第三十二話 未来を手にする戦い
―――ウェルドラド北部へ向かう馬車の中
「―――では、まず現状の確認を行います。」
侍従長であるメイドのセツナが取り仕切るその場には、リオウ軍およびヒカル軍の全戦士が集っていた。
「セツナさん、もう大丈夫なんですか?」
「えぇ、御心配には及びません、キララ様。ヒカル様に治療していただきましたので」
最終戦でコウとカケルに破られたセツナだったが、既に回復済みで全員に会議用の資料を渡す。
「―――まずは勝利条件の確認から――――」
第三十二話
未来を手にする戦い
「勝利条件は
①敵勢力の全滅
②敵将、現帝王キシリ様の打倒
③ソフィ様の奪還
④それらを戦士、国民誰一人として犠牲を出さずに
・・・以上でよろしいですか?」
セツナが出した勝利条件にカケルが顔をしかめる。
「・・・全滅させる上で、こっちは被害ゼロ・・・難しいね。」
「はい。しかし、どれ一つとして落としてはなりません。」
「上等じゃないか・・・現王だかなんだか知らねぇが・・・俺らに喧嘩を売ったことを後悔させてやろう。」
一方でコウは拳を突き合わせて意気込む。
「次に、敵勢力ですが、調査部隊の情報ではキシリ様とその戦士、そしてテクノリアの機人兵団、その数五十万・・・」
「五十万!?」
「父上は本気でボク達を・・・」
「戦士ってオレたちみたいに五人なの?」
「その通りです、カルノレット様。ですので、キシリ様含む六名の強敵討伐が勝利のためのミッションとしてあります。」
「それでは明日の作戦ですが、ベース案をワタクシの方から提案させていただきます。その後に皆様のご意見を御聞きして調整していく形でよろしいでしょうか?」
戦士達は皆頷く――――
「まずオフェンスとディフェンスに二分割します。その内訳ですが―――――」
セツナを先頭に翌日の戦争に向けたブリーフィングは夜遅くまで続いた――――。
―――――そして、翌朝
ウェルドラド北端、テクノリアとの国境を少し超えた先に戦士たちは到着していた。
「うわー、テクノリアの王城が見えるよ。」
「カケル、知らないの?テクノリアは世界で最も国土が狭い国なんだ。ウェルドラドの帝都と同等の国土しかないからね。」
「へぇー街サイズの国なんだ。・・・ねぇ? どうしてウェルドラドとの国境はこんなにも何もないの?」
ルゥムの言う通り、国境周辺は広大な荒地となって発展の様子が見受けられなかった。
「この辺は寒さが厳しくて、数十年前までは凍土だったらしいと以前書物で読んだことがある。」
「まぁ、五十万もの大群を相手する主戦場としては、このくらい開けていた方がちょうど良いですね。」
その言葉の主が一歩前に出る。
――――――同刻 テクノリア王城
「――――出撃!!目標はウェルドラド!!」
――――五十万の機人兵団がウェルドラドに進軍を始めた。
―――――その数百メートル先の物陰
「進軍を開始したようだな・・・。」
「よし、兵が出きってから俺らも突入するぞ。」
オフェンス部隊が進軍する機人兵団を見守る。
――――――主戦場
「・・・いらっしゃったようですね。」
「それじゃあ、ボク達も行こうか。それじゃあ、頼んだよ・・・ベル姉。『ボクが信じてるベル姉は五十万の軍勢に負けない』・・・それじゃあ、ご武運を・・・頼んだ、カケル。」
「うん、それじゃあ、ベルさん、がんばって。」
――――ドシュウゥ!!
ヒカルはカケルに運ばれ主戦場を離れる。
そして、広い主戦場には一人だけとなった。五十万軍勢を受けるは――――――一人のメイド、否、その数は正しくない――――
「任されました。ヒカル様―――――“愛の庭”」
――――――ドゥンッ!!
ベルの神具『神の糸で織ったエプロン』が輝くと、そこには広い主戦場を埋め尽くすほどの、五十万人のベルが現れていた。
「さあ、開戦です。」
五十万VS五十万の戦争が始まる――――
―――――テクノリア王城前
「それじゃあ、俺らも行くぞ。」
「うん。」
ウェルドラドのオフェンスチームはコウ、シゲノブ、レイラ、カルノレット、キララの五名、五人が物陰から進みだす。
「随分慎重なんだな。」
ウェルドラドのオフェンスチームが城に入ろうと歩を進めると、その門にはイレアが立っていた。
「父さん・・・」
「――――『神の杭』 ・・・無論、ここを通すことはできない。どうする?」
イレアが神の力を消し去る神具『神の杭』を突き立て、城門周辺で能力を遣えないようにする。
「アタシがみんなを通すだけよ。」
イレアの前にはレイアが立ち塞がる。
「レイラ・・・やめておくんだな。お前じゃ私には勝てない。『神の杭』の効果範囲内では回復できまい。」
「かもね。」
レイラはその場から後退する。
「まったく、やりにくい――――“いわ〇だれ”」
―――――ゴロゴロゴロゴロッ!!
