第三十話 最終戦① THE TOP
―――天空コロシアム
わああああああああああっ!!
「さあ!!やってきました最終戦!!ユイの今まで培ってきた勘が、この戦いですべての決着が付くと告げています!!」
「・・・だからこその“最終”戦ですからね、ユイさん・・・」
「会場は既に沸騰寸前の盛り上がりっ!!」
「会場、どころかこの国全体が、と言っても過言ではないでしょう。なんせ、この戦いで次期王が決まるのですから・・・」
「さぁ!!各軍の皇帝候補とその戦士の入場です!!」
その数刻前―――
―――ヒカル軍控室
「さて、時間か・・・」
「コウ・・・キツイと思うが、セツナの引き付け、頼んだぞ。」
「まぁ、キツイのはみんな一緒だ。俺じゃあリオウに攻撃を当てられそうにないし・・・強いて言うなら、早めに決着をつけてくれ。お前の得意な速攻だ、頼んだぞ・・・カケル。」
「そうよ。リオウはアタシが軸で引き受けるけど、近接に持っていけるかわからないし・・・魔術を放つよりも速く、ね。」
「う、うん・・・精一杯、走り続けるよ。」
「それじゃあ、その作戦を軸に、あとは臨機応変に・・・勝とうっ!!」
「「「―――おうっ!!」」」
正装を纏うヒカル・レイラ・コウ・カケルが拳を突き合わせ、高らかに叫び――――戦場へと一歩踏み出した。
―――リオウ軍控室
「セツナ・・・頼りにしているぞ。」
「・・・はい。」
「・・・心配か?」
「そう、ですね・・・ヒカル様に強化された戦士を複数相手するわけですから・・・」
「すまない・・・カケルの速さと、コウの奇怪な能力は『神の棍』にも“王の啓示”にも相性が悪い・・・セツナなら、大丈夫だ、皇帝の刃は、折れぬ。」
「―――はい。」
正装の二人は向き合い、頷く――――そして静かに、会場に向き直した。
―――会場、関係者用観戦席
「・・・この大事な時にこんなとこで見てることしかできないとは・・・」
「カル・・・気持ちはわかるわ・・・ここにいるあたしたち・・・もちろんキララさんも同じ気持ちよ・・・。」
「うむ、ルゥム殿の言う通りだ。」
「・・・ところでキララさん。ベルさんはいらっしゃらないのですか?」
「はい・・・詳しくは分かりませんが、お仕事があるようです。ソフィさん。」
決戦を最もよく観ることができるこの席には、戦い出ることができないカルノレット、シゲノブ、ルゥム、ソフィ、そしてキララが座っていた。ベルの席だけ空席となって・・・。
「ちなみに、決戦に参加できない負け組戦士達はユイ達の前で戦いを見ていますので、解説に加わっていただけたら、とか思ってます。」
「ユイさん・・・お願いする立場のくせに随分とナめた口ききますね・・・。」
―――ピキピキピキピキ
「わ、私は引き分けです。負けてません。」
「ソ、ソフィ・・・そこまでしなくても・・・」
ルゥムが宥めるソフィは既にユイを氷漬けにしていた。
「ユイさんが因果応報の罰を受けていますので。しばし、試合前の緊張感を実況なしでお楽しみください。・・・入場してきましたね・・・。」
第三十話
最終戦① THE TOP
「――――くしゅんっ!!・・・さ、寒い・・・っと・・・失礼しました。一人氷河期に突入してました・・・。さて、入場してきました各軍の紹介をいたします。ウェルドラド第一皇子にして、最強の言霊使いリオウ様の軍はリオウ様、そして副将戦に勝利した従者部隊侍従長、『時の戦士』セツナ様!!」
「人数こそヒカル軍には劣りますが、個人の戦闘力はかなり濃いですね。・・・それに、リオウ様が手にしている棍・・・まさかとは思いますが・・・」
