第七話 最高の報酬
「それで、任務は受けるのだな?」
「んー、『第一皇子リオウの暗殺』ねぇ・・・」
「リオウの魔術は世界を消すことだって可能な危険なものだ。何としても成さねばならぬのだ。」
「悪い子には見えないけど・・・」
「リオウを殺せる人間なんてそうそういない、任務の成功はお前の傭兵としての名を上げることは間違いない。そして、お前ならそれが可能なのだろう?」
「んー、まぁ、この『言ったことが現実になる魔術』なら弱点があるからねぇ・・・アタシならそこを突くことは――――――」
言葉の主はニヤリと笑う―――――――
「――――――得意中の得意かな。」
第七話
最高の報酬
「・・・はぁーっ・・・息が白くなるね。」
「だいぶ北まで来ましたから、この地域では一年の半分以上は降雪するらしいです・・・」
「あぁ、だからこの辺の建物は背が高いんだ。」
「カルノレット殿は孤児と聞いていたが、以外と知識があるのだな・・・まだ若いというのに立派だな。」
「まぁな。天才だから。」
「知識と才は関係ない。天才だろうと知らないものは知らないはずだ。」
「さすがリオウ、まぁ、その通りで、教会の司祭様が勉強熱心だったから・・・」
「そういうこと・・・」
リオウ達は寒冷地へとたどり着いていた。降雪に備え階層の高い建物が並ぶ街並みは―――――――
「―――――標的確認・・・・・・『神の翼』・・・」
――――――――奇襲をするのにはもってこいな環境だった。
――――――ビュオォォッ!!
建物の影で神体を発現させると、風向きが変わった――――――
「・・・・・・シュート。」
暗殺者はひっそりと呟き、絞っていた弓より矢を放つ――――――
(王族だけでなく、魔術師全てに当てはまる弱点・・・それは奇襲、魔術を唱える前に気付かれずに仕留める、ただそれだけ。)
「ここからもう少し北へ行くから、この町で寒さ対策を―――――」
ヒュンッ―――――――
そう話すリオウに上空から垂直に矢が落ちて、地面に近付くとその軌道は水平に変わりリオウへと向かって飛ぶ、そして―――――――――
――――――――キィンッ!!
「如何なる物も、如何なる時であろうと、我が間合いを抜かせはさせぬ」
――――――シゲノブの居合いに阻まれた。
「いったいどこからですか・・・こう建物が高いと・・・」
「それならオレが・・・」
正体不明の相手に焦るセツナ、それを見てカルノレットが打ち落とされた矢を片手に神の聖典を開く――――――――
「鏡よ、鏡、この矢の持ち主は誰だ?」
カルノレットがそう唱えると、目の前に鏡が現れ、暗殺者の姿を映し出す―――――――
その姿は見るものを魅了する美しき容姿をした女性、そして何より目を惹く―――――
「綺麗な翼―――――」
――――――純白の翼があった。
「なっ―――――――!!」
暗殺者は自らの姿を確認し、逃走を始める。翼で飛行し、高速で去る―――――
「追うぞ。『風よ、我々を翼を持つ者まで運ぶのだ』」
リオウはすぐに追跡を開始する。
「・・・あり得ないでしょ・・・どうして音もなく迫るあの矢を打ち落とせるの!?」
暗殺者は任務の失敗を振り返る、彼女の経験では常識はずれの事態に動揺していた。
「帰ったか・・・首尾は?」
アジトに戻った暗殺者は依頼主に報告を迫られる。
「リオウは既に腕の立つ帝国戦士を数人集めていて、奇襲はその戦士に阻まれました。今のリオウは隙のない状態、殺すことは不可能かと・・・」
「そうか。もうよい。」
「・・・失礼します。」
立ち去ろうとする暗殺者に依頼主は続ける。
「違う。お前はもう用済みだと言ったんだ。」
「・・・と、言いますと?」
「――――――廃棄処分だ。うちの内情を知る者を生かすなんてリスクは負わん。」
「・・・はぁ・・・ここでもか・・・」
暗殺者は溜め息混じりにそう呟く―――――
「我々がお前を雇ったのには理由がある・・・神体持ちとはいえ弓使い、複数戦闘は不向きだろ?処分しやすいんだよ、そういう兵士は。」
依頼主のその言葉を皮切りに、複数の銃口が暗殺者を囲った。
「これだけ兵力があるなら自分で殺せばいいのに・・・」
「神具、神体持ち以外にリオウが殺せるとでも?」
「アロホモ○ラ」
――――――ガチャッ
暗殺者が取り囲まれている部屋の扉が開く――――
「なんか今のは本物の魔術っぽいですね。」
「まぁ、魔法についてのヤツだからね。」
扉からはセツナ、カルノレット、そして――――
「失礼する。話は大体聞かせてもらった―――――」
リオウが入って来たのだった。
「リ、リオウ!?――――――撃てっ!!ここで仕留めろっ!!」
依頼主は一瞬驚くが、すぐに暗殺者を取り囲んでいた兵士達に射殺の指令を下す。
ズガガガガガガガッ!!
