第九話 雪女
第九話
雪女
「結局のところ、ルゥム姐さんの神体ってどんな能力なの?」
道すがら、カルノレットはルゥムに尋ねる。
「それ、アタシも驚いたんどけど、やっぱ名乗りって神通力上がるのよね。本来、アタシの神の翼は矢の軌道、羽の軌道を風で操るって程度だったのよ。でも神通力が上がると嵐を起こすほどにまでなるのよね・・・。」
名乗りを上げる、神に、世界に存在を刻む、その結果神通力が増加し、神具・神体の能力が向上する。ただそれだけのことだったがルゥムはその恩恵をしみじみと実感していた。
「あぁ、だから予想外動きをするの狙撃ができたのですね・・・」
セツナが溜息を吐く・・・神体の能力とはいえ、狙撃に気付くのが遅すぎ、シゲノブがいなかった場合リオウを護ることができなかったことを悔いていた・・・溜息はすぐに白く変わるほどに気温が低かった・・・というより、ひどい降雪地域へと入っていた―――――
「それにしても・・・寒いわねぇ・・・」
「リオウなら寒さを何とかすることもできるんでしょ?『雪よ、止め!』とか言えば」
「まぁ、可能だが・・・さすがに天気に干渉する気は起きないな・・・」
「確かに、天気に文句をつける王は嫌よねぇ・・・」
「こんな豪雪・・・自然のものなのだろうか・・・」
リオウが懸念する、それもそのはず、除雪をした道を歩いていたが、その除雪をした雪が壁を作り、身長を超える壁は雪崩れたら生存することが困難であることを悠然と語る白き壁となっていた。
「・・・・・・雪女?」
町に入ったリオウ達は町の民に豪雪について尋ねていた。
「はい、確かに元々この地は降雪地帯です。ですが、数年前にこの町のさらに北に氷の城ができてからは、気温も更に下がり、雪の量が増え・・・その城には雪女が住むと言われています・・・」
「雪女の詳しい情報は?」
「いえ、それが・・・」
得られた情報はそれだけだった・・・
「・・・セツナ、どう思う?」
「氷の城に雪女・・・恐らく神具・神体がらみかと・・・」
「でも、こんな広範囲に雪を降らせるなんて・・・どんな神通力なのよ・・・」
「確かに・・・氷の能力だとしても、城を作り、周囲に影響を及ぼし続けるなんて、普通じゃできないよな」
「オレみたく天才だとしたら・・・」
「・・・カルノレットといえど、神通力を無限に放出できるわけではあるまい・・・・・・いや、でも・・・」
「リオウ様・・・?」
「そういえば、神通力を扱える量って個人差があったと思うのだが・・・」
「えぇ、人によって、神具・神体をどの程度扱えるかはその神通力の量によります。例えば、シゲノブ様ですと、神通力を大きく消費すると、より強い引力が発生します。少ない消費ですと惑星を引き寄せることはできませんから・・・」
「・・・うむ。」
「だとすると、もしこの雪が神具・神体のものだとしたら・・・」
一同が戦慄する
「――――――雪女とやらは相当な使い手だろう。」
リオウはワクワクしたように、静かに笑った。
『雪は我々を襲うことはできない』
氷の城へ向かうリオウ一行。あまりにも強い吹雪に襲われたため、リオウは能力を使うこととした。
「・・・リオウ、あれ・・・誰か倒れてない?」
吹雪の中、一人の女性が倒れていた。
「まさか、雪女?」
カルノレットが可能性を示唆するが・・・
「いやいや、雪女が自分の吹雪で絶命寸前とかアホ過ぎるでしょ!」
反射的にルゥムにツッコミを入れられる。
「蛇が自分の毒で死ぬ、みたいなものか・・・」
カルノレットも冷静にあり得なさを実感する。
「そんなこと言ってないで一旦町へ戻る。介抱しなくては・・・」
リオウ一行は氷の城の前に女性を町へ運ぶため、もう一度町へ戻るのだった・・・
―――――――パチッ・・・パチッ・・・
暖炉の炎が燃える音だけが部屋を満たしていた。
「・・・・・・ん・・・んぅ・・・? あれ・・・? ここは・・・?」
「気が付いたようだな。」
「え?あなたは・・・?」
「我はウェルドラド第一皇子リオウ、この町の北にある氷の城へ向かう途中に貴女を見つけたのだ。」
