第六話 サバイバルニート
第六話
サバイバルニート
川のせせらぎが聞こえる山道をヒカル・ベル・コウ・キララはある問題を抱えて歩いていた。
「・・・腹減ったな。山、超えられっかな」
「そうだね。コウの言う通り、お腹空いたね・・・。」
「・・・まさか、麓の村が無くなってたなんて・・・私が持ってる数少ない情報が・・・」
「キララが悪い訳じゃないよ・・・村民全員で出稼ぎじゃあ、仕方がないとしか・・・。」
「・・・川があるんだから魚とかいるんじゃねえか?」
「・・・コウは魚、捌けるの?」
「うっ・・・いや、きっと王族に使えるメイドさんなら・・・」
「・・・申し訳ありません。魚の捌き方は存じてますが、キッチンがないと難しいものがあります・・・だから、ヒカル様はワタシを召し上がってくださいぃ・・・」
「じゃあ、山に籠ってたキララなら?」
「無理に決まってます!!あの山は魚なんて取れませんでしたし!触るのも無理ですっ!!」
「どうしたものか・・・」
「あぁっ!!ヒカル様を満たすことができないなんてワタシはなんて不出来なメイドなんでしょうか!?ヒカル様、こんなダメダメなメイドにお仕置きをっ!!」
「ベル姉は何も悪くないよ。」
「その輝くお顔の輝きが辛い!!」
「キララもごめんね。一緒に来てこれじゃあ・・・ボク達と来て、後悔とかしてない?」
「・・・?大丈夫です・・・お腹は空きましたけど・・・」
「そっか・・・。」
「・・・・・・。」
ベルはヒカルが発する優しさに違和感を感じた。
(今の・・・ヒカル様はもともとお優しい方ですけど・・・何というか・・・ラブい感じが・・・これはマズイ・・・)
「ねぇ、キララ・・・」
「はい?」
「あの・・・そ、その槍、重くない?ほら、キララはコウとベル姉と違って訓練とか受けてない訳だし、少し休もうか・・・?」
「・・・確かにこの槍は重いですけど・・・そこまで私に気を遣わなくて大丈夫ですよ。私が望んでヒカルさん達について行ってるので・・・。というより、私も決戦までに武器を扱う訓練とかしておくべきですよね。」
「確かにな、オレがそのひょろっちい身体を鍛えてやるよ。」
不粋なことに割って入るコウ・・・
(コウさんナイスッ!!)
影で褒めるベルは小さくガッツポーズをとるのだった。
「でもホントにどうしようか?まさか食糧難で悩むとは・・・」
「やっぱ魚を捕って丸のみか・・・」
「いやいや・・・王になる人がそんな動物的なことはどうなのでしょうか?」
「ヒカル様にそのようなことはさせられません。寄生虫にヒカル様を先取りされるのは許しません。」
「何か論点おかしくないか?」
「・・・とはいっても骨とか臓器とか、現実問題として丸のみなんて無理ですよ。」
「うん、オレだって嫌だ。」
「なぜ提案した!?」
―――――――――ザザザザザ―――――――
遠くから水を打ち付ける音と―――――――
「―――――ゃ!!―――――――ァァッ!!」
人の掛け声みたいなのも聞こえてきた――――――。
「人がいるみたいですね?もしかしたら何か食事・・・調理場的なものもあるのかもしれません。行ってみましょう。」
「そうだな。そういうのがあるといいな。」
飢えた戦士達はその人の声のする方へと向かっていった。
声のする先には――――――――
「たっ!!ぃやっ!!ふっ、はーっ!!」
――――――――ザザッ!!ザザザザッ!!
