初めての戦闘と鬼畜難易度
前話でオークが持ってる武器を剣と書いてしまいましたが、正しくは棍棒でした…。
混乱させてしまうようなことをしてしまい、申し訳ありません。
そして、影潜りのスキルの説明も変更しました。
こちらはもっと罪深いです……。影には10秒ほどしか潜れないことと潜った時間の3倍のクールタウンがあるという説明です。
本当に、本当に申し訳ありません……。
「もういい! 迎え撃とう!」
「わかった!」
そう言って俺らは音のする方へ体を向ける。
「鈴! なにかわかるか?」
「相手がオークっていう魔物だってことと、状態? が怒りだってことしかわかんない!」
「状態が怒り? どういうことだ?」
「わかんないよ。ただスキルの機能なのか頭に情報が流れ込んできて……」
わかってる、これは現実逃避だ。
目の前に迫りくる危険から目をそらしたいのだ。
相手のそのオークも、俺たちが覚悟を決めたのを察したのか、ドシン、ドシンとゆっくり近づいてきている。
日も沈みかけているのか、夕焼け色に染まった木漏れ日は血のようにドロドロとしていた。
「来る……よ」
「ああ」
気づけば鈴の声も、それに返答する俺の声も小さくなっていた。
ピリピリとした空気が肌をなでる。
俺は部活で弓道をやっているが、その試合での緊張とは比べ物ないほど重苦しいそれが充満していた。
息すらも苦しくなるほどの緊張感の中、それは姿を現した。
身体は灰色に濁ったような薄桃色で、所々に醜悪な垢が浮き出ている。
腹はでっぷりと太っていて、しかしその脂肪の下には筋肉の鎧が確かに存在している。
右手には生えていた木をそのまま叩き折ったような巨木の棍棒。長さも凄いが重さこそ想像もつかない。
そもそもその巨躯は2mは超えているように見える。その上で身の丈程の棍棒を持っているのだ。こちらに与える威圧感は圧倒的だ。
吐く息は荒く、その濁り切った眼は俺たちのことを餌としてしか認識していないことがよくわかる獰猛さを内包していた。
あーオークってあのオークなのね……と俺は遅ればせながらに理解した。
「れ、蓮くん……」
「ああ……」
「死に…たくない、よ」
「俺もだ」
鈴の怯えが感じられて、むしろ俺の頭は少し冷静になっていた。
俺だって、どんなに頼りなくともお兄ちゃんなのだ。妹を怖い目には、合わさない。
絶対に死なせない。
それが、兄である俺の意地だ。
しかし、俺に打つ手はあるのだろうか。
今の俺は攻撃手段も少なく、影潜りだってダメージが入ってしまう。
別に俺にダメージが入るくらいはいいのだが、その積み重ねで俺が先に死んだら鈴をここに一人で残すことになる。
そんなことはしたくない。
いや、これも言い訳で、実際はただ死にたくないだけなのかもしれない。
だが。
「頼りなくても、今は頼ってくれ」
「わかった。頼るよ」
鈴のその返事に安心した俺だったが、
鈴の言葉はまだ、終わっていなかった。
「でも、少しは私を信じてよね。『無より有を生み出すは、」
「お前何を!?」
「万物を照らす叡智の炎』ファイヤーボール! 縦切り!!」
何を血迷ったのか鈴は魔法剣を放つ。
そんなに俺頼りなかったか!?
しかし、ここまで待ってくれたオークも流石に鈴の放った技を受けてくれるほど馬鹿ではなかったらしい。
というか、ここまで待ってくれたこと自体がもう奇跡だ。
鈴の放ったその魔法剣に横からたたきつけるように乱暴に丸太を振りぬくと、簡単に鈴の攻撃ははじかれてしまう。
その振りぬきはそれだけにとどまらず、鈴自体も吹き飛ばしてしまった。
「きゃぁぁ!」
鈴の口から声が漏れてしまう。
オークは戸惑いもなくまた鈴に突進して追撃を加えようとしていた。
――ブモォォォォォ――
そうはさせまいと、俺は飛ぶようにオークの前に躍り出る。
「『突き』ぃ!」
ナイフ術の一つ、突きを繰り出してオークのでっぷりと太ったその腹にナイフを突き立てた。
しかし
「刺さんねえ!?」
分厚い皮下脂肪と、その下にある筋肉に止められて刃が内臓まで届かない。
オークは腹に突き立ったナイフを気にせず鈴に攻撃をしようと突進するままだ。
俺がナイフを使って食い止めようとしても少し勢いが減ったくらいで、俺が必死に踏ん張ってもズザザァと後退してしまう。
「止まれぇぇぇ!」
その俺の奮闘のおかげもあったのか、背後で鈴が立ち上がる気配がした。
「鈴! もう一つの方のスキルを使え!」
「わかった! 『ソーラーチャージ』!」
その言葉を聞いて少し安心するが、まだ気は抜けない。
ソーラーチャージは確かに強力だが、バフ系のスキルであるためそれ単体ではダメージを与えられない。
だから鈴の詠唱が終わるまで持ちこたえる必要がある。
「『無より有を生み出すは、」
くそっ!