イレアの上空から岩が雪崩の如く襲い掛かる――――
「アタシたちの任務はここを通ることじゃない、父さんを撃破すること。そのためには、二対一も厭わない。頼むよ、カル!!」
「能力消去の敵とかやりたくないけど、しょうがない。」
「・・・うまいもんだな。消去の範囲外から消去されない岩を落とす、か・・・しかもその間に三人を先へ通すとは・・・」
岩雪崩の中からイレアが出てくる。
「遠慮はしない。全力で来るがいい、この現王政軍事局長、元『滝の戦士』イレア、参る。」
―――――主戦場上空
テクノリアの機人兵団の上にカケルとヒカルがいた。
「カケル、それじゃあ王城まで頼む。」
「了解――――!!」
――――――ドシュウゥ!!
高速で戦場の上を進む――――
「ヒカル発見!!“剛嵐槍”!!」
「危ない!!“サイクロンカノン”!!」
―――――ビュオゴオオオオオッ!!
上空で暴風の槍と暴風の翼弾がぶつかり合う。
「へぇ、アンタも風使いかい、ウチは現王政異能局長・・・元『箒の戦士』のティルってんだ。」
ティルと名乗るは箒に乗ったまさに魔女と言わんばかりの格好をした女だった。
「カケル君、行って!!速くオフェンス側に合流するの。」
「う、うん!!ルゥムも気を付けて。」
そう言うとカケルはその場を離れる。
「足止めしようとしてたところ悪いけど、アタシが相手させてもらうわ。魔女さん。」
「ふふ、きれいな翼ね。風対風、いい勝負ができそうだわ。」
――――テクノリア王城
「ほとんど敵がいないな・・・」
鎧を纏い、広いバルコニーに出て安全を確認したコウの言うように、城内はもぬけの殻と言わんばかりの無人っぷりだった。
「それほど主戦場に戦力を割いている、ということだろうか・・・」
「イレアさんの防御に相当な自信があるのかも・・・」
「・・・さて、予定ではこのバルコニーで合流なんだけど・・・」
「あ、来たみたいね。」
―――――ゴウッ!!
バルコニーにヒカルを担いだカケルが到着する。
「待たせたかな?」
「ヒカル、カケル!」
「屋上に父上を確認した。向かおうか。」
上空から侵入したヒカルが情報を伝え、奥へ進もうとする。そんな中、踵を返す者がいた。
「来てすぐで悪いけど、僕は援軍に戻るね。」
「カケル・・・」
「よいのではないか?この城もほとんど無人の様だし・・・」
「わかった。それじゃあ、カケル、頼んだぞ。」
「うん。」
―――――ドシュウゥ!!
カケルが高速で城を後にする。
「カケルの機動力は広い場所の方が発揮されるしね。」
「――――――!?」
鎧を纏うコウがピクリと何かに反応する。
「・・・コウ殿?どうかしたか?」
「すまん、怪しい勢力を感じた。カケルがいなくなったところで悪いんだけど、戦士かもしれないし、俺も一度城を出るわ。」
「・・・そうか。頼んだよ、コウ。」
「某も共に行こう。」
ヒカルの元を離れたコウにシゲノブが付き添う。
「シゲノブ・・・でもヒカルが・・・」
「私に任せといてください。それに・・・コウさん、その勢力って結構ヤバそうなんですよね。」
心配を払拭するようにキララが応える。
「ああ、おそらく主戦場への援軍を・・・作っているようだ。」
「・・・なら、尚更です。主戦場を落とすと国民に被害が行ってしまいますから。」
「・・・キララ、すまない。すぐ戻る。」
コウとシゲノブが来た道を引き返す。
「よし、キララ、それじゃあ気を引き締めて屋上に行こう。」
「はい。」
ヒカルとキララは城の屋上に向かって進み出す。
――――――主戦場よりウェルドラドに数キロ
――――メイドの包囲網を抜けた。
――――やはり奴等は隠密機の対策が甘い。
ウェルドラドの隠密機能を有した機人兵団が工学迷彩にて透明になり進行していた。
――――とりあえず20機包囲を抜けたことを確認。
――――少ないな。
――――巻き込まれた機体が多く発生してしまったためかと。
――――まぁ、いい。これよりウェルドラドへの突撃を開始する。
――――ん? 前方に地面を引っ搔いてできた線が・・・
――――罠か?
――――解析結果、特に罠や電波等が仕掛けられた様子なし。
――――わかった。それでは、隠密機人部隊、進軍!!
