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戦いの行方は。


 それにしても、こうしてオークの目の前に立つのと横合いからちょいちょい攻撃するのだったら感じる恐ろしさが違うな。

 その眼に宿る獰猛さに射抜かれそうに感じる。

 正面にいたほうがオークの強大さを嫌でも感じるし、さっきまではこれに棍棒も持っていたのかと思うと鈴のすごさを思い知る。


 怖ぇ……。

 マジで鈴、よくこれと向き合っていたよなー。


 足は竦むし心臓はバクバク言ってる。身体の震えも止まらない。


 だが――それは武者震いだ。

 この恐怖の権化から鈴を守ろうという、その決意の表れだ。

 本当に、武者震いだ。本当に。

 まじでそうだかんな!

 さっきまでずっと守られてた? うるさいわ!



「蓮くん……ごめんね」


「いや謝んなくていいから」


 なんかむしろ惨めになる。


「今度こそ、俺が守るよ」


 

 鈴に決意を伝え、俺は改めてオークに向きなおす。


 オークは先ほどからこちらをうかがっていた。

 対する俺は、じりじりとオークに近づく。

 さすがに正面に立たれては警戒せざるを得ないのか、オークの目はまっすぐ俺を見ていた。


 正直言ってかなり怖いけど、散々鈴に助けてもらった手前もう逃げることはできない。



――フッ――



 っ危ねえ!

 オークが飛ばしてきた左拳をギリギリで横に避けた。

 早い。めっちゃ早い。

 なんかブゥォォンって音してたぞ。


 あーくそ油断した。

 やっぱ考え事してちゃダメだくそっ!


 今のはジャブのつもりなのか、次弾は打ってこない。



「フゥゥゥゥ、ハァァァ」



 深呼吸して気持ちを入れ替える。

 さっきはたまたま避けられた。

 心を入れないと、次の攻撃で終わる。


 もう少しで、日が沈みそうだ。それまで時間をかせぐ。



――フッ――


 

 またオークが放ってきた左拳を左にステップすることで避ける。

 確かに拳の速さは凄いが、予備動作がないわけじゃない。

 打つ寸前、軽く肩が下がるのだ。

 

 そこを見逃さなければ、避けられないものではない。

 と、思いはするが言うは易しというやつだ。油断しないで行くぞ。


 

――フッ、フッ――


 左、右の順で打ち込まれる拳だが、やはり予備動作はあり、避けることはできる。

 打たれるのを見てからでは到底避けられそうにない拳だって、打たれる前に動けば反応できなくはない。


 

 左、左、右。

 よけつつも決してオークから目を離さない。

 よそ見をしたらその瞬間にやられる。

 

 軽く目の焦点をずらすようにして、オークの動きを全体として見る。

 一部に注視するだけではいつか綻びが生まれてしまう。

 だから、オークの全体を見る。


 

 右!

 またステップしてかわす。

 よく見れば、打つ前に足だって動いてるじゃないか。

 

 左!

 左!

 全体を見さえすれば、当たらない。

 簡単じゃないか。


 右!

 元々こいつは棍棒が武器なのだ。体術に特化しているわけでもない。


 左、右!

 だから、いくら早くても、力があっても、俺には当たらない。

 次は……?


 って右足ぃ!?



「っぐはぁっ!」



 いってぇ!

 めっちゃ痛い! もろに腹にくらった。

 HPは……!? やべえ! 半分くらい減ってる!

 一撃で半分かよ! 


 やっぱりあの体重を支える分、足の筋肉が発達しているのだろうか。

 痛覚は多少制限されているはずだが、かなりの痛みを感じる。

 ゲームでこの傷みなら、現実でくらったらやばいだろうな。

 絶対にリアルでオークと出会っても戦わないぞ! という、痛みで混乱したせいで謎の決意をした俺に、鈴が声をかけた。



「蓮くん大丈夫!? そろそろ私もHP回復してきたし、ここは前衛の私が戦った方が……」


「いや、大丈夫……」


 

 一瞬、それもいいかなーなんて思ってしまった。

 確かに前衛職の鈴の方が戦いに向いているかもしれない。

 

 でもダメだ。鈴は武器とか壊れてるし、っていうかそれ以前に、あんなかっこいいこと言った手前また鈴に戦わせるなんて最低のすることだ。

 一瞬でも任せちゃおうかななんて考えた自分がほんとダサい。自己嫌悪で死にたくなる。俺が、兄なのに。頼られるべき存在なのに。

 本当は頼られたいのに、肝心な時にすら頼りになれないで逆に頼ろうするなんて。

 その自己嫌悪を振り切るように、俺の口は言葉を紡ぐ。



「俺を、頼ってくれ。もう一回チャンスをくれ」


 じゃないと、俺の心が耐えられなくなる。


「お願いだ。信じられないかもしれないけど、それでも」


 せめてもの俺の存在意義の、鈴の兄であるということが無くなったら。


「俺に、任せろ」


 俺は、この世界に要らなくなる。

 居られ……なくなる。

 だから!


