第三十七話 ウェルドラド防衛ライン戦
第三十七話
ウェルドラド防衛ライン戦
――――なっ!?
ガコンッ!!
主戦場を抜けてきた隠密機人兵が地に転がる。
「隠密機は強さは微妙だな・・・」
――――ゴウッ――――スタッ!!
リオウの元に雪を纏った人物が下り立つ。
「・・・と、言う訳で、退屈してたんで、我は強い敵を歓迎するぞ・・・ソフィ・・・いや、中の方はちがうようだな。」
リオウの目の前には連れ去られたはずのソフィと――――
「お初にお目にかかります。リオウ様。僕はテクノリアの技術開発研究所の所長をしております。キシリ様の『鋼の戦士』ルドルフと申します。」
ルドルフと名乗る白衣姿で眼鏡をかけた細身の男がいた。
「それで?その所長さんがどうしてソフィとこんな戦場に?」
「こちら、僕が創った『神』とお手合わせを依頼しに参りました。」
ソフィを指しルドルフはそう言う。
「『神』・・・それがソフィの中にいるのだな。」
「はい。『神体』などとは比較にならないほど強いですよ。元々彼女が持っていた破格の神通力がなせる業ではあったが、実現したのだ。その力、とくと味わうがいい“人の王”よ。・・・それでは、お待たせしました・・・ハティ様。」
ルドルフが言い終わるとハティと呼ばれたソフィの姿をした人物が一歩前に出る。
「現世の国家間の争いに興味はないのだが・・・こうして実体をもらった恩を返せねばならないし・・・何より、神気取りの王がいると聞いてな、『神』としては聞き捨てならんし、身の程をわきまえてもらおうかと。」
―――――コオオオオオオオオオオッ!!
凍気と共に尋常ならざるエネルギーがソフィの身体を包む―――
「・・・この感じ・・・神獣纏身といったか・・・あれに近いものを感じるな。」
「ご明察ですリオウ様。基本的な理念は神獣纏身と同じです。ですが、こちらは僕の方で強制的に纏身させていますし、何より神獣と神そのものでは質が違います。」
リオウの推測にルドルフは拍手をして答える。
「『この空間は我の支配下に置く、そして空間は20℃以上を保ち凍結現象は起こりえない』」
「“凍てつけ”」
リオウが“王の啓示”を発動させるのと同時にハティも言葉を発する――――
――――ピキピキピキッ!!
ソフィの身体にいるハティが左腕を振りかざすとそこに氷山が出現した―――――
「・・・これが、『神』か・・・」
「そうだ・・・王の支配が及ぶところではない。」
――――スッ
ハティは更に右腕を振る――――
――――ボッ!!
「―――――なっ!?」
驚いたリオウの瞳には先ほどの氷山が燃えている姿が映っていた――――
「まさか、『神の右腕』・・・」
「元々は此方の身体、取り返しただけだ。文句はあるまい。」
燃える氷山を見つめハティは答える。
「どうだ?リオウ様・・・降参するなら今の内ですぞ。もはや僕の技術に手も足も出ないのは自明の理!!賢明な引き際、というのも王のあるべき姿でしょう。」
圧倒的ともいえるハティの力を見て、ルドルフは鼻高々にそう告げる。
「・・・ルドルフと言ったか、貴様の技術力は確かに立派だ。それは認める。賞賛を送っても何も悔しくない。・・・だが、それと、この国の民を護ることを諦めるのとは別のことよ。」
リオウは『神の棍』を構える――――
(純粋な火力では恐らく敵わないだろう・・・だが、この『神の棍』は蓄積する能力・・・神であろうとこの積み重ねられた技を持ち合わせてはいない・・・そこに勝機がある―――――狙うは近接戦!!)
「ふむ・・・その構え・・・武闘派な王なのか・・・此方はあまり野蛮なのは好まん。一歩的にやらせてもらおう。“氷華蒼城”」
――――――ビキビキビキビキッ――――コチコチコチッ!!
ハティが左腕を振り上げると氷の城がハティを呑み込んだ―――――
「これは――――」
それはソフィとリオウが出会った時にソフィが籠っていた城――――よりも数段強固にできた氷の要塞――――
「さぁ、王よ。逃げ惑うがいい――――“氷炎兵団”」
―――――コチコチコチコチッ!!
―――――ボオオオオオオウッ!!
絶対安全圏、氷の城の中でハティは腕を振るい氷と炎の兵をリオウの前に召喚する。
「『棍は炎を帯び猛者共を焼き払う――――』」
――――――ゴオオオオッ!!
対するリオウもかつてない豪炎を『神の棍』に纏わせる――――
「はあああああああっ!!」
棍は様々な経験を通して見出した命中への軌跡を通って氷の兵へ振るわれる――――
――――ジュオオオオオッ!!
