第三十八話 テクノリア城屋上戦
第三十八話
テクノリア城屋上戦
敵軍の本拠地である王城の屋上にて現王のキシリとヒカル、キララが対峙する。
―――――バチバチバチバチッ!!
キララが帯電し、キシリに『神の槍』を向ける。
「貴女が相手か。」
キシリもキララに向けて拳を構える。が、その間にヒカルが割って入る。
「父上、その前に、何故このようなことをしたのか訊いてもよいですか?」
ヒカルはキシリに向かって問いかける。
「・・・質問に質問で返して悪いが、ヒカル、おかしいとは思わぬか?」
「・・・何を?」
キシリの質問にヒカルは首を傾げる。
「若くして王政を継ぐウェルドラドだが、どの王も先々代の王を知らぬことだ・・・」
「!?」
先々代を知らない。そのことにヒカルはある考えに至った。
「それが短期間にしてこの国が大陸一の国になった理由だ。新しい王を決める時に現王政が隣国を使ってウェルドラドへ攻め入る。新たな王がその王政と隣国を打倒することで国土を広げ、そして国民からの求心力も得る・・・と。少なくともここ何代かはそうしてきた。無論・・・」
「当代も・・・」
今行われている戦争こそが世代交代の手順のひとつだとキシリは言う―――
「そうだ・・・絶対の王キシリ・・・時代の王へ・・・参る。」
そうして再びキシリはキララに拳を向ける。
「“小解放 ノーブレスダンス”!!」
それを見たキララも雷を纏い臨戦態勢に入る。
―――――バチバチバチバチッ!!
「―――ふっ!!」
「『私に雷は通じない』」
―――ガシッ!!
「!?」
キシリは言葉を紡ぐと、雷を纏い雷速で襲いかかる槍を掴む
「不思議に思うことはあるまい、リオウとヒカルが言霊の使い手なら、その父たる私も言霊の使い手」
「『キララの槍は更に速く強くなる』―――自己強化の言霊使い・・・それが父上『絶対の王』」
「そうだ。そして―――『私も雷を纏いその速度と同調する――――』」
―――――――バチバチバチバチッ!!
キシリも青白い雷を纏いだした―――
「まさか―――」
「同じ速度になっただけだ。この程度、リオウの言霊のスケールに比べれば大したことはあるまい。」
「そうだよ。キララ怯えなくて大丈夫。キララにはボクが言霊を掛けられる。ボクがここに来ることで父上のアドバンテージをなくせる作戦だったはず。それは揺らがない。自信を持って――――」
自己強化を行えるキシリはキララが雷を纏って強化したように雷を纏い同じ強化を行う。雷というアドバンテージが消えた今。ヒカルの強化だけがキララの便りとなるが―――
「ヒカルがこの娘を強化しようと私は同じ強化を私に行える。」
「くっ・・・!!」
キシリは勝利を確信したように笑みを浮かべる。
「能力が互角なら、何が勝負を分けるか―――そんなものは決まっている――――潜って来た修羅場の数・・・経験だ。」
―――――ゴウッ!!
キシリの笑みの後方から何かが高速で飛んでくる―――――そしてその何かは言葉を発する――――
「いいえ、それは違うデス!! 勝負を分けるのは・・・戦力差デス!!“1から4番砲台まで開放―――ターゲットロック―――発射”!!」
―――――ドゴオンッ!!ドゴオンッ!!ドゴオンッ!!
「ぐっ!!」
声のした上空からキシリに向かってミサイルが降り注ぐ――――
「機人か・・・」
キララとヒカルがミサイルの発射源を見ると、そこには――――
「機人・・・リ、リーネ!?」
「ハイ!! ヒカルさんを援護しにリーネは飛んで来たデス!!」
――――そこには機械の飛行装置で飛んでいる元人形リーネの姿があった。
「『私の身体は万全の状態に復元する』・・・不意を突かれたが・・・たかが機人一体増えたところで私の勝ちは揺るがぬ―――」
回復の言霊を放ちつつキシリは体勢を立て直す。
「リーネ、いいの? 今ここで戦うことはリーネの存在が兵器として扱われかねないことだよ・・・」
「いいのデス。リーネは友を救うために・・・自らの意志で戦えるのデスから・・・“帯電盤 射出デス”!!」
リーネは城の屋上にメカメカしい円板を放ち、円板が戦場を囲う様に浮遊する。
「キララさん!!行くデス!!“放電開始 電気空間回路”」
「――――そういうこと!! “神獣纏身 ver.麒麟”」
―――――ドゴオオオオオンッ!!バリバリッ!!バチバチッ!!
