第八話 弱虫シューズ
第八話
弱虫シューズ
「そう言えば、帝国戦士って何人必要なんですか?」
不意にキララがそんな質問を投げ掛ける。
「五人です。今まで通りの決め方ですと、次期皇帝の決戦では、五人の戦士がそれぞれ一対一で戦い、勝った者のみがヒカル様とリオウ様との戦いに参戦する権利を得て、その二人の戦いで勝った方が次期皇帝となります。」
「へー。」
「それだとオレらが戦う意味無くないか?最初から六対六でよくない?」
「まぁ、そうなんですけど、戦士の奮闘も最後の戦いで有利不利に関わります。ましてや、言葉を司る王族ですから、どうしても戦闘では後衛に回ってしまいます。前衛をどれだけ張れるかということも重要になります。」
「なるほどね。」
「・・・だとすると、ベルさん、コウさん、レイラさん、と近接戦闘を主とする戦士が多いですから、遠距離系の戦士が欲しいところですか?・・・私は雷撃で遠距離いけますが。」
「キララって、ちょいちょい毒を吐くよな。」
「そうだね・・・確かに、リオウがどんな戦士を集めてるかわからないけど、敵の弾幕に裂け目を入れて切り込める遠距離系の戦士は確かに欲しいかも・・・まぁ、でもボクは心意気の方が大事だと思うよ。」
「・・・・・・あれ?」
そうこう話している間に、ヒカル一行はとある家が目に入る―――――
「おぉいっ!!いいから出てこいやぁ!!」
「出てこないと話もできねぇだろうが!!」
穏やかではない連中が、とある一軒家の前で叫んでいた。
「・・・騒がしいな。」
「何者でしょうか・・・?」
「失礼、あなた方はこのようなところで何をなさっているのですか?」
ベルが連中に話し掛ける。
「あぁっ!?・・・チッ・・・んだよ、仕事の邪魔すんなよ・・・」
そう言うと、連中は全員逃げる様にどこかへ行ってしまった。
「・・・何だったのでしょうか?」
「とりあえず、家の人に聴いてみようか。」
「・・・呼んでも出てきますかね?さっきの方々があれだけやって出てこなかった訳ですから・・・」
「・・・確かになぁ・・・」
―――――――ガチャッ
「ヒカル様、鍵を開けました。どうぞ、中へ」
「ベルさん・・・ピッキングなんて出来たんですね・・・」
「いつ、いかなる時もヒカル様のもとへ駆けつけるために、ピッキングは必須スキルですから。」
「ベル・・・恐るべきストーカースキル・・・」
キララ、コウがベルの技術に戦慄する・・・
「ベル姉はボクの部屋にもすぐ入ってくるからね、できると思ってたよ。」
「謎の信頼!?」
そう言いつつ、ヒカルは家へと入って行く――――――――
「失礼します。」
「―――――――!? あなた達、どうやって!?」
家の中には一つの家族がいた。見た感じ夫婦とその息子の三人家族のようだった。
「ボクは、ウェルドラド第二皇子のヒカル――――――」
ヒカルは自分達のことを話し、先程の連中のことを尋ねた。
「お恥ずかしながら、いわゆる地上げ、というだけの話です。」
「地上げ?」
「この土地に何かを作るから、立ち退いて欲しい、というやつです。」
「なるほど、でも、立ち退きたくはないと?」
「・・・はい、これでも当家は先祖代々神具を奉る家でして・・・この土地に在ることもそれなりの意味を持つことなのです・・・」
「へぇ・・・神具を・・・」
「神具で戦わないのですか?」
当然の様にコウは質問する。
「我々の神具は、逃げることしかできない神具です。戦うなんてもってのほかです・・・ましてや、神具を使える体力があるのはこの子だけ・・・この子、カケルは地上げの件もあり、本当に臆病に育ってしまいまして、戦うなんてできるわけがありません・・・」
そう話す当主の後ろで、少年が隠れていた。
「逃げるだけの神具、ですか?」
「はい、『神の靴 韋駄天』は速く走ることを可能とする、という神具です。」
「『可能とする』・・・まだるっこしい言い回しですね。」
「えぇ、この靴は速く走ることが出来ますが、その際の身体的能力、体力は使い手のモノを使用します。ですから、体力がない私などでは大した速さにもなりませんし、ましてや、すぐに疲労で走れなくなってしまいます。こんな逃げることすら満足にできない神具では、何も・・・」
「・・・ふぅん・・・」
「・・・・・・。」
その話を聞きながら、レイラ、キララは思うところがあるようだった。
「すみません、ちょっと私達とその子、カケル君、少し話をさせてもらってもいいですか?」
だからなのか、レイラはそう言い出し、カケルを連れて別室へと向かって行った。
その後を、コウとキララも追った。
「すみません、勝手に上がり込んで、しかも込み入ったことに首を突っ込んだりして・・・でも、彼らなら、きっとカケル君の意識を変えてくれますよ。」