その棍は氷の兵士に効果はあったが――――
―――――スッ
「くっ――――やはり効かないか――――」
炎の兵士に効果はなかった――――
「――――“破”」
――――――ドッゴオオオオオオオオッ!!
リオウを取り囲んでいた炎の兵士がハティの合図で一斉に爆散する――――
「ぐおっ―――!!」
リオウはその爆風を棍でいなそうとするが全方位の至近距離から襲い掛かる爆炎を捌ききれずに焼かれてしまう――――
「・・・く・・・相手の術を打ち消せないなんてこと、今までなかった・・・」
明らかに苦戦を強いられるリオウ―――――
「“炎の兵団”」
ハティは再び右腕を振る――――
「・・・理屈から考えれば意味はないが・・・我の後ろには傷つけてはならない民がいる――――できる手は全て尽くす――――――スゥ―――――」
リオウは大きく息を吸い込む―――――
「全知全能 金甌無欠 森羅万象 統べる王! 艱難辛苦の闇に在ろうと 我葉一語 民幸明喜の陽が昇る!! 血より継ぎしは揺るがぬ志 師より継ぎしは強き魂 不動山如 揺るがぬ強き王と成り 全ての民を護り抜く!! 揺るぎなき最強の王『ロジカルプリンス』ここに!ここに君臨!!」
国民に降りかかる火の粉を払う高く太い柱となる最強の王はその名を名乗り『神』の前に立ち塞がり炎の兵団と炎を交える――――
「それがなんだというのだ。王など『神』の足元にも及ばぬ――――“破”」
―――――ドッゴオオオオオオオオッ!!
再び炎の兵団がリオウの至近距離で爆破する――――
「ぐおおおおっ・・・かはっ!!」
―――――ズサッ!!
リオウは爆破ダメージで膝をついてしまう・・・
「情けないな、人の王よ。此方はまだ傷一つついておらぬぞ。さて、では国の方を――――」
―――――コチコチコチコチッ!!
ハティは進軍のための氷の兵団を再び作る―――――
「―――行かせん。」
『神の棍』を支えにしてリオウは再び立ち上がる。
「・・・立ったところで何ができるわけでもあるまい・・・」
ハティが左腕を振りかぶる―――――
「―――――皆様!!今こそリオウ様に声援を届ける時です!!ユイの合図で一斉に――――――せーの!!」
声がしたのはリオウの背後――――ウェルドラドの国内にいたユイと数えきれないほどの国民がそこにはいた―――――
「「「「「「「「「「「「「―――――リオウ様、頑張って!!」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「―――――リオウ様、負けないで!!」」」」」」」」」」」」」
ユイの号令で国民が一斉にリオウに声援を送る―――――
「そんな声援ごときでいったい何になるというのだ・・・」
多少驚きを見せるハティの瞳には向かってくるリオウの姿が映っていた。
「―――――はあああああああっ!!」
「気を強く持っただけでは『神』との実力差は埋まらぬぞ!!」
ハティは氷の兵で応戦する。
「『我が棍が纏うは燃え盛る熱く冷たき雪―――――その名を“雪桜”』」
リオウの棍は桜色をした雪を纏う。民の声援一つ一つのもたらす力は小さくとも、国規模の数が集まれば、大きな力となる。それはリオウの棍が体現していた。幹となる『神の棍』に民の力で生まれた雪桜が纏わり、一本の桜の木の様になっていた―――――
―――――ジュオオオオオッ!!
雪桜に触れた氷の兵は溶け出してしまう――――
「――――なっ!?」
「“王の啓示”は、この世の万物を操る言霊の魔術――――しかし、民の言霊が合わさったこの力はこの世にないものをも操る魔術・・・それは“王”だけのものではないが・・・この力は―――――“世界を動かす国民の総意”という。」
国民を想う王、そしてその王を想う国民の言の葉が重なって生まれた奇跡の魔術――――
「なんだ、それは!? ありえないっ!?」
ハティは右腕を振り炎の兵を呼び出す――――
「この“雪桜”は燃ゆる雪――――雪が溶ける様に、そして桜の花が散る様に、触れたモノと調和し、共に溶け、滅びゆく万物融解の雪――――」
―――――ジュオオオオオッ!!
炎の兵もリオウの・・・国民の棍に触れると溶け出してしまう――――
「そ・・・そんなことが・・・」
「『神』よ。城から出てきてもらおう――――『城を包み込む満開の桜雪』――――その名を“紅吹雪”という。」
――――――ザワッ――――!!
