第三十六話 主戦場上空戦
第三十六話
主戦場上空戦
―――――ゴオオオオオオッ!!
主戦場の上空で風と風がぶつかり合う。
「威力は互角ってところか・・・?」
「貴女は羽込みの威力ですけどね。」
ぶつかる風は二種類、一つは『神の翼』の持ち主ルゥムが放つ羽混じりの風、そしてもうひとつは『神の箒』の持ち主ティルが放つ純粋なただの風。
「神具は威力の面で神体に劣るはずなのに、さすが、現王政異能局長、『神の力』の練度が半端ないわね・・・」
「その堅苦しい肩書きはやめてほしいな~。箒に乗ってるんだし、魔法少女ティルって呼んで!」
妙齢の魔女、ティルはおどけてみせる――――――
「・・・アタシもいい歳だけど、ティルさんはもっと上でしょ・・・“少女”は無理が・・・」
「あぁん?」
ティルは眉間に皺を寄せる――――
「“オバサン”に威力で負けちゃ、若者として情けないわね―――――――」
―――ゴウッ!!
「ぐっ!!」
ルゥムの側面から見えない風の鎚が襲っていた。衝撃で一瞬意識が飛ぶがルゥムは飛行姿勢を整え何とか堪える。
「“嵐抉鮫嚙”・・・側面から鮫が喰いつくように抉る風・・・オバサンは威力だけじゃないのよ。」
(・・・実際ただの風は空気でしかない・・・見えない攻撃って厄介よね・・・)
「あら?ビビっちゃった?そっちから来ないのなら終わりにするわよ――――」
(カケルならこの状況、どうするのかな―――いや、考えるだけ野暮ってヤツよね―――アイツは――――)
―――――バサッ!!
ルゥムの『神の翼』が大きく羽ばたく――――
「風よりも速く飛べ――――」
ルゥムは空中を高速で飛び、ティルの風を回避する――――
「あら、あらら・・・」
高速移動するルゥムに翻弄されるティル
「見えなくても、狙いを付けるのは術者。だったら術者に視認されない速度で飛び抜ければいい――――」
――――――ゴウッ!!
「ギリギリでも、避ければこっちの勝ち――――」
「なるほど・・・持久戦ね。」
「オバサンにアタシが捉えられる?」
高速で飛び回りルゥムはティルを挑発する――――――
「持久戦に乗ってあげてもいいんだけど、その前に忠告――――――」
――――――ドゴオッ!!
「――――な、何っ・・・!?」
速度に乗っていたルゥムは何かにぶつかったように急停止し、その衝撃でルゥムは全身に打撃ダメージが走る――――
「あんまり速度に乗ると、壁にぶつかっちゃうわよ・・・って、もう遅いか。貴女が速いんだもの。」
「空気の、壁・・・」
空気の壁に激突したルゥムはその勢いを失い落下する――――
「その通り、技でも何でもなく、ただ空気を固めただけ・・・これこそが風使い、バカみたいに空砲打つだけじゃないの。」
「・・・へへ・・・オバサンの言う通り、速度は上げなくて良かったみたいね・・・」
地上へ落下しつつルゥムはティルの背後を見る――――
「減らず口を――――ん?」
「ぉぉぉぉおおおおおおおおおっ――――――ルゥム!!」
―――――ドシュウゥ!!
ルゥムの視線の先からカケルが天を走って来た。すぐさま超高速で落下中のルゥムを抱きとめる――――
「大丈夫か?」
「えぇ、何とか・・・ぶつかったとこが痛いけど、カケルがカッコ良く抱き留めてくれたから、悪くはないわね・・・」
カケルはルゥムを地上に寝かせる――――
「ルゥム、すぐに片付けて手当に戻って来るから、ちょっとだけ待ってて。」
「あ、アタシも・・・」
「ルゥムはここにいて」
「でも・・・」
「大丈夫、ちゃんと助けてもらうから・・・」
「・・・わかったわ。」
「・・・アンタら・・・人前でよくもまぁイチャつけるわね・・・」
――――――ゴオオオオオオオオオオッ!!ビュオオオオオオオッ!!
無視されていちゃつかれたティルが怒り、その周りが嵐となる――――
「おっそい空気の流れだね――――『神の靴 韋駄天』」
――――ドシュウゥ!!
カケルは再び天を駆け出す――――
「お前には何もさせない――――恐怖を感じる間もなく散れ“神速 光”」
――――ゴアッ!!
カケルが一気に加速する――――
「ぐっ!!彼女より貴方の方が数段速いみたいね――――でも―――――」
ティルは雰囲気からヤバさを感じ取り、回避行動を取り直撃を避ける――――そしてルゥムにしたように凝固した空気の壁を発生させる―――――
「何をしたか知らないけど―――――もう一度――――愛する者を想う速度は森羅万象を凌駕する滅びの速度“神速 恋”」
――――――ッ!!