「続きまして、ウェルドラド第二皇子のヒカル様、この戦いが始まるまでは次期皇帝はリオウ様と思われておりましたが、まさかの戦士戦では勝ち越し!この最終戦を優位に始めることができるところまで着ました。ヒカル様の軍はヒカル様、先鋒戦を勝利した不屈の格闘家、『水の戦士』レイラ様、次鋒線を勝利した刺突の剣士『現の戦士』コウ様、そして中堅戦を勝利した神速の少年『大地の戦士』カケル様!!」
「ヒカル軍はセツナ様の様に隙の無い戦士は少ないですが、回復、分析、高速と厄介な特徴が揃ってますね・・・ヒカル様が戦力に数えられないのは痛いですが、それでもお釣りがくる戦力差を稼ぎましたね。」
「両軍、整列!!」
イレアが戦士達に呼び掛ける。
「よくぞここまで来た・・・国民は意外と思っているかもしれんが、我はヒカルが立ち塞がってくると思ってたぞ。」
「・・・兄上」
「だが、我もそれを見越してここまで来た・・・全力で行かせてもらう。」
「はい・・・ボクも、本気で兄上を倒しに行きます。」
各軍が向き合う。
「両軍、礼っ!!」
そして、イレアの号令で、戦士達がお辞儀をし―――
「各軍配置へ!!」
それぞれの位置へつく――――
「この最終戦ではフィールドの中心を越えなければ好きな位置からスタートすることができます。東のリオウ軍は・・・中心より5メートルほどに二人が並んでいます。そしてヒカル軍は・・・中心線ギリギリに三人、その一歩後ろにヒカル様、おっとコウ様が集団から3メートルほど離れましたね。」
「ヒカル軍は攻める気が溢れ出てますね・・・コウ様は別動隊の様ですね。」
「各軍が配置につき―――――この国の未来を決める戦いが――――始まります!!」
―――――シン
会場全体が息を飲む
「玉座決定戦、最終戦、いざ尋常に――――始めっ!!」
「“祝福の鐘”」
“祝福の鐘”それはヒカルだけが扱うことができる仲間の存在を照らし、強化する言霊の魔術――――
「『カケルは速い誰よりも――――』」
「――――“神速 光”」
―――――シュンッ!!
ヒカルに強化され速攻を仕掛けるカケル――――
―――――ガッ!!
「―――――いい仕掛けですが、させるわけがありません。」
カケルの飛び蹴りを防いだのはセツナ――――
「やっぱ時間系の能力は単純な速さじゃダメか――――」
「『コウも速い、そして強い――――』」
――――――ドシュウゥ!!
鎧を纏ったコウはカケルほどではないが、尋常ならざる速さでセツナに迫る―――――
「『レイラも速くて強くて、そして、其処に在り続ける――――』」
「“神突 駿”」
―――――キィン!!
コウの刃をカケルを受け止めているセツナが小太刀でさらに受ける――――
「おいおいマジかよ――――」
超人的な体捌きをするセツナにコウは驚く
「セツナ――――」
リオウがセツナに加勢しようと動き出す――――
「“滝割りっ”!!」
「――――くッ!!」
―――ゴッ!!
「リオウ様、アタシがお相手しますよ。」
棍をはじいた拳、レイラがリオウに立ちはだかる。
「『レイラの拳は鋼よりも硬い――――』」
「“水鋼旋打”!!」
拳が強化され、レイラはリオウの棍を真っ向から受ける。
「ボクも兄上の相手だ。」
レイラとリオウがやり合う間にヒカルがレイラの後ろに移動していた。
「ヒカル・・・仲間がお前の新たな武器、というわけか・・・」
「武器なんて言い方は止めてほしいけど・・・まぁ、認識的にはそんなところかな。」
「どーも、ヒカルの拳です。」
「レイラ・・・」
――――シュンッ!!シュンッ!!シュンッ!!
――――カカカカカカカキィンッ!!
「はああああああああっ!!“神突 絶烈裁壁”!!」
―――――ッゴオオオオオオオッ!!