「俺に! 任せろ!」



――太陽が沈み、夜の帳が下りてきた――





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 先ほどまで地に差していた木漏れ日は、もはや見る影もない。

 闇に包まれた森は、日中とはまた違った様相をしていた。


 日の光がない。


 それは、鈴のスキルが使えなくなることを意味しており、そして俺の能力が全開に使えることでもある。

 


「『気配遮断』」


 

 本当は使いたくないし、レベルだって上げたくない。

 でも、それで鈴を助けられるのであれば使うことに否はない。

 まあまだレベル1だからそんなに意味はないかもしれない。

 そんな気配遮断でも、勝利のためには使わないよりましだ。



「蓮くん……」


「ああ、大丈夫だよ。本当に、俺に任せて」



 わずかな月光を反射して怪しく煌めくオークの目は、じっとこちらを見つめている。

 さっきの蹴りで吹っ飛ばされて、俺とオークの距離は振出しに戻っている。

 その間合いを、お互い保ったまま動かなかった。

 

 初動が大事なのだろう。

 俺は今までまともな戦いなんてしたことはないが、それでも理解はできる。

 これが、戦いだ。


 現実だったら動けなくなるほどの恐怖を感じているはずなのに、こんなに気分が高揚するのはやはりゲームだからなのだろうか。

 

 影潜りは、使いどころが選ばれるスキルだ。

 潜っていられる時間は長くないし、クールタイムもある。

 光に当たればダメージもある。

 だけど今は夜だ。光に当たることは、ない。


 

 ゆっくりと、俺は歩き出す。

 集中して、一歩ずつ、歩き出す。


 オークはじっと警戒しながら俺が間合いに入るのを待っている。

 

 一歩ずつ。

 一歩ずつ。


 近づくにつれて、オークの身体に力がこもるのが感じられた。

 

 そして――間合いに踏み込んだ。



 すかさず放たれるオークの左拳。

 身体を横にずらすことで避ける。

 絶対に油断しないように、全体を見る。


 次、また左だ。

 少し余裕をもってかわす。

 さっきみたいに、油断して攻撃を喰らわないように。


 右拳だ。

 次は左。

 また左。

 そして右。

 

 俺は順当に避けていく。


 ある時を待ちながら。

 

――そして、その時は訪れた。

 

 次、右足の蹴り!


「『影潜り』!」



 蹴りの予備動作、それは放つ前に左足を踏み込むことだった。

 あんな巨体を一本の足で支えることになるなら、その足の負担はとてつもないだろう。

 だから――



「『切り裂き』ぃ!」



 影潜りで素早くオークの足元に潜り込み、後ろからその足首を切りつける。

 足にも筋肉がついているオークだが、さすがに足首にはそんなに筋肉はなく、きちんとしたきりごたえがあった。

 もしかしたら丁度関節に入ったかもしれない。

 


――ブモォォォォォ!?――


 蹴りの軸足を切られてバランスを崩したオークが、前に倒れようとしている。


 まだ影から全身は出てないからクールタイムは始まってないし、まだ潜っていられる限界の時間まで3,4秒あるはず。


 俺はまた影に潜り、倒れこむオークの前に出現し、オークに向けてナイフを構えた。


 ――そして、

 

 頭っから倒れたオークが、自分からナイフに刺さっていく。

 刺さる直前に合った目は驚愕と恐怖に見開かれているようだった。


 その眼窩に、ナイフはズブリと差し込まれた。


 元々柔らかいその部位だ。倒れこむオークの自重も相まって簡単に突き刺さり、ナイフは脳に達したはず。

 もしも血が流れることが設定されていたら、俺の全身は返り血を浴びて血だらけになっていただろう。


 と、そんなことを考えていたから忘れていた。今いる場所から退くことを。



「うげっ!」



 そのまま倒れたオークに潰された俺は、情けない声を出していた……。

 しまらねえなーほんと。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 オークのHPがちゃんと0になり、光のエフェクトに消えるまでの数秒間オークの下敷きになっていた俺自身、HPがかなり減っていた。

 影潜りで抜け出せればよかったのだが、生憎クールタイム中だったので使えなかったのだ。



「蓮くん! お疲れ! 大丈夫?」


「うん…まあ大丈夫……かな?」


 

 正直HPはかなり減ってる。

 1/4ぐらいしか残ってないんじゃないかな?

 あの蹴りでのダメージもすごかったし、最後俺にのしかかっていた時のダメージも想像以上だった。

 やっぱり重さは力だなー。



「じゃあそろそろログアウトするか」


「うんそうね。……あ」


「ん? どうした鈴」


「あのさぁ、今更言うのもなんなんだけどさ……」


「なんだよ言ってみろよ」


「最初に足音がしてた時ログアウトできたよね……」


「あ」



 くっそぉ!

 そん時ログアウトしてれば、こんな苦労はなかったってのか!

 まあいいけどね……生きてたし。

 まあ……いい……けど、ね。



「本当に混乱してたな、俺たち」


「まあ……ね。すっごいリアルな森で、すっごい雄たけびが聞こえたんだしね。そりゃあ混乱もするよ」


「俺もう森やだー、もし森リアルで行って熊とかと出会ったら、混乱して『戦うぞ!』とか言っちゃいそう……」


「まあ……わかる。人って混乱するとわけわかんなくなるんだね……」



 そんな話をしながら、まだここにいるのは危険だということでログアウトすることにした。


 ログアウトする直前、そういえばステータスとか変わったのかなーと思ったが、また明日確認すればいいかと思い直した。

 どうせまだこのRDOはプレイするのだ。いくらでも確認する時間はある。


 

 俺と鈴は視界の右上のアイコンからログアウトを選択し、意識を現実世界へ戻した。





 結局レベル1で1対1だと気配遮断はあまり役に立たなかったっていう。


 やっぱり戦闘シーンもよくわかりません……。

 読み返してみて違和感がすごいけどどこを変えればいいのかわからないポンコツさ。


 ご意見やご指摘待ってます!

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