大気を切り裂く音すら聞こえる間もなくカケルはティルに接近し―――――
(―――来たっ!!自滅しろ――――)
―――――――ドゴオォッ!!
その衝撃音は、ティルに体当たりしたカケルが発したものだった――――
「――――っ!?がはっ!!ゴホッ!!・・・ば・・・バカな・・・」
瞬速の体当たりでのダメージよりも空気の壁を突破された衝撃がティルを襲う――――
「“空気の壁”が、突破される速度だということか・・・げほっ!!いや、それにしたって減速はする・・・空気の壁なんてなかったかのように・・・貴方、いったい、何を?」
「何?僕は何もしてないさ。・・・ただ、空気の壁だったら僕には無意味だよ。『神の靴』は元々、“速く走るために空気抵抗等の除去”をする神具だからね。神通力の量で多少は足を動かす補助はしてくれるけど、基本はそこ。」
「空気抵抗の除去?」
「そう。ルゥムなら羽が混ざってるから風を無視してもダメージになるから厄介だったけど、風しか使わないあなたは僕に何もできないよ。」
「そ、そんなことが・・・」
カケルの神具『神の靴』はあくまで走行支援の神具。しかし、それは純粋な風を起こす『神の箒』との相性は抜群に良かった。
「さぁ、とどめだ!!ルゥム、ユニゾンを!!」
「えっ!?もう勝負はついたものじゃない・・・カケル、どうして強化なんて――――」
「その方がカッコイイからに決まってるでしょ―――!!」
「―――素敵っ!!」
バカップルここにあり。
「「“重なり合う心”!!」」
二人の心が一つとなり――――
――――バサァッ!!
カケルに翼が授けられた――――
「――――我らは天を統べる者なり――――――“神獣纏身 ver.天馬”」
カケルを羽と風が包み、その姿を翼が生えた白馬に変える――――
―――――バサッ!!
天馬は羽ばたき天高く飛翔する――――――
「翼と脚とが合わさって、神速超えるは―――――――」
「想う二人が奏でる愛の唄―――――――」
「「“恋に落ちる瞬間”」」
―――――ドッ!!!!
カケルとルゥムが言い終えた時には天馬はティルを体当たりで吹き飛ばしていた―――
「――――――。」
―――――――――ッドウンッ!!
ティルは何も言う間もなく天馬に墜とされる――――。
――――――バサッ――――――スタッ。
「―――――――ふー、さすがに走りっぱなしで疲れた・・・。」
「でもカッコ良かったわ。」
翼の生えたカケルはルゥムの傍に降り立つ。
「少し休んでから、ヒカルの所へ行こうか。」
「ええ。」
――――――――――ビュオッ!!
その時、カケル達の上空を何かが通り過ぎる。
「――――――何かしら?」
「スゴいエネルギーを感じたけど・・・」
「まぁ、大丈夫よ。どうせこの先の防衛ラインは越えられない。アタシ達の最強の王が国を護ってるのだもの。」
「それもそうだな。」
ルゥムの言葉を信じ、通り過ぎた者をカケルは気にしなかった。
「・・・・・・ん?・・・雪?」
「お、ホントだ。北の地なだけあるね。」
「え、ええ。そうね。」
上空から僅かに降ってきた雪にルゥムは心当たりがあった。
「・・・まさかね。」
ルゥムはリオウを信じ、二人は次の動きに備えて休息を取るのだった。
―――――主戦場上空戦 ウェルドラド軍 ルゥム・カケルの勝利
どーも、ユーキ生物です。
最終章もだいぶ佳境になってきましたね。個人的にはこの主戦場上空戦の様な圧倒的なオレつええええ的な展開は大好きです。カッコイイ。でも主戦場戦のようなちょっと狂気な感じもいいですね。
ちなみに私はルゥムとカケルがいちゃついていても一切イラつきません。リア充だからではなく、独身貴族を満喫する気しかないので。
この二人の清々しいイチャイチャっぷりを書いていてラブストーリーも書きたくなってきました。独身貴族満喫中の私が・・・ものすごくリアリティがない話になりそうですね。自重します。
ちなみにこの三十六話ですが、ハイスピード戦ということで、ルマン24時間耐久レースを見ながら書きました。まぁ、だから?って感じですが。文章に反映されたとは思えませんが、書いてる私だけはメッチャ疾走感に包まれてました。自己満足ですみません。
次回更新ですが、投稿翌日の6月24日土曜日の20時に投稿します。
次は第三十六.五話としてメチャクチャ短い戦闘を投稿します。本来は三十六話の末尾に付けようとしたのですが、後で見返した時に「あれ?あの戦闘どこだっけ?」となりそうなので整理の意味も兼ねて分割しました。一週間の時間を取るのもアレなんで、24時間後に投稿します。
そんでもって、第三十七話は翌週の6月30日㈮の投稿を予定しております。