コウが放つは那由他の突きの壁――――
「“時を超えて”―――時間遅行の前ではその妙技も意味を成しません。」
セツナは突きの壁の中にいて、すべての斬撃を避けきる――――
「はははっ!!強えぇな、そりゃベルも歯が立たねぇワケだ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「ヒカル!!作戦変更だ!!悪いがカケルはこっちに来てもらう、それでも危うい!!」
コウはセツナの強さを感じると離れて戦うヒカルにそう叫ぶ。
「さぁ、カケル。俺とお前でこの侍従長・・・時空の壁を破るぞ。」
「うん!!」
――――――ゴウッ!!
――――――シュンッ!!
“今”を感じ、未来を予測するコウと、純粋な速さを極めるカケルが、時空の壁、セツナを打ち取るために、超高速戦を仕掛ける。
――――キキキンッ!!
二人の高速の攻撃を遅く流れる世界でセツナは捌きつつ思う・・・
(・・・コウ様は未来予測で思考が一手先を行く分厄介ですね、動きは遅いが気を遣います。カケル様は動きが単調で予測して避けられますがっ、動きはこの遅行世界でも速いですね・・・負ける感じではありませんが、この二人、ちょっと、時間がかかりそうです。)
「せいっ!!」
――――ズドッゴロゴロゴロゴロ・・・!!
突撃してきたカケルをセツナは勢いを利用して投げ飛ばし――――勢いのついていたカケルは派手に転がる。
(カケル様は基礎格闘力も、そこそこなので、なんとかなりますかね。)
「“神突 破牙一衝”!!」
――――キンッ!!ドカァッ!!
「カケルッ!!大丈夫かっ!?」
コウの突きをセツナは止めるが、威力が高くセツナも吹き飛ばされてしまう。
「な、何とか平気・・・」
「予想はしていたが、時間遅行・・・かなり厄介だな。」
「マズいね・・・ジリジリと追い詰められてる感じがする・・・」
「・・・もう少しが届かないんだよな・・・」
コウとカケルはセツナの時間遅行に苦戦を強いられていた。
「はあっ!!“拳蹴連旋”!!」
縦に横に回転しつつ拳と蹴りを絶えず繰り出すレイラ――――
「『神の棍』“玄武甲陣”」
―――――スガガガガガガガッ!!
リオウはその猛襲を棍で捌ききる――――
「『棍が纏うは闘志の爆炎』」
――――ボウッ!!
“王の啓示”でリオウの棍が炎を纏う―――
「『レイラは炎なんかよりも熱い!!意にも介さない!!』」
すかさずヒカルがレイラに耐火性を付与する。
「『落ちろっ轟雷!!』」
―――――ドッッッ!!ガアアアアアアアンンッ!!
レイラに雷が落ちる―――
「雷はぁ!!受け慣れてるのっ!!」
「『レイラは雷を味方に変える―――』」
雷の中をレイラは進む――――
「“炎雷混襲撃”!!」
雷の閃光を利用した不意討ちの肘撃ち
「――――中々やるな、だが積み重ねが違うっ!!」
リオウは数々の猛者が何十、何百年と繰り、蓄積していった技術を『神の棍』にて継承している。この不意討ちも経験が『神の棍』にはあった。
「くっそ・・・これでもダメか・・・リオウ・・・最強の魔術師とは聞いていたけど、いったいいつからこんな肉弾戦を・・・隙が無さ過ぎでしょ・・・」
さすがのレイラも放つ技すべてをガードされて突破口が見えずにゲンナリする――――かと思いきや―――
「こんなに強いやつを相手できるなんて・・・盛り上がってきた!!これでこそ最終戦!!」
折れない戦士レイラはこの戦況を存分に満喫してた。
「――――ぐふっ!!」
――――ゴロゴロゴロゴロッ!!