圧倒的な電気量の麒麟と円板間を電気でつないだ電気空間で屋上が電気で満たされる――――その雷の轟音は機人が伴奏する舞台で少女が歌う独奏曲の様で――――
「私に電気は効かぬと――――」
「そうね。だからあなたをねじ伏せるのは雷じゃなくてこの槍――――」
「なっ――――ぐあっ!!」
一瞬にしてキシリの背後に回ったキララの槍がキシリを背後から襲う――――
「速さは正義デス!!」
「私達の戦士の中で、特に武術を身に着つけていないカケル君がどうしていつの間にか戦士の中でも強い部類に入っているのか―――それは彼は圧倒的速さを持っているから」
「この電気空間を、麒麟となることで自由に移動することができるデス」
「空間を走る雷速も大したものだけど、回路内を走る速度に勝てるわけがないでしょう。」
その言葉の通りキシリはキララの速度についていけなかった。否、キララのそれは速度とは呼べぬ瞬間移動のそれだった。
「くっ――――『私の身体は急速に自然回復を行う』」
「自然治癒力を上げたみたいデス。」
「そんなレイラみたいなことしてないで、貴方も言霊で麒麟の魂を纏ったら?」
轟雷纏うキララはキシリに槍を向けて煽る―――
「その必要はない―――『私の皮膚は鋼鉄よりも硬く槍など通しはしない』・・・これで貴女の攻撃手段は全て私に通じなくなった。」
キララの言葉を受けてなおキシリは落ち着いていた。
「・・・うーん、困ったわね・・・」
神獣纏身は言わば神の能力のひとつ上の領域、王家が持つ言霊の能力とは似ていてもその発生源が全く異なる。そのため王族に神獣纏身は使えない。それをわかった上でのキララの挑発だったが、キシリは冷静に対処していた。
「いかなる状況でも冷静に自分のできる最善手を行う。これが潜って来た修羅場の数の差だ。そして―――『私の拳は世界を殴りし豪傑の拳』――――――“皇帝拳”」
言葉を紡ぎ、キシリは静かに正拳突きの構えを取る。無論その射程範囲にキララもリーネもいない。
―――――――――――ゴッ!!
キシリが誰もいない空間に正拳突きを放った瞬間―――――世界が揺れた。
「うっ――――――」
「なっ――――――」
―――――バタッ
その拳の延長線上にいたリーネと、円板回路内にいたキララがその場に倒れる――――
“皇帝拳”それがキシリが絶対の王と呼ばれる所以となった技。言葉の通り世界を殴る技。その拳は衝撃波の様に、空間にいるすべてを同時に殴ることを可能とする拳。相対している限り逃げ場のない絶対的な拳。
「キララっ!?リーネっ!? 今回復を――――」
倒れた二人にヒカルが駆け寄る――――
「―――ヒカル、お前も戦え・・・仲間だけに戦わせるな。」
そこへキシリはヒカルへ言う。
「父上―――――」
ヒカルがその言葉に応じようとした時――――
「ダメですよヒカル様、その誘いは罠です。」
屋上の入り口にはベルが、そしてリオウと各地で戦っていた戦士達が集まっていた。
「リオウ・・・」
キシリも集まった戦士達に目を向ける―――
「父上の戦士は全員倒し、全兵力も鎮圧し、この通りソフィの奪還もしました。後は父上を倒せばこの戦争は終わります。」
「そうか・・・」
「陛下、この人数を相手にすれば陛下もただでは済みません。ご投降ください。」
セツナの提案にキシリは首を振る―――
「ここで退く王がウェルドラドを率いられたと思うか?」
「『キララもリーネも負傷がなかったこととなる』・・・ごめん、ベル姉・・・みんなが戦ってくれたんだから、ボクもやっぱり父上と戦いたい・・・」
ベルの、戦士達の心配を他所にヒカルはそう口にする。
「ヒカル様・・・」
ヒカルの申し出に口を開いたのはヒカルの戦士であるコウと――――
「いいだろう。我が王がそれを望むなら、その戦士として全力で主を支えよう。」
「それが戦士の役目だからね。」
「コウ・・・カケル・・・」
「ラスボスの経験値は魅力的だけど・・・王がそう望むなら、譲るわ。」
「ごめんなさい。私が不甲斐ないから・・・」
「・・・仕方ありませんね。ヒカル様がそう望むなら・・・勝利を叶えるのがワタシ達――――」
「レイラ・・・キララ・・・ベル姉・・・」
ヒカルの戦士達はヒカルの無謀ともいえる望みを叶えようと応える―――
「ヒカル、戦うのはいいが、せめて武器は持っていけよ。」
「兄上・・・でも、ボク武器なんて扱えないよ・・・」
リオウの提案に狼狽えるヒカル。
「ヒカル、お前の武器はなんだ?」
「・・・仲間」
「そうだ、その仲間が創る『神の』・・・いや・・・『王の剣』を取るのだ」
『王の剣』を仲間が創造するという―――
「ヒカル、王は俺らが剣を作るのを待ってればいいんだ――――」
「アタシもカケルと一緒に剣を創るわ」
「ルゥム・・・」
「某達も、リオウ殿の信じる弟君とあれば手を貸そう――――」
「リーネも、ヒカルさんのために―――」
ヒカル軍、リオウ軍含め、仲間たちがそれに同調し始める――――
「私がその剣を創る時間を許すとでも――――?」
「当然です。キシリ様はワタクシが時間を稼ぐ間に――――」
セツナがキシリの振るわれた拳の前に小太刀を向け互いに寸止めをする。
「ワタシの分身が増殖して剣を創る間の時間を稼ぎますから!!」
――――――ボボボボボボボボボボボボボンツ!!