ステルス機能によって透明化している機人部隊がベルの包囲網を抜けウェルドラドに進軍する。
そして、大陸に描かれた線を越えた瞬間―――――
「迷彩効果が消失!?」
「音声隠蔽システムも消失している!?」
「何故!? 何が起こっている!?」
隠密機能が失われるというトラブルに慌てる機人兵団。
「この線かっ!?」
「ただの線ではないのか!?」
「その線は、第一防衛ラインといって、その線より先は隠し事ができない用に我が言霊を掛けた。」
何もない空間から現れたのは、鉄壁の防衛ラインを築くため、昨晩の会議で満場一致にてこの場を任された、最強の王リオウ。
「リ、リオウ!?バカなっ!?人質奪還のために攻撃側に行くのではなかったのか!?」
「その通り、我が、助けたかったさ。だが、我は王でもあるのだ。その仲間が必ず助け出すと言うのであれば、それを信じ、我の役目に徹することが最善の選択というもの。だからこそ、この先にある第二防衛ラインは、誰にも超えさせない!!」
―――――テクノリア王城 屋上
「ほう、ヒカルが来たのか。てっきり、リオウがセツナを連れて来るものと思っていたが・・・」
そこには戦場を眺める現皇帝キシリがいた。
「それももちろん考えましたが、父上もそれは想定して対策を練っているでしょうし、そうなった場合は、父上が能力を見ていないキララが有効だと判断した作戦です。」
現皇帝に対峙するは第二皇子ヒカルとその戦士キララ。
「まぁ、その采配が正しいかは戦ってみればわかる。来るがいい、若き力よ。」
キシリは拳を構えてヒカルと向き合うのだった。
どーも、ユーキ生物です。後書きで書くこといっぱいなのでテキパキと行きます。
まずは割とどーでもいい話から。今回から物語の書き方をちょっと変えてみました。気付いた方いらっしゃいましたかね?今までは普通に初めからつらつらと書いていっていたのですが、今回から先に会話部分だけ書いて、後から地の文を書き足すスタイルにしてみました。クオリティは体感的にあまり変わらないのですが、演劇上がりの私としては随分書きやすくなりました。そんなご報告を。
次に、今回から「VS現王政編」となります。最終章です。陣形の補足ですが。
ウ ルテ ←カ ヒキ キ テ
ェ ゥ ィ ケ カラ シ ク
ル ムル ル ルラ リ ノ
ド リ
ラ リ隠べ機 カレイ シコ→ ? ア
ド オ密ル人 ルイレ ゲウ ?
ウ兵 兵 ラア ノ ?
団 団 ブ
という位置関係です。上手く表示されてますかね?・・・あれ?s・・・
では、次ですが、次作の情報に関してですが、「戦士達ハ世界ニ其ノ名ヲ謳ウ」がその内終わったら次は前作「Desire Game」の続編(?)「Desire Game -2nd players-」を予定しております。綴りあってるかな? 投降は2017年秋、としました。もう少し早く投稿したいのですが、前回の反省でプロットをしっかり書く、というのもありましたのでちょっと多めに見積もってます。
ちなみに今度の秋に続編やる、という情報は先駆けで「Desire Game」の最終話にある後書きに追記してました。二週前の投降後の日曜辺りに。ラーメン屋でラーメンが出てくるまで暇だったので何となく追記しました。気付いた方いましたかね?
では最後に、今回のキャラ解説ですが、今回はキララです。属性は「雷電」でんきタイプです。
名乗りは
「聚蚊成雷 雷霆万鈞 迅雷風裂 覇者の槍 我が身に宿りし悪鬼の呪縛 一会の縁 旱天慈雨の明珠に成さんと 金碧輝煌の光を放つ!! 轟きたる『雲の戦士 シャインブループラチニウム』」です。
意味は、小さな電気でも集めて大きな雷と成す。その勢いは凄まじく、扱うは世界を壊す覇者の槍である。私は鬼の呪いを持っていたが、運命の出会いで救われ、その出会いを、運命を輝くものにするために呪われた力であろうとも金色に輝かせる。という意味になっております。
キララの名乗りが一番最初に作ったものなので結構思い入れがあります。上手くはないですけど一番語感に気を遣った名乗りになってます。「~覇者の槍!!」ってとこまでは全名乗りの中で最も気に入ってます。後はとにかく“雷”の字を使うというこだわりがあります。まだこれを作っていた頃は造語なんて考えもしなかったので既存の四字熟語縛りで作ってますし。お気に入りの名乗りです。・・・作ったのは最初でも、物語で登場したのはソフィと並んで最後なんですよね。計画性の無さ・・・orz。
今回は盛りだくさんの後書きでしたが以上になります。
次回は6月2日㈮に投稿予定です。