「・・・そうですか・・・ご迷惑をお掛けしたみたいで・・・」
「貴女は?どうしてあんな吹雪の中に?」
「・・・私は、リズと申します。私は、氷の城へ行った帰りで、あまりの吹雪に・・・」
リズと名乗った女性は申し訳なさそうに言う。
「なぜ氷の城へ?」
「・・・・・・謝りに・・・」
リズは続ける、氷の城に住む雪女との関係を――――――――
「氷の城の雪女と呼ばれる子、ソフィと私は親友でした。第一、ソフィは昔は普通の子で氷なんて扱うところはみたことありませんでした。だったのですが、ある時、私の家でソフィと居たときに、私達は強盗に襲われました。その際に、ソフィはずっと隠していたであろう神体の能力で私を守ってくれました。・・・ですが、ソフィは初めて使う能力を制御することができずに町ごと凍らせてしまったのです。町は機能しなくなり、ソフィは雪女として迫害される様になり、町を出て、氷の城に籠る様になってしまったのです。」
「・・・だから、貴女は謝りに行っていたのか・・・」
「・・・はい、私の所為でソフィは・・・」
リズは後悔からか涙してしまう。
「・・・強すぎる能力の暴発・・・」
「皮肉なものね。守ろうとして使った能力で、逆に他の人を困らせてしまったなんて・・・」
「リオウ様・・・どうか、どうか私の友を、ソフィを、救って下さい・・・私には謝ることしかできなくて・・・」
「心得た。・・・それでは、我々は再度氷の城へ向かおう。」
そうして、リオウ達は再び氷の城へと向かうのであった。
「それで、雪女さんは神体持ちらしいけど、リオウは仲間に誘うの?」
道中、カルノレットがリオウに尋ねる。
「話を聞く限り、友人を護るために隠していた能力を使える様な立派な人の様だし、その気はあるが・・・帝都を氷漬けにされるのも困るんだよなぁ・・・どうにか制御ができるようになっていればいいのだが・・・」
帝国最強と言われるリオウの魔術は言ったことを現実にする魔術、しかし生物への干渉はできない。つまりは氷を砕くことはできても、その能力の制御をさせることはリオウにはできなかった。
「こればっかりはなぁ・・・」
自分の不甲斐なさを感じつつ、リオウは氷の城へと向かった。
「・・・・・・でかっ!!」
「これが・・・氷の城・・・ですか・・・」
「ほう・・・」
「・・・思ってたよりも透き通ってないというか・・・白いわね・・・」
氷の城を見たリオウ一行は思い思いの感想を口にする。
「・・・この城の成り立ちを考えれば白くて強固であることは予想がつく・・・」
「・・・拒絶の能力・・・」
シゲノブが珍しく口を開く
「やはりシゲノブもそう思うか?」
「・・・某の刀も拒絶するところから成り立っているからな・・・何となく、同じ雰囲気は感じる・・・」
リオウの問い掛けに対し自らの間合いに入ったモノは全てを刻む剣士シゲノブはそう言う。
「・・・でも、リオウ、もしこの城がそういう目的でできたものなら、入ることってできないんじゃないの?」
「・・・だろうな。『扉よ、開くのだ!』」
リオウの魔術で開くことのなかった扉が開き―――――――
リオウは開いた扉から堂々と城の内部へ入って行く―――――――
「何だろう、この人の心に土足で踏み入るような申し訳ない心境・・・」
「ワタクシもそう思います・・・」
「まぁ、でもアタシは、リオウがそういう王だからこそ、全てを委ねられるんだけどね。」
「確かにね・・・」
仲間達はリオウの大きすぎる器を改めて目の当たりにするのだった・・・
城の最上階にある部屋には、氷の中に閉じ籠った白い長髪の女性がいて、その左腕は白い光を放っていた・・・
「あの輝き、神体の能力が発現してる光だ・・・美しいな・・・」
リオウは部屋に入ると、その白さにそう呟いた。
「つまり、あの方がソフィ様ということですね。」
「ただ・・・その横にいる氷の巨兵は・・・動くわよね?」
「そりゃあな・・・ただのオブジェとは思えないよね・・・」
「巨兵はお前達に任せるぞ。」
リオウはそう言うと、氷の壁に閉じ籠ったソフィへと近付く―――――
―――――――ゴゴゴゴゴッ!!