「・・・彼らは、何者なんですか?」
「・・・王が信頼する仲間です。」
―――――――別室、そこにはカケルに向かって、キララ、レイラ、コウが座っていた。
「どうして、戦わないの? 神具を持っていて・・・キミが家族を護らないでどうするの・・・」
レイラがカケルを問い詰める。その目は真剣そのものだった。
「・・・さっきの通り、弱いから・・・僕には、無理だよ。戦うことなんて、無理・・・」
おどおどしつつ、カケルは口を開いた―――――――
「弱い、ねぇ・・・そんなの、戦わない理由にはならないな。」
その言葉について、コウが反論する。
「えっ・・・?」
「オレら帝国戦士は別に強いから戦士になれた訳じゃない。・・・戦う理由があるから戦士なんだ。・・・・・・オレは、友と恩師のためにオレの剣術が最強だと証明するために戦ってる。神具なんてオマケだ。」
「アタシだって、そう。父さんみたいな戦士になるって夢ために修行して、戦ってる。神体は何の攻撃力もない、強くなんてないモノだけど、それでも目的があるから、頑張れる。」
「私は、私を救ってくれたヒカルさんの役に立ちたいから、武道なんて今までやったことなかったけど、できることをして戦ってるの。」
「弱い能力だろうが、戦闘経験が無かろうが、戦う理由があれば戦うんだよ。弱い能力を最大限活かして、自分のできることをするんだ。それは諦めることじゃねぇ。」
各々の戦う理由をカケルに話し、不器用に背中を押す。
「どれだけ困難な壁があっても・・・」
コウがカケルの手を取る―――――
「自分の非力を嘆くことなく」
鬼の呪いを受けたキララが続き―――――
「唯ひたすらに努力して」
努力のみを武器に戦うレイラがカケルの肩を叩く―――――――
「失敗することだってあるけど、それでも前へ進むんだ。」
友の死に屈することなくより強く歩を進めるコウが発破をかける。
「僕も、僕でも強くなれるかな・・・」
カケルは不安ながらに前へと進み出そうとする――――――
「無理だな。」
それを遮ったのは部屋に入ってきたヒカルだった。
「えっ・・・?」
「強くなるのは簡単じゃない、ただひたすらに努力を積むしかない。そうだよね、レイラ?」
「・・・うん、そうだね。」
「じゃあ、僕はやっぱり・・・」
「弱くても、戦うんだ―――――」
兄と比べられ、弱いと言われ続けた皇子は続ける――――――――
「―――――どれだけ弱くたって、叶えたい願いが、存在意義が、揺るぎなき目標が、護りたい者が、譲れないものがあるのなら、正々堂々立ち向かえ、己の全てをもって戦うんだ。」
「・・・・・・・・・。」
―――――――――夜。
カケルの家に向かう炎の列ができていた。
「アイツら、神具使いの戦士達らしいから、邪魔されたら厄介だ。」
「だからこんなに大勢で家を燃やしに行くんっすね・・・。」
地上げ屋は500を超える人数でカケルの家を燃やそうとしていた。
「――――――やっぱ、簡単には燃やさせてくれないようだな・・・」
そう言う地上げ屋の視線の先には、カケルの家への道を遮る人の影――――――――一人の王と、四人の戦士、そして、小さな勇者が一人いたのだった。
「それじゃあ、作戦通り、ボクとベル姉が防衛、コウ、キララ、レイラ、カケルで攻撃、殲滅で。」
各々が頷き、散開する――――――――
「うっ・・・・・・」
しかし、カケルは少し進んだところでその足がすくんで立ち止まってしまった・・・
「カケル君!?」
「くっ・・・仕方がない、オレらで殲滅するぞ!!」
コウがカケルの穴を塞ごうと動く・・・・・・
「くそっ、殺す訳にはいかないし、抜刀できないから・・・やり難い・・・!!」
剣士コウは苦戦させられる――――――
「“小解放 ノーブレスダンス”」
バチバチバチッ!!
キララは槍に蓄えた雷を纏い、息をもつかせぬ雷速の槍捌きで殲滅を行う。
「はぁっ!!“引き波っ”」
レイラは波が人を飲み込む様に、巧みに近付く相手を他の地上げ屋に投げつける――――――
―――――が、相手は500を超える人の波
「―――――しまった!!」
たった三人で防ぎきることは困難で十数人が三人の猛攻を潜り抜けてしまう・・・
―――――潜り抜けた先には、立ち止まってしまったカケルがいた。震える足で視線を反らし、逃げ出したい思いを押しつぶし、護りたい人のために、立ち塞がる。
「逃げることしかできない雑魚は引っ込んでろっ!!」
地上げ屋は松明をカケルと奥に控えるヒカル、ベル、そしてカケルの家へと投げつける――――
「僕は、逃げることしかできない―――――――でも、もう、戦うことからは逃げないっ!!」
弱くてちっぽけな少年は、小さな、しかし力強い一歩を踏み出す――――――
「駆けろっ!!『韋駄天』!!」
――――――――ゴウッ!!