押し切られる!
俺は何とか足を突っ張った。
今は何故かオークの眼中に鈴しかいないようで、俺に対しては棍棒の攻撃が来ないおかげでなんとか持ちこたえられている。
しかし、オークは棍棒を振り上げたまま進んでくるのだ。
俺がジリジリと後退しているのは確かであり、しかもその勢いは鈴がスキルを使ってからより一層増していた。
もしかしたらレアリティが高い分ヘイトが高いのかもしれないってか詠唱完成はよ。
あーやばい。腕も足も死にそうに疲れた……。
俺死ぬんじゃねこれ? なんかやけに景色がゆっくり見える気が……
「万物を照らす叡智の炎』ファイヤーボール! 蓮くんどいて!」
はっ!?
やっと鈴の詠唱が完成した!
俺は素早く横に跳びのき、鈴の射線を確保する。
そしてーー
「『縦斬り』ぃぃ!」
俺がどいたことで身体の自由を確保したオークは、棍棒を振りかぶって鈴の魔法剣を受け止めようとする。
ーーガキィィィンーー
鈴の魔法剣をと棍棒がぶつかった瞬間、片方が木製だとは思えないほど硬質な音が響いた。
先ほどはその攻撃で吹き飛んでしまった鈴だったが今回はスキルの影響もあってかオークの棍棒としのぎを削り合っている。
しかしそのまま膠着状態が続いてしまう。ステータスが3倍になったとしてもまだオークのステータスを越せてはいないようだ。
だが、やはり魔法剣の効果は大きかった。オークの棍棒に鈴の剣が当たっている間、少しずつオークの棍棒が焦げていっているのだ。
俺も何かしないと!
気休め程度にしかならないかもしれないが、俺もオークにナイフを突き立てる。
スキルはある程度は連続して使えるが、何度も連続して使うとなんというか胸が苦しくなるような感覚があるのだ。
これが噂に聞いたことがある技後硬直とかなのかもしれない。違うか。
何が言いたいかっていうと、ナイフのような手数が必要な武器だとそんなにスキルを連発できないということだ。
「おりゃあ! 『突き』ぃ! これで! どうだ! 『切り裂き』ぃ!」
所々で覚えている二つのスキルを交えながら俺はわき腹を切りつけるが、一向に効いた様子はない。
対して鈴とオークは力が拮抗しているようだ。
つばぜり合いが終わり、その後も何度か剣を打ち据えあったがどちらも決定打に欠けている。
俺はと言えば、横からさっきのようにちょこちょこ攻撃を加えていた。
影潜りのスキルも併用しながら行うが、いかんせん木漏れ日が邪魔をする。
影に潜ったところで木漏れ日が檻のように張り巡らされているため、常にダメージを喰らってしまうのだ。
鈴も打ち合いに集中しているせいで魔法の詠唱ができず、かと言って俺が時間を稼ぐこともままならない。
これ詰んでるだろ絶対!
運営は何を考えてこんな序盤の敵を強くしてんだよ!
あ、何も考えてないのか……。
いくらナイフを突き立てても、固い筋肉に阻まれてしまう。
「っと危ねえ!」
オークの振り回す棍棒が当たりそうになった。
「大丈夫!? 『横薙ぎ』ぃ!」
鈴がまた棍棒を対応してくれるが、しかしそれにもタイムリミットがある。
あのスキルを使い始めて何分経った?
3分間しか効果がないというタイムリミットも念頭に置いて闘わなくてはならない。
俺は身長的に一番切りやすいのが腹だったので、さっきから腹ばかり切ってしまっていた。
しかしそれじゃああまり効果がない。
かと言って首やなんかには攻撃が届きそうもないし……。
――ブモォォォォォ!――
オークが野蛮な声を上げながら振り下ろす棍棒を、鈴は横に飛ぶことで回避し、さらにその腕を切りつける。
「『縦切り』!」
――ブモォォォォォ……――
これはきちんとダメージが入ったようだ。
オークの右腕に少し剣が食い込んだのがわかる。
それと同時に、俺の視界の左上の方で何かが点滅した。
って、え!? 左上んとこにオークのHPバー表示されてんじゃん!?
っていうか俺と鈴のHPバーも!
くそっ! あまりに混乱し過ぎてこんなことにも気づかなかったのか!
鈴に知らせなきゃ!
「鈴! 左上のHPバーを参考にしろ!」
「わかってるって!」
わかってたらしい!
オークのHPは半分ほど削れていた。多分今までの打ち合いの蓄積ダメージだろう。少しは俺のナイフのダメージもあるかもしれない。
対する鈴のHPも、打ち合うごとに少しづつ減ってはいるが、スキルの影響なのかそのほとんど減っていない。
もしかしたらまだ希望はあるかも!