滝と、滝に向かって拳を振るう女性がいた。
手入れの行き届いていない無造作な長い髪を束ねた姿と、くたびれた胴着、それだけで彼女がここで長いこと修行をしていたことは誰の目からもわかった。
そして何よりも・・・
「飯盒っ!!米だ!!ヒカル!米があるぞ!!」
そこで生活をしているらしく、食料もあった―――――――
「―――――――すみません、なんかご馳走になっちゃって・・・」
「アナタ達・・・申し訳なさそうに言う割には四人で十合の米を食べてるのよね。」
「申し訳ありません、あまりにもおいしかったもので・・・」
「そうだな、川で捌いてた魚も美味かったし、箸が止まらなかったよ。」
「食料対策もせずに旅とは、なかなかいい度胸してますね。」
「そういう貴女はこんなところでいったい何を?」
「・・・あまりにもがっついてご飯を食べるものだからロクに紹介してなかったわよね。アタシはレイラっていうの、帝国戦士になるためにこうしてここで修行してたの。」
胴着の女性はそう自己紹介をした。
「帝国戦士・・・ヒカル様。」
「・・・そうだよね。正直びっくりした・・・レイラさん、名乗るのが遅れて申し訳ない、僕はウェルドラド第二皇子のヒカル、後に行われる玉座決定戦で共に戦ってくれる帝国戦士を探している。」
「・・・えっ? キミ、皇子なの?」
「・・・うん。」
「食糧難に陥ってたのに?」
「お恥ずかしながら・・・」
「・・・これってスゴイ・・・運命なのかも・・・」
「レイラさんはどうして帝国戦士を?」
「簡単よ、アタシの父が現皇帝の戦士だったからよ」
「えっ!?」
「『元滝の戦士 イレア』我流の拳法で戦う戦士、父も昔、この滝で修行してたんだって。だからアタシもここで修行してる。」
「イレアさんの娘さんだったんだ・・・」
「まぁ、皇子なら会ったことくらいはあるわよね。」
「はい。昔から優しくしてもらってました。」
「それに従者の訓練もイレアさんが稽古をつけてくれました。なのでワタシもイレアさんとは面識があります。本当に強い方です。」
「なぁヒカル、戦士に誘ってもいいんじゃないか?サバイバル料理もできるみたいだし。」
「コウさんはコックが欲しいだけですよね・・・」
「そういうキララはどうなんだ?」
「私もいいと思いますよ。夢に向かって努力しているのですから、叶って欲しいですし、私に武道の稽古をしてくれる方が欲しかったですし。」
「オレじゃダメなのか?」
「『鬼神流のキモは歩法にある!!』って言ってたじゃないですか。とりあえず槍を扱えることを優先したいんです。」
(また女性ですか・・・)
ベルは少し警戒してヒカルに進言する――――――
「ヒカル様、ワタシも夢を応援することには賛成です。――――ですが、やはり神具・神体が無いと――――――」
「でしたら、アタシは神体『神の血』を持ってますよ。」
「・・・・・・・・・・・・そうですか。」
乙女の恋路は厳しかった。
「レイラはイレアさんより強いのか?」
「・・・そうなれるように十五年間一日二十時間ずっと修行をしてきました。父は強いので、追い付けているかはわからないけど・・・」
そこで皆は違和感に気付いた。
「ん?一日二十時間修行って・・・仕事とかは?」
「してません。だからサバイバル生活なんです。」
「なるほど、だからさっきの飯が美味かったんだ。」
「・・・・・・ニート・・・」
キララがボソッと言う。
「キララさんって、大人しそうにしておいて、結構ズケズケと踏み込みますよね。」
「・・・それもだけど、修行をそれだけやっておいて、身体は大丈夫なの?」
「えぇ、大丈夫ですよ。時間が惜しいですから。そのための―――――」
「おおっ!!いたいた第二皇子ヒカル。情報通りだね。」
そう言いつつ見知らぬ男が現れた。
「貴方は?」
「俺はパペリオンからあんたを殺しに来たタラムってモンだ。」
「パぺリオン・・・」
「えっと、ヒカルさん、この方は敵、なのかな?」
現れたタラムについて、そう聴いてくるレイラ。
「まぁ、そうかな。」
「だったらアタシが相手してもいいですか?」
「お、ヒカルに強いとこ見せるチャンスだもんな。」
「まぁ、それもありますが・・・」
「他にもあるんですか?」
「アタシは経験値が欲しいんです。だから対戦はできるときにしたいんです。」
「・・・そうか・・・。」
「なんだ? 女が相手するのか?」
「アンタ、パぺリオンの傀儡使いだろ?早く人形だしなよ。」
「チッ・・・わかったよ!!来い『土人形』!!」
タラムは地面を叩く―――――すると、地面より人形が三体現れた。
「ふっ―――!!」
ボロボロボロボロッ・・・・・・
先手必勝とばかりにレイラが人形を殴り、破壊、再び土に戻す。
「俺は土人形使い、いくら人形を壊そうとも――――」
タラムは再び地面を叩く―――――すると、再び人形が現れる。
「いくらでも再生することができる―――。」
「面白いね。それ。」
レイラは不敵に笑う―――。
「―――これは・・・不利な戦況かな?ベル姉?」
「・・・どうでしょう?レイラさんがイレアさんと同じ格闘家だとすると厳しい相手かもしれません。」
ヒカル、ベルはそう見る――――。
「こういう時は――――術者を直接――――!!」
レイラはタラムとの距離を詰める―――――
「『相互転移』」
それに対しタラムは何かを発動させる・・・
ボロボロボロボロッ!!