カケルの神具『神の靴 韋駄天』は人間の力では不可能な急加速を実現する。
「・・・・・・な・・・何が起こった・・・!?」
地上げ屋達は驚愕する―――――――投げつけたはずの十を超える松明が全てカケルにキャッチされ、カケルの足元に転がっていた―――――
「クソッ!!もっとだ!!もっと多くの火を放てっ!!」
地上げ屋達は先程の倍近い松明を同時に投げ付ける。
「無駄だよ。」
―――――――――ビュオッ!!
一瞬、風を巻き起こすと松明はカケルの足元に置かれていた――――――
「チッ・・・面倒だな・・・お前、その神具は厄介だが、そうやって松明を回収するだけじゃ何も状況は変わらねぇぞ。そうさ、お前に何ができる!?俺達は未だに無傷だぜ!!」
「・・・確かに、僕の能力じゃダメージは期待できない・・・でも―――――――」
カケルは視線を先へと向ける―――――――
「―――――そうすることで、オレ達に繋げることができる。」
地上げ屋の背後からコウが現れ、その肩を叩く――――――――
「て、帝国戦士!?――――――まさか、こんな短時間で――――――」
地上げ屋の視線の先には500の人の山ができていた―――――――
「経験値、御馳走様でした。」
レイラは満足そうに呟き――――――――
「はぁ・・・はぁ・・・雷で強化しても、この数相手はさすがに腕がパンパンになるわ・・・」
キララは少し疲弊しているように槍を下ろす。
「――――――カケル、上出来だ。後はオレに任せとけ。」
コウはそう言うと拳を構える。
「すまんな、カケルほどは速くないが、こいつで勘弁してくれ、『鬼神流 無刀 鈍突っ!!』」
刀での刺突の様に拳を繰り出す――――――
穏やかな夜が戻ってきたのだった。
「え?僕を帝国戦士に!?」
翌朝、ヒカルはカケルを帝国戦士にスカウトした。
「そうだ。弱きを救う国を作るために、カケルが必要なんだ。」
「うっ・・・でも、僕には家族が・・・」
「それに、ちょうど遠距離型に対抗できる戦士が欲しかったんだ。カケルは遠距離型じゃないけど、その速さなら弾丸とか避けられるだろうし。」
そう二の足を踏むカケル、しかし、その背中を両親はそっと押す。
「私達は大丈夫、まだそこまで老いてない、だから今のうちに少しずつでいいから強くなって―――――――そしたらまた強くなったカケルに護ってもらうから。」
「カケル、お前の小さな、でも確固たる勇気で国を護るんだ。」
「では、ウェルドラド第二皇子ヒカルより、帝国戦士としての名を授ける『大地の戦士 アースェアブレイブ』よ。」
「・・・はい。この『大地の戦士 アースェアブレイブ』勇気を出して、前進していきます。」
こうして、弱くて速い戦士カケルを率いることとなり――――――――
――――――――――ヒカルと共に戦う五人の戦士が集結したのだった。
どうも、ユーキ生物です。
第八話をお読みいただきありがとうございます。これにて戦士集結編ヒカルサイドは終了になります。次回のリオウサイドで戦士集結編は終わりになり、新章へと移ります。
・・・なのですが、次回の第九話の投稿がかなり危ぶまれております。当初のプロットから大幅に変更追加を行った結果、プロットがまだ上がってません。不甲斐なくて申し訳ありません。ただ、少なくとも変更前よりはよい作品になっているはずなのでお許し下さい。
ですので、一応次回投稿は一週間を予定しますが、変更が過去で一番あるとご了承下さい。一応戦士集結編が終わったら新章のプロットを練る期間を勝手ながらいただく予定なので、切りよくいける様に尽力いたします。
では、前回の後書きからの流れで名前の由来を・・・今回はヒカルサイドです。ヒカルとベルは後の話に関わるので、とりあえず後回しにさせて下さい。このまま忘れそうですが・・・
ちなみにカケルは走るので“駆ける”でカケルです。ひねりなんてありません。そして、レイラは“流れ”をイメージするワード、という縛りをし、その結果“ら”行の言葉を多く含む名前、ということになりました。“流”は“る”とも“りゅう”とも読むので「ら行」のイメージが私の中にあったからです。キララに関しては雷よりも“輝く”というイメージで、せっかくだしきらきらネームでもいいか、という適当な発想の被害者です。
そんな感じで、名前を決めるのは得意ではないので、イメージとかで決めてます。
では、また、次回。
次回は10月21日(金)の更新を目標としています。