第四話 鬼の呪い
第四話
鬼の呪い
「・・・この辺って山ばっかりですね・・・体力には日頃のお仕事と訓練で自信ありましたけど・・・帝都の平坦な街道に慣れてると、この山道は堪えます・・・」
「帝都南部はお世辞にも平野とは言えないからな・・・ヒカル、大丈夫かい?」
「・・・・・・はぁ、はぁ・・・も、問題、ない・・・うん・・・」
「何て言うか・・・大変そうだな・・・・・・で?ベルは何をやってんだ?」
「貴重なヒカル様の息切れボイスを録音してるに決まってるじゃないですかっ!?ノイズが入るので黙ってて下さい!」
「お、おう・・・」
疲れていても、ベルはブレなかった。
「あ、見えてきたな、あれがエレナイル村だ。」
山岳地帯の麓にある小さな村だった。村の裏には大きな山がそびえ立ち、村を見下ろしていた。
「なんか、あの村だけ雲行き怪しくないですか?」
「確かにベル姉の言う通り、村と山の上空にだけ黒い雲が浮いてるよね・・・」
「あれはあの村のみにある特徴で、常に雷雲のかかる村なんだ。」
「・・・ふむ・・・」
「オレはあの雷雲は神具、神体関係だと思って二人に紹介したんだ。」
「・・・・・・ベル姉はどう思う?」
「・・・神具や神体は神通力を供給することで機能しますから、常に雷雲が浮く、ということは神具、神体のものとは考えにくいかと・・・」
「だとしたら、あの雷雲はいったい・・・」
三人は疑問を持ちつつも、雷雲の下、エレナイル村へと向かった。
「おぉ!王族の方ですか!」
三人を出迎えたのはエレナイル村の村長
「ところで村長、この村の雷雲はどういったものなのでしょうか?立地的な気候とかでしょうか?」
「・・・いえ・・・実はその件でご相談があるのですが―――――」
―――――バタンッ!!
「皇子様っ!!私の娘を助けて下さいっ!!」
一人の妙齢の女性が駆け込んできた。
「おぉ、ユミコ、ちょうどいいところに・・・ヒカル様、こちらはユミコ、雷雲の原因と思われる少女の母だ・・・」
「雷雲の原因・・・?」
「はい・・・元々この土地は雷の多い土地ではありました。しかしながら晴れる日はきちんと晴れていました。そんなある時、ユミコの娘、名をキララといいます。キララが一歳になった時から全身に静電気を帯びるようになったのです。それから14年間この村は常に雷雲に覆われるようになったのです。ある者はいいました。『これは鬼の呪いだ』と・・・」
「・・・それで、そのキララさんは・・・?」
「キララは、数年からずっと村の裏にある山に一人でいます。誰にも迷惑をかけないように、と・・・」
「それと、妙な噂を耳にしたのだと思います。山に眠る神の道具で雷は収まるだろう、という・・・」
「それは、いったい誰が・・・?」
「数年前に訪れた旅人が山に落ちた雷を見て言っていました。」
「・・・なるほど・・・」
「ヒカル様、これは・・・」
「恐らく、呪いと呼ばれているものの原因は不明だけど、その道具の方は神具の可能性が高いよね・・・」
「だとしたら、会ってみるのがいいんじゃないか?」
「そうだね、母君、ボク達は玉座決定戦に―――――」
ヒカルはユミコに玉座決定戦のことを告げ、キララにもしも才と意志があれば決定戦に参加してほしい、という旨を伝える。
「・・・・・・。」
ユミコは黙っていた・・・
「ボク達にはそういう事情があります。そして、キララさんには、キララさんの様な不遇な立場の人を救う国にして欲しいのです。」
「・・・そう、ですね・・・本人にその意志があれば・・・」
「それと、もう一つ母君にお願いがあります。もし、神具の能力で呪いを何とかできたなら――――――――。」
三人と、ユミコは山の中へと入り込む――――――
そこには――――――
―――――バチッ!!バババッ!!