っていうか俺と鈴のHP違いすぎだろ。俺の4,5倍くらいありそうだぞ? オークのHPもそれぐらいあるし……。
「はあっ! 『横薙ぎ』ぃ! えりゃっ!」
――ブモォォォォォ!!――
鈴とオークの攻防がまた激しくなってきた。
これじゃあまともに近づくこともできねえ。
っていうかオーク、ブモォォォォォ以外になんか言いやがれこの豚野郎!
うおっ!
また棍棒が目の前を通り過ぎた。
俺は鈴と違って前衛職じゃないので、防御力もHPも鈴より少し短いのだ。
まともに喰らったら死ぬかもしれん。
今まで切り付けた分、オークの腹は割と傷だらけになっているが、やはりそれはどれも浅い傷だ。
不思議と血が全く流れていないのは、流石に血液の描写をすると気持ち悪くなる人がいるというゲーム的配慮なのかもしれないが、だったらもっと難易度下げやがれ!
とにかく、オークには血液が流れていないので失血死を待つということもできなそうだ。
変なとこにリアリティ求めるくせに失血死も導入してないなんてクソゲーだ!
まあ運営に八つ当たりしても仕方ない。
色々試してみよう。
俺はオークと鈴の打ち合いのタイミングを見計らって攻撃をする。
「『突き』ぃ! 『突き』ぃ! 『突き』ぃ! がはっ!」
っ痛ぇ!
あーくそ、三連続で使うと胸が痛くなるな。
じゃあ今度は!
「『切り裂き』! 『突き』! 『切り裂き』! 『突き』! 『切り裂き』! 痛っ!」
違うスキルの組み合わせなら4回はできるのか。
今まで鈴は大体一撃で敵を倒してしまっていたから多分知らない情報だ。
それに、同じところに連続で攻撃できたおかげかかなり深く切りつけることができた。
HPも割と削れたし、重畳重畳。
「鈴! 2回までなら同じスキルもつなげられるぞ! 違うスキルなら4回大丈夫だ!」
「っ!? わかった! 『横薙ぎ』ぃ! 『縦切り』ぃ! 『横薙ぎ』ぃ!」
――ブ、ブモォォォォォ――
最初の横薙ぎで棍棒をはじき、それでも追いすがる棍棒を次の縦切りで叩き伏せる。そして、横薙ぎでオークの腹に一閃を入れる。
流石にこれには堪えたのかオークのHPががくんと減り、残りのHPは1/3ほどに見える。
これは、いけるかもしれない!
さらに、一気にダメージを受けてひるんだオークに鈴が追撃を放つ。
「最後に! 『縦切り』ぃ!」
しかし鈴が渾身の力で放った一撃を、オークはギリギリのところで棍棒で防いだ。
さらに、どちらも耐久値の限界を迎えたのか、光のエフェクトとなって消えて行ってしまった……。
これにはさすがに驚愕を禁じ得ない。
リアルさはどうしたんだよ……、こんな急にゲーム感出されても困るんだが。
まじで意味わかんねえ……。
「え……」
と、俺と同じく驚愕に動きが止まった鈴を、オークが裏拳で弾き飛ばす。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「大丈夫か! 鈴!」
数m飛ばされた鈴に、俺は慌てて駆け寄る。
右上のHPバーを確認すると、1/4ほど減っていた。
しかしまあこのくらいならスキルの影響で回復できるだろう、そう思っていた矢先、鈴のHPが急に1/3ほどになる。
は!? 急にどうしたんだ!?
「ごめん蓮くん……、スキル切れたっぽい……」
「今ぁ!?」
「ごめん……」
「いや…いいんだ……。っていうか俺のほうこそごめん」
そうだよ忘れてた。
俺の方が兄なんじゃないか。
っていうか戦う前になんか頼りにしてくれ的なこと言ったけど、結局鈴に任せっぱなしだったじゃないか!
あー、俺最っ低だな。
最低限の兄としてのプライドすら、もうあってないようなもんだ。ズタボロだ。
オークの方を振り向くと、ちょうどゆっくりと立ち上がるのが見えた。
武器が無くなったにも拘らずいまだ戦意は衰えていないのか、スッと両拳を顔の前に構えている。
――……――
いやなんか言えよオーク!
ともかく、武器もなくスキルも使えなくなった鈴はもう戦えないだろう。
俺は、そんな鈴とそのズタボロになったちっぽけなプライドを守るために武器を取ろう。
「鈴、今度こそ、任せてくれ」
「え゛」
鈴がなんか「どの口が」的なことを思っていそうだが、それは置いておく。
とにかく俺は、オークに向かってナイフを構えた。
色々と変更してしまいまして申し訳ございません……。
時間に追われながら書いているときなどはあまり深く考えずに色々書いてしまうことがあり、そのせいでボロボロになってしまっていたりします……。
もっとちゃんと考えて書くようにさせていただきます。本当に、本当に申し訳ございませんでした。
あと、戦闘シーンめっちゃ難しいです、、、
【加筆修正のお知らせ】
・早速最初のオークがオーガになってました所を修正いたしました。直前に直したつもりが保存し忘れてたっぽいです。申し訳ありません。