正体は、辛島ジュートである、との話も、市井では、実しやかに囁かれていますの……今は問題無くとも、件の騎士が何かの法を犯せば、それは、名誉騎士の名を汚す事にも、繋がりかねませんわ」


 リリィアドーネとフィオーレ、二人の美少女は、普段の癖であろうか、歩幅も歩調も、ぴたり、と合わせ、同じ速度にて並んで歩く。やや短めのスカートからは、両者の、すらり、と長い脚が、交互に差し出されていた。


 リリィアドーネの方は、いつもの様に、黒い防刃タイツを着用していたのだが、しかし、それ故に、生脚のフィオーレとは、色彩も対照的であり、尚更に、注目を集めてしまうのだ。


「ふむ、なるほど、名誉騎士の名声は殿下の名声、それを守るのも、近衛の仕事であるか……しかし、フィオーレ、ならば、何故、もっと早くに対応しなかったのだろう? 団長にしては、少々、手が遅いような気もするのだが」


「それは……ふふ、失礼ながら、リリィさまの、頬が緩んでいる事が、その理由かと、存じ上げますわ」


 くすくす、と笑うフィオーレは、口元を隠し、少々悪戯っぽい表情を見せた。随分と大人びた外見の彼女であるが、こうした時には、やはり、年相応に見えるであろうか。


「ふぃ、フィオーレ、上司を揶揄うな! ……ふん、そういうお前はどうなのだ、最近では、随分と仲が良さそうに見えるのだが? 」


「……仲、ですか? リリィさま、それは、どういったご質問でしょう」


 フィオーレは、その薄い赤茶色の目を、二、三度瞬かせると、先輩である騎士に向け、こてり、と首を傾げて見せる。仕事中である為に、その柔らかく波打つ灰金髪は、後頭部にて纏めてあるのだが、リリィアドーネには、それが何とも、涼しげで、可愛らしく感じられたのだ。


(髪の手入れなど、今まで何もしてこなかったが……私も、そろそろ、結い方を覚えるべきか)


 肩の辺りにまで伸びた栗色の髪は、そろそろ、激しい動きをするのには、邪魔になりそうな長さであるのだ。


(そうだな、やはり、雑に縛っただけでは……あの人に見せる前に、一度、フィオーレに教えて貰おう)


「……リリィさま? 」


 彼女に問いかけたまま、何やら余所事を考え始めた上司に、フィオーレは、少し垂れ気味の目を、不思議そうに細めると、足を止めて、リリィアドーネに呼び掛ける。


「へあ? あぁ、そう、そうだな、リチャードだ、リチャードの事だ……聞いているぞ、非番の度に、何やら粧し込んで、出掛けているそうだな? 」


「へあっ!?」


 途端に、慌てふためくフィオーレなのである、王宮でも、その才能と人品を認められ始めた彼女ではあるのだが、リリィアドーネにしてみれば、可愛い後輩には違いないだろう。そして、ニムエが退団してしまった今では、こうして気安く話せる、唯一の同僚でもあるのだ。


「そ、そんな事は……ありませんわ、いったい、その様な根も葉もない虚言、何処から……まさか、殿下が」


 そういえば何度か、シファリエル王女に、逢瀬の為の服装を、見て貰った事があっただろうか。ほんの世間話であった筈なのに、いつの間にか、私服の披露会をさせられていた事を、フィオーレは思い出す。


 言葉に窮し、右往左往する彼女を眺めながら、にやにや、と笑うリリィアドーネは、普段からは想像も付かぬ悪い顔である。これは、御用猫の影響を受けたものであろうか。


「くぅ、リリィさま、わたくしは、本当に……」


「む、待て、何だ……向こうで騒ぎが」


 きゅっ、と目を窄めて、何か反論を口にしようとしたフィオーレを、リリィアドーネは、手の平を突き出して遮る。既にその顔は、騎士の厳しさを取り戻していた。


 慌てて彼女の視線を追うフィオーレであったのだが、確かに、通りの向こうには、何やら人集りもできているであろうか。人口の多さ故に、少々、治安も悪い南町である、多少の喧嘩など、日常茶飯事ではあるし、本来ならば、このような事は赤虎炎帝騎士団の仕事であるのだが、目の前の真面目な上司は、既に走り出してしまっていたのだ。


 即座に後を追うフィオーレではあったのだが、内心では、どこか安堵していたのも事実なのである。


 先程の会話を続けてしまえば、彼女には、上手く否定する為の言い訳が、見つからなかったであろうから。




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