氷の巨兵はリオウを拒絶しようと動き出す――――――――
「オレらの王はホントに無茶振りしてくれる!!オレみたく天才じゃなきゃそれに応えるのは無理だぜっ!!『火遁・豪○球の術』!!」
――――――ゴウッ!!
カルノレット炎が巨兵とリオウの間に割って入り巨兵の動きを止める。
「カル!!ナイス!!フェザーシュート!!」
ルゥムも羽を突き刺すが、氷の巨兵には効果は薄かった。
「ルゥム様は相性が悪いです。援護に回って下さい。『グラインドエッジッ!!』」
―――――ガガガガガッ!!
セツナは高速で小太刀を巨兵に切りつけ、削り取る様にダメージを与える。
「『神の息 氷集め』」
シゲノブは後方でセツナが削った氷を集め、視界を保つ。
「貴女がソフィさんか?」
戦士達に巨兵を任せ、リオウは氷の中のソフィへ語り掛ける。
「・・・言葉を発する気はない、か・・・とりあえず名乗らせてもらおう。我はウェルドラド第一皇子リオウ。・・・貴女を迎えに参った。」
「・・・・・・。」
氷の女性は答えない
「・・・まぁよい。貴女の気持ちはこの氷の城と、氷の巨兵が語ってくれている。・・・この巨兵、貴女の拒絶の想いが強く込められている・・・それ故に非常に強固だ・・・だが―――――」
リオウは言葉に能力を込める。
『氷の城も、氷の巨兵も我が前では溶け、そして消失する―――――。』
リオウが言うと、その言葉の通りに氷の城も巨兵も溶け、消え―――――その場にはリオウ達とソフィだけになった。
「・・・・・・。」
リオウとソフィは対峙する。ここでようやく互いに目を合わせた。
「貴女がどれだけ拒絶しようと、暴走しようと、友を救うための正しき能力なら、我が全て、何度でも溶かそう。 ・・・・・・だが、我ができるのはそれだけだ。貴女の心を溶かすことは我が能力でもできない・・・いつか、ソフィが我を信じてもらえるよう努力するから、だから、その日まで我と共に、戦士で・・・そして、我が姫でいてくれないだろうか?『空の戦士 白雪姫』よ。」
リオウの心からの告白・・・
それにソフィは初めて口を開き、答える。
「はい・・・この『空の戦士 白雪姫』その名が名だけでなく、本当の姫となる日を待ちわびております。」
拒絶の能力はこうして収まったのだった―――――――
「ソフィ・・・私の所為で、ごめんね・・・」
町に戻るとリズがソフィへ何年もの間、伝えたくて、でも伝わらなかった言葉を伝えた。
「ううん、リズの所為じゃないよ・・・リズを護ろうとしたのに、ずっと困らせたみたいで・・・こっちこそ、ごめん。」
こうして、雪女はいなくなり、新たに白雪姫が誕生きたのだった――――――
そして、神の左腕を持つソフィを仲間に引き入れ、リオウと共に戦う戦士達が集結したのだった。
なんとか間に合いました。ユーキ生物です。
予告通りかなりギリギリでした。・・・なんか毎回ギリギリな感じもしますが・・・。
さて、これにて戦士集結編が終わりとなります。物語はまだ終わりませんが・・・
とりあえず節目ということで、次回更新は一週空けさせてください。次章および次々章のプロットを書かせて下さい。この物語を考えた際は戦士が集まったらすぐさま玉座決定戦に入っていて味気ない、ということで追加した章なので、プロットもかなり疎な状態ですので・・・。でも一応次章はほとんどプロットできてますので、一週でなんとかしようと思います。
さて、リオウサイドの名前ですが、シゲノブは漢字で書くと重信です。引力使いですから重力の重の字を、というだけで決めました。カルノレットは天才というテーマだったので、偉人の名前からという縛りのもと、たまたま手元にあった教科書のカルノーさんからもらいました。
そして、ソフィとルゥムはマジでなんの由来もありません。強いていうなら各キャラにイメージとか属性とか付けてるので、それっぽいの、という感じです。
では、次回、新章「輝きの王編」で。
次回更新は11月4日(金)を予定しております。