青白い電気を帯びた少女がいた。
「・・・お母さん・・・と、そちらはどなたですか?」
「キララ、こちらは――――――」
「―――ボクはウェルドラド第二皇子ヒカル、貴女がキララさんですか?」
「・・・そうですけど、何か?」
「貴女の雷を抑える神具探しを手伝いに来た。」
「・・・やめておいた方がいいですよ。私に関わると不幸になりますから・・・」
今までもそうだった。呪いがあったから、近付く人を傷付けた。キララにその意志がなかろうと・・・
「キララさん、神具の能力で貴女の帯電体質が解消できるかもしれないんですよ。ボクたちはその――――――」
「そうは言っても、あなた方に私を手伝うメリットがありません。」
「メリットならある。それに、助けたいと思ったから助ける、それじゃあダメかな?」
「・・・・・・言ってもわからない方の様ですね・・・いいでしょう、こちらです。」
そう言って、キララはヒカルを案内した。
「・・・・・・この奥に貴方の言う神具はあるはずです。」
そこには洞窟の入り口と、それを塞ぐ大岩があった。
「・・・私も探したんです。でも、これじゃあ・・・」
入り口を塞ぐ大岩は直径五メートルはある大きなもので、人一人では到底動かせる物ではなかった。
「・・・この奥に、あるのはわかるの?」
「・・・はい、奥から私を呼んでいるのがわかります。」
「・・・そうか。コウ、いけそうか?」
現ヒカル一行で最も攻撃力のあるコウにヒカルは尋ねる。
「・・・絶対に無理、とまでではないけど、さすがに刀への負担が大きいかと・・・」
「うむ・・・なら後は、皆で退かすしかないな。」
そう言うと、ヒカルは岩を観察し、押し始める。
「え・・・そんな無茶な・・・」
「ヒカル様がやるとおっしゃるのなら、ワタシもやります。」
「ヒカルみたいなモヤシっ子じゃあ辛いだろう、オレも手伝うよ。」
三人で岩を動かそうとする。それでも岩はびくともしない。
「――――――――フッ・・・ンンッ!!―――――――っ、はぁ、はぁ・・・・・」
「・・・やっぱり無茶ですよ。皆さんのお気持ちはありがたいですけど・・・」
「ベル姉、ちょっとこの辺を掘ってみよう。そしたら転がす要領で・・・」
様々な方法を試し、動かなかったら別の方法を考える、その繰り返しを数時間続けていった。
――――――――サアアァァ――――――――――
試行錯誤するうちに雨が降り出していた。雷雲がかかっているのだからいつ降っても不思議ではない。
「はぁっ、はぁ、はぁ・・・・・・・うーん、上手くいかないな―――――痛っ!」
「ヒカル様っ!大丈夫ですか!?」
ヒカルの手にはいくつもの傷ができていた。もちろんヒカルだけではない。
「うん、このくらい大したことない。ベル姉も、コウも、まだできそう?」
「ワタシはこのくらいなんてことないです。」
「オレだって、こんな傷、物の数じゃない。」
「よし、それじゃあ―――――」
「・・・・・・どうして、私なんかのために、そんなになってまで助けてくれようとするの?」
彼らの姿を見ていたキララはそんなことを口にしていた。
「貴女が、かわいそうだと思ったからだ。」
「かわいそう・・・」
「そうだ。呪いなんかで、そんなもので親の温もりを知らずに一人で生きる貴女が・・・」
「・・・・・・。」
「ヒカル様・・・」
「ヒカル・・・」
「そんなキララさんを救いたい!だから、ベル姉、コウ、ボクに『―――――頑張って、ボクに力を貸してくれ!』」
ヒカルがそう「言う」と、二人の身体が光を発した―――――――
「御意っ!!」
――――――ゴ、ゴゴゴゴッ――――――――
二人が再度岩に力をかけると、岩は僅かに動きだし――――――――
人が一人通れる隙間が開いた。
「・・・・・・・これが、神具・・・」
洞窟はあまり深くなく、アッサリと神具は見つかった。
―――――――バチッ!バチッ!
キララと同じく青白い雷を纏った槍――――――いわゆるジャベリンと言われる投擲を主として使用するタイプの槍が、岩に突き刺さっていた。
「さあ、キララさん、手にとってみてください。」
「・・・うん。」
キララが槍を手に取る、すると―――――――
キララが纏っていた雷が吸い込まれる様に消えていった――――――
「これなら―――――――母君。」
「はい。」
ヒカルがキララの母ユミコに目配せをし――――――
「キララ、これで、これでようやく―――――――」
ユミコはキララを抱きしめた――――――――
『もし、神具の能力で呪いをなんとかできたなら、その時は娘さんを抱きしめてあげて下さい。』
それが、ヒカルがユミコに出した、玉座決定戦に参戦することと共に提案したもうひとつの条件――――――
「キララ!キララッ!うううぅぅっ!!」
「お母さんっ!お母さんっ!っ!ぁ!ああああぁぁぁぁっ・・・!!」
母娘は抱き合い、十四年間果たせなかった、伝えられなかった、感じられなかったぬくもりを抱き、泣き合った。
「―――――条件は満たした。キララさん、ボクの戦士になって、不条理に泣く民を救ってくれないか?」