銃声が響き渡るが――――――――
「ヒラリマ○ト」
カルノレットが呪文を唱えるとマントが現れ、銃弾の進行方向を変える――――
「カルノレット様・・・魔術ですらなくなってますよ・・・」
仲間が守ってくれる中、リオウは暗殺者に問う。
「お前、名前は?」
「ルゥム」
「ルゥムか、先程の奇襲は見事だった。神体持ちの傭兵だから神体もかなり有効に活用できるのだろう。」
「どうも。」
「ルゥム、お前はどうして傭兵を?」
「どうしても何も、アタシには武力しかなかったのよ。」
「・・・戦争は好きか?」
「まさか、むしろ戦争がない世界を希望するわ。」
「でも、傭兵をやっているのだな?矛盾してないか?」
「あら、そうかしら? 平和をもたらすのは圧倒的な武力でなくて?軍事国家ウェルドラド第一皇子リオウ様?」
「・・・おもしろい。ルゥム、お前、我の戦士にならぬか?」
「アタシが、帝国戦士に?」
「うむ、その方がお前の望む『戦争のない世界』を実現しやすいだろう。それに、傭兵には最高の報酬が支払われるぞ。」
「最高の報酬?何、この国の六分の一でもくれるっていうの?」
「我は、王だ。裏切られることはあっても、世界の中心である王が裏切ることはない――――――」
それは、『使い捨ての駒』である傭兵にとって最も欲する・・・『絶対に信頼できる仲間』・・・
(・・・信じてみても、いいかな・・・この報酬なら、命を張る価値がある・・・)
「・・・いいよ。その提案受けよう。」
「では、ウェルドラド第一皇子リオウより、帝国戦士としての名を授ける『風の戦士 ブルーム・ブルーム』よ。」
「ん。この『風の戦士 ブルーム・ブルーム』この国の平和と、アタシを含む仲間のために。」
銃弾が飛び交う中、翼を持つ戦士が誕生したのだった。
「さて、ルゥム、お前の初陣だ。王の暗殺を企むこの集団を壊滅させるのだ。」
「弓使い室内で複数相手をさせる王がいるとは・・・」
弓使いの弱点、それは銃と違い連射がし難いということ―――――――射手が隠れている場合はともかく、室内で、近中距離で銃撃手との交戦は不利でしかない・・・それをわかった上で、リオウはルゥムに指示を出す。
「でも、できるのだろう?」
「――――――当然、アタシを誰だと思ってるの?」
呆れながらも、ルゥムは待ってましたとばかりにリオウへ言葉を返し―――――――――その存在を仲間と世界に謳う―――――――――
「単騎千軍 一矢万貫 兵戈槍壌 死地天昇 紅き地に咲く白き翼!! 偃武修文 天下泰平 白き夢 砲刃矢石 仁王立兵 紅きを以って成さんとす!! 『風の戦士 ブルーム・ブルーム』この名をよく憶えておきなっ!!」
翼を広げ、風の戦士は高らかに謳う――――――――
「神の翼―――――――フェザーシュート!!」
ルゥムの翼が耀き、翼の羽が宙を舞い、その羽が矢のように兵士達へ向かっていった。
ビュッ!!ズドドドドドドッ!!
羽は兵士を貫き地に伏せる――――――――
「危なっ!!オレらにも刺さりそうだったよっ!!」
まさかの味方からの被弾を恐れ、カルノレットは声を上げる―――――
「慌てなくても大丈夫よ。この羽もアタシの意のままに操れるから」
そう言いながらルゥムは自分の周囲で羽を旋回させる―――――
「リオウ、風に対する防御を―――――――」
「何をする気だ?―――――まぁよい・・・『我らが纏う大気のみ他の大気とは分離する――――――』」
「オッケー、それじゃあ・・・『神の翼 台風の弾丸!!』」
ルゥムが翼を羽ばたかせると、その周囲に暴風が発生し――――――その風圧で天井を吹き飛ばしながら上空へと舞い上がった――――――
ビュオオオッ!!ゴオオオオゥッ!!
竜巻と成ったルゥムはそのままアジトを縦横無尽に飛び回り―――――――一分と経たずにアジトを崩壊させた。
「凄い破壊力・・・」
「それに加えて精密な射撃もできるなんて・・・」
「いい神体だな。」
セツナとカルノレットがその能力に驚く。
「あれ?そういえば、アジトの外でシゲノブさんが待機してなかったっけ?」
「えっ!?――――――ヤバい・・・アタシ遠慮なくヤっちゃったかも・・・」
そんな心配をするなか、瓦礫が巻き上げた粉塵の中からシゲノブが現れる。
「シゲノブ様、無事でしたか・・・」
「某の間合いは風すらも通さぬ――――――」
「まさか・・・奇襲の矢に続き、暴風すらも防がれるとは・・・」
心配していたルゥムも防がれたとわかると、すぐに防がれたことを悔いたのだった。
「アタシもまだまだ強くなれそうね・・・」
こうして、経験と、能力を兼ね備えた、美しき戦士がリオウの戦士に加わったのだった。
どうも、ユーキ生物です。
第六話では大変失礼しました。ギリギリまで戦士の名を練り直した弊害でした。
ちなみにこの第七話でもルゥムの戦士の名は結構練り直し、また載せ忘れるところでした。
折角の後書きなので、キャラの設定の話を・・・
以前、コウは甲、という話があったので、しばらくは名前の由来で後書きネタをもたせようと思います。
今回は、リオウです。リオウは悩むことなく決まりました。理王です「理の王」まさにリオウそのものの名前の由来となっております。別に和名というわけではないのですが、脈絡がない名前は考えるのが大変なので、少し漢字で考えて、それからカタカナにおこしてます。
そんな感じでしばらくの後書きネタを確保します。それでは、また次回。
次回更新は10月14日金曜日を予定しております。