雪桜が辺り一面に舞い、氷の城を包む―――――王が指揮して国民が奏でる交響曲の様な壮大な景色が広がり―――――
―――――スゥッ―――――
氷の城が溶け、ハティが地上に出てくる―――――
ハティの前にリオウが接近し
「『神』よ。折角出てきたところで悪いが、ここは人が暮らす世界だ。退場してもらおう。――――散れ。」
――――トンッ
リオウの棍が静かにハティの額を突く――――
「―――――えっ」
ハティの意識をソフィの身体から散らせる――――
「――――ぐっ!!折角手に入れた身体・・・そう簡単には渡さぬぞ・・・!!」
「『神』よ。あなたの気持ちなど関係ない。これは“国民の総意”なのだ―――――『姫の目を覚ますのは皇子の口付け』というな。」
リオウはハティの意識を完全に散らすことなくとどめていた・・・それはこの戦いのエンディングが“総意”で決まっていたから――――
「や、やめ――――ふむっ!!んんっ!!・・・んっ・・・・・・」
リオウの口付けを受けたハティは抵抗虚しくその意識を完全に引き離されてしまう―――――
「・・・さぁ、ソフィ。目を覚ますのだ。」
「んっ・・・っ・・・リオウさん・・・」
――――――わあああああああああっ!!
その様子を見ていた国民から歓声が沸く――――
「・・・おいおい・・・なにハッピーエンドみたいな空気を出してるんだよ・・・僕の最高傑作が・・・」
「リオウさん・・・」
ルドルフの姿を見るとソフィが不安そうにリオウに縋りつく。
「ルドルフと言ったか。ソフィは返してもらう。」
「いやいやいやいや・・・僕はもう一度神を創るのだ。邪魔する者は我が兵器を持って蹴散らすのみ・・・人体固定砲台、一斉掃射!!“ハルマゲドン”!!」
――――ウィイイインッ!!ドウッ!!ドウッ!!ドウッ!!
ルドルフの背からミサイルを積んだ砲台が大量に出てきてミサイルが一斉に放たれる――――
「“飛翔を拒む太陽”」
ミサイルの前には太陽を彷彿とさせる炎の塊―――――ミサイルは全て太陽に焼かれその機能を失ってしまう―――――
「バ・・・バカなっ!?」
ルドルフは炎の先を見る――――そこには右腕を構えているソフィの姿が―――――
「『神の右腕』は残ったままだというのか!?」
「『鋼の戦士』よ。もう手はないのか?」
リオウが問う。
「・・・ぼ、僕は・・・」
「私はアナタを許さないわ――――“氷の神殿”」
―――――コオオオオオオオオォォォォッ!!
ソフィの左腕がルドルフに触れると強烈な凍気がルドルフを包み―――――再び氷の神殿が出現してルドルフはその中央に閉じ込められていた―――――
「絶氷の檻の中で悔い改めなさい。」
「いいのだな。とどめは刺さなくて。」
リオウがソフィに確認をとる。
「はい。死よりも辛い罰を所望します。」
ソフィは静かに怒っていた。
「さぁ、戦争を終わらせよう。」
――――――ソフィ奪還成功 およびウェルドラド防衛ライン戦 リオウ・ソフィの勝利
どーも、ユーキ生物です。
いきなりですが、「戦士達ハ世界ニ其ノ名ヲ謳ウ」は次回が最終話になります。もしかしたらエピローグを分割するかもしれません。その場合は36.5話みたく一週間はあけません。まぁ、大体予想できましたよね。
しかしです。次回はかなりの確率で一週間投稿が遅くなるかと思います。理由は普通に仕事が忙しくなりそうなので、です。「来週からこの仕事引き継いでもらうから」が二件同時に発生したため十中八九残業塗れになりそうですので、書く時間が足りなさそうです。ましてや最終話、多分かなり長めになりますし。この第三十七話みたいに。頑張りますがあまり期待はしないで下さい。
次作は予告通り「Desire Game -2nd players-」です。最初の章も予告通り「復讐の章」になりそうです。
「Desire Game」と同じ、願いを叶えるために命がけのゲームをする話です。宣伝ポイントの一つとしては、ゲーム参加者が全員「悪」という点があります。参加者は大なり小なり犯罪者です。「Desire Game」の芯君みたいな感じです。主人公もヒロインとかも、敵キャラも全員犯罪者です。そんな彼らの願い・・・もう、重さMAXを自負しております。
また、今までの反省点として、キャラの作り込みが甘い、ということもあったので、裏でキャラ同士を会話させたり、独り言をつぶやかせたりして、キャラを練ってから執筆に移ろうと思います。そのための時間はいただきますが。どこまでクオリティが向上するかわかりませんが、少しでも効果があればと、取り組んでみます。ご期待下さい。
次回更新は一応、7月6日㈮を予定しております。
7/6追記
「7/6㈮を予定しています。」とか言いました。7/6㈮とはいつでしょうか・・・恥ずかしいミスです。
更に投稿は間にあいません。重ねて申し訳ありません。ラストをどうしようか今更悩みだしまして・・・7月14日を下方修正目標として頑張ります。
7/13追記
大変申し訳ありません。更に一週間遅延します。話は固まってます。三連休に頑張って書きますのでお許しください。
7/21に投稿します。(あとに退けないように宣言)