しばらくして、ヒカルはキララに切り出した。
「えっと、ヒカルさん達にはとっても感謝してます。力になれるのであるならなってあげたいです・・・でも、戦士って、私、特に戦闘ができるとか、そういうのはないので・・・力になれるかどうか・・・・・・それに、今まで出会った人は近付くと傷つける私を最初は同情してくれるのですが、だんだんと煙たがるようになっていきました。私は、人の輪の中に入れるかどうか・・・」
「・・・そうか。ひとつ、誤解がないように・・・ボクは、キララさんの力を必要としているんだ。協力してくれると嬉しい。・・・とりあえずいつまでも洞窟にいないで、いったん村に戻ろうか、返事はそれからでもいいから。」
そういって一行は洞窟を引き返し――――
「なっ・・・んだよこれぇ!?」
コウの叫びが洞窟内に響いた――――――洞窟の入り口は、再び大岩で塞がれていた―――――。
「これは・・・岩が動いた、というより、雨で土砂が崩れ、僅かな隙間だった入り口を塞いだ、といった感じでしょうか・・・」
ベルが分析する。
「中から岩を押し出すしかないが・・・これは体勢的に辛いものがあるな・・・」
そんな時、キララがみんなの前に立ち、岩を触った――――
「・・・これなら、私、何とかできるかもしれません・・・恐らく、ですけど・・・」
「キララさん・・・本当に、これを?」
「はい、できると、槍が言っています・・・少し、下がっていてください・・・」
皆がキララから距離を置くと、先ほどまで収まっていた彼女の雷が再び、より強く、彼女と彼女が持つ神の槍から発せられた。
その青白い雷光は徐々に強く、激しくなる―――
「――――そうか!あの神具、電気を溜めることが本質じゃなくて、神通力で電気を増幅させる能力なんだ・・・蓄電はあくまで機能の一つに過ぎない・・・ということは―――――」
「神通力次第で溜めて増幅した雷撃を、爆発的な攻撃力を放つことができる――――」
(お願い、神の槍・・・私の、鬼の呪いを・・・人を助けるために・・・国を変えるために使わせて・・・)
「っ!行きますっ!『神の槍!! “大解放”』」
――――――バチッ!バチバチッ!!ゴッバアアアアアアアァァァンッ!!
ひときわ大きな雷を発し、キララは槍を構える―――――
『アブソリュートレイザァァァァアアアアッ!!』
ゴッ!――――――――――バゴオオオァァァァンッ!!
山から蒼く輝く雷光が天へと伸びて行き――――――岩はおろか、村を覆う雷雲を全て焼き払った―――――――
青白い雷光と、降り注ぐ日光の中で、キララはユミコに告げる―――――
「見つかりました、私の生きる道・・・お母さん、こんな、人に触れられない呪われた能力でも、私を必要としてくれる人がいて・・・人のために使えるように・・・」
「・・・うん・・・」
母は輝く娘に涙する――――
「私は、この能力で、私の様な人でも、生まれてよかったって、みんながぬくもりを知ってもらえる、そんな国にするために、ヒカルさんの力となって、戦いに参加します。」
「・・・うん・・・いってらっしゃい。」
ユミコが流す涙は別れを惜しむものではなく―――――娘の成長を喜ぶもの――――――
「・・・・・・・・・。」
光に包まれるキララの姿は、ヒカルには雷光よりも日光よりも輝いて見えていた。
「ヒカル?オレの時みたく名前を授けなくていいのか?」
見惚れるヒカルをコウが促す。
「あ・・・うん、そうだった・・・では、ウェルドラド第二皇子ヒカルより、帝国戦士としての名を授ける『雲の戦士 ブループラチナシャイン』よ。」
「承りました。この『雲の戦士 ブループラチナシャイン』次期皇帝へとかかる雲、すべて焼き払いましょう。」
お読みいただきありがとうございます。ユーキ生物です。ご無沙汰していまい申し訳ありません。
第四話いかがでしたでしょうか?従者を除けば初の女性戦士でしたね。まぁ、キララはあまりセリフありませんでしたが。
キララ、と書いていてハンパないキラキラネーム臭がして名前変えようかと何度も悩みました。その内違和感が無くなることを祈ります。
さらには「何で雷の戦士じゃないの?」と自分でも思いました。一応、戦士の象徴を決めた時の記憶を辿ると、キララはあくまで帯電するだけであって雷人間ではないから、という理由があります。
そして今回も名乗りはありません。申し訳ありません。キララの名乗りは全キャラの中で一番最初に作った思い入れのある名乗りとなっております。不慣れなのもあり時間をかけて作った名乗りです。いずれ名乗ると思うので、ご期待下さい。
・・・ちなみに、どうでもいい発見なのですが、雷、は「いかづち」でも「いかずち」でも雷と変換してくれます。スマホでは。パソコンは未確認です。私は理系人間なので言葉には疎いので、まぁどっちでもいいのですが、どういう違いがあるんでしょうか?ググろうかと思いました。でもしませんでした。終
次回は9月23日(金)更新予定です。