タラムの身体がレイラの拳で土の様に崩れる・・・
「えっ!?」
手応えのなさに一瞬動揺してしまうレイラ――――
「俺の『相互転移』は土人形と場所を入れ替える特性、無限に複数の人形を作れる俺にはもってこいの特性さ。」
得意気に語るタラム―――
「さ、今度はこっちが行くぜ――――」
タラムが攻勢に移る――――
「トライエッジ―――!!」
三方向から迫る刃――――
「くっ――――!!」
レイラは二つは止めるが、一撃を捌ききれず肩を切られてしまう―――。
「刻まれながら聞いてくれよ。俺には持論があってな―――。」
傀儡を操りレイラを少しずつ刻むタラム―――
「チェスで最も強いのはポーンだってことだ。無論、一体では最も機動力のない駒だが――――。」
常に三体で攻撃を仕掛け、1・2体はレイラに壊されてしまうが、すぐに作り直す――――。
「数が最も多く、常に多対1の状況を作ることができる――――。そんなポーンこそ―――。」
「意見が合わなくて残念だね。アタシはそうは思わない――――」
圧倒的劣勢の中、レイラはそう口にする――――。
「チェスでも何でも・・・最も強いのは――――プレイヤーの中にある積み重ねた経験だ―――――」
ボロボロボロボロボロボロボロボロッ―――――!!
レイラを囲んでいた三体の土人形が崩れていく――――
「チィ―――もう一回―――――」
「いや、次はアナタだよ――――『滝割の拳っ!!』」
レイラが放つは滝をも穿つ正拳突き――――
「――――――――――――ぅ!!」
声を発することもなく沈められるタラム―――――
「押忍っ!!」
礼をするレイラにヒカル達が駆けつける――――。
「レイラさん大丈夫ですか!?今すぐ処置を――――」
「それには及びません――――『神の血』」
スウウゥゥゥゥッ――――
レイラが神通力を発現させると、彼女の傷がみるみるうちに塞がっていった――――
「それは――――」
「これがアタシの神体『神の血』の超回復、コレのお陰で一日一時間の睡眠で残り時間を修行に充てられるの。」
「つまりさっきの強さは――――」
「努力、それ以外にはありえない。」
「レイラさん・・・」
「アタシが負けるときはアタシが負けを認めた時、つまり、心を折られた時のみ。」
並外れた能力を持つ帝国戦士にしてはあまりにも非力な・・・しかし、折れることのない最も強固な心を持つ戦士が―――――
「ウェルドラド第二皇子ヒカルより、帝国戦士としての名を授ける『水の戦士 ブレクレスシャトー』よ。」
「承りました。この『水の戦士 ブレクレスシャトー』父をも超える不落の城として次期皇帝をお守りします。」
格闘家レイラ、己の拳と経験と不屈の心を武器に戦う戦士が誕生した。
どうも、ユーキ生物です。
この「戦士達(略)」は一話あたりの字数が前作「Desire Game」の倍くらいになっていて、なかなかに書きごたえがあります。一話一話が間に合うかハラハラです。ちなみに私ユーキ生物はいい歳こいてポケモンユーザなので新作発売の時に両立できるか不安で仕方がありません。今のうちに書き溜めておきたいですね。・・・とは言っても、現状(9/30)第七話は一文字も書けてませんが・・・プロットはできてますよ。何とか。
さて、後書きネタが無くてどうしよう状態なのですが・・・どうしましょうか・・・
六話なのですが、レイラとイレア、この親子の名前が差分しにくいですよね・・・これもレイラは元々決まっていて、イレアはプロットにレイラと打とうとした時に間違えて打った名前なんですよね。似てるのは道理なんですが・・・後々のことは考えておくべきでしたね。ちなみにどこかでイレアさんは登場するかもしれません。
そんな感じで第六話、お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月7日金曜日を予定しております。
10/1追記
やらかしました。レイラの帝国戦士の名を更新しました。申し訳ありません。