その数瞬にベルが壁になるように分身を展開させる―――
「「「「「「「「「「「「聴け!!世界の王よ――――!!」」」」」」」」」」」」
ヒカルの前には剣を創るべく12人の戦士が立ち―――世界ニ剣ノ名ヲ謳ウ―――――
「最強最速万物無双、『大地』を揺るがす国王軍」
「人知を超えた超常堂々はためかせ、天を戦地を『風』より速く駆け抜ける」
「『惑星』より強く惹き付ける、絶対的な力とその信念に魅せられて」
「『夢』の様な、しかし不完全な己がいる場を与えられ」
「閉ざす心より自由な『空』をへと連れ出してくれた恩」
「何より王が好きだから、『愛』しているから我々はここにいる」
「支える戦士として、共に『時』を刻む仲間として」
「王が剣を望むならば『現』を斬り裂く最強の剣を」
「その剣と不屈の心で弱き潤す『水』となろう」
「そして創ろう、呪われし『雷』はね除け、共に過ごす永遠の世界を」
「『仲間』の剣は民のためにのみ振らよう」
「『王』と共に在りし剣、名を――――黄金卿という。」
いつの間にかヒカルの手に握られたのは、ウェルドラドの家系に受け継がれし金色の髪の色と同じ黄金の剣――――
「ふん、その剣が如何に優れようとも、剣を扱えぬヒカルが持ったところで私に当たるわけがない。」
――――この剣は仲間が創造した『仲間』そのもの――――それは――――
「『剣は滅ぼしをもたらす王を許すことなく其の罪を断ち斬らんっ!!』」
――――ヒカルの言霊の影響範囲内であるということ――――
その言葉を乗せた斬撃はいかなる距離、いかなる防御、いかなる回避、すべてを無視して唯“斬る”という概念のみをキシリに押し付け――――キシリを斬り裂いた――――
「がっ!!―――――なっ!?――――バカなッ!!」
「父上、ウェルドラドを、兄上と、仲間と共に良き国に―――――」
――――どさっ!!
キシリが倒れ、その場に静寂が訪れる――――――
―――――――テクノリア屋上戦、および現王政戦争 次期王政軍の勝利
どーも、ユーキ生物です。
まずは、投稿遅れまして申し訳ありません。エンディングで悩んだ+仕事忙しくて帰って集中力なかった、という情けない理由になります。
ちなみにエンディングはエピローグを分割しましたので、明日の投稿になります。
前作も7月22日が最終投降でしたから、揃えてみました・・・別に書けなかったわけじゃ・・・ハイ、すみません。
ホント、次作とか書いてる場合じゃなかったですね・・・。
この反省も活かして、次作は投稿方式を今までと変えて、1章が最低でも8割書けたら毎週投稿を始める、という形にします。不定期毎週投稿(?)にします。とは言え、期限設けないといつまでも温めていそうなので目安の投降予定日は設けます。
ちなみに、次作の進行具合としましては、命名式は先日ようやく終えました。これからアプリとか決まってないミッションとか決めていきます。この辺は『果報は寝て待て』的な所があるので進む時は進みますし、からっきしの時は一切進みません。波に乗ることを祈りつつ進めております。しばしお待ちください。
と、次作の話ばかりしてますが、本作についてはエピローグの後書きで語ろうかと思います。
では、エピローグは7月22日土曜日20時に投稿致します。