再びカケルはセツナに投げ飛ばされる―――
「少し速度を緩めてはいかがですか?その速さでこうも投げ飛ばされていると、さすがにキているのではなくて?」
投げ飛ばした無傷のセツナはカケルにそう説く。
「ま、まぁ、セツナさんの言う通り、結構キてるよ。・・・でも、僕の武器は速さだけだからね・・・今更退くわけにはいかないんだ。」
「・・・ご立派ですね。それで勝てるとは思いませんが。まぁ、カケル様にはご退場いただいて、それからコウ様、と行かせてもらいます。」
「くっ・・・」
コウとカケルはセツナの時間遅行能力に徐々に削られ、劣勢となり始めていた。
(・・・マズイ・・・カケルとコウがこのままだと・・・なら!)
リオウと撃ち合いつつもレイラはセツナ戦の状況も把握していた。そして―――
「――――ヒカル!!コウ達の方へ!!リオウはアタシが引き受ける!!一分!!一分持ち堪えるから、そしたら今度は四人でリオウをっ!!」
意を決した陣形変更――――
「・・・わかった。頼んだ、レイラ。」
ヒカルはレイラを信頼して離脱して、コウとカケルの元に向かう―――
「その気概や良し。だが、我を単身で相手して、一分も立っていられると思うとは。」
―――――ゴオッ!!
リオウの棍が纏う炎が更に大きくなる――――
「あなたこそ、あなたの強さは本物だけど、アタシを見縊ってもらっちゃ困るわ。アタシは負けない・・・折れることなく其処にある戦士――――『ブレクレスシャトー』よ。」
最強の王に挑むは不屈戦士――――
どーも、ユーキ生物です。
今回は予定通り投稿することができました。最終戦は一話が長いのでちょっと焦りましたが何とか間に合いました。ちなみにGWの影響で、プロットがかなり進みました。「投稿がプロットに追い付いた。」は恐らくなさそうです。(壮絶なフラグ)その影響で近々新たな発表ができそうです。(だからと言って来週も投稿できるとは言ってない。)お楽しみに!!(苦笑)
本編の補足ですが、セツナの時間遅行はあくまでスローモーションです。コウとかベルはイメージ的には一般道を走る車が原付程度に遅くなる感じです。ただしカケルは新幹線が高速道路の車くらいと思っていただけると遅くしても厄介というイメージがつけられるかと。・・・なんか初めて後書きを有効活用しましたね。
では、いつもの設定の話ですが、今回はストーカーメイドのベルです。ベルはかなり初期から詳細が決まってたキャラになります。ちなみに名乗りが一番最初だったのもベルでしたが、一番最初に名乗りができたのはキララです。キララは名乗ったの最後でしたけど。名乗りの順とできた順はかなり関係ありません。
ベルのテーマは「愛」これに尽きます。属性は「幻闇」いわゆる闇属性です。愛と闇、もうヤンデレ路線しか見えませんがストーカーで留めました。そういうのは「Desire Game」でやります(予告ではなく)。
ベルの原初技について語りたいのですが、まだ本編で出てないんですよね。と言うより、このあとがきで一度書いて投稿して「あれ?まだ原初技出してなくね?」と気付き、急ぎ消したところです。
さて、名乗りですが、ベルは「万世不朽の愛及屋烏 敬光愛光 比翼連理の夢求め 黒炭匹婦 磨きて漆 鐘を鳴らすは本黒檀!! 一木一草 光陰持ちて 輝煌の鐘音 響く波間に影潜むっ!! 寄り添いし『愛の戦士 ファンタズマ・クロシェット』」でした。
敬光愛光は敬天愛人からの造語で敬天愛人は「天を敬い人を愛す」ですが、敬光愛光は「ヒカルを敬いヒカルを愛す」という愛の言葉です。とにかくヒカルを愛し、結ばれることを夢見ている、身分の低い黒炭でも、磨いて漆としよう。鐘はヒカルの「祝福の鐘」、それをならすのは磨きあげた私自身、全ての物が光と影がある様に、ヒカルの言葉の影として私がいる。という意味です。ファンタズマ・クロシェットは小さな鐘の幻。ヒカルのイメージが鐘なので、その影としてずっといる、という名になってます。
そんな感じでベルの設定でした。次回は大将戦の二人に移ります。
次回は5月12日(金)の更新を目指します。




