第二十七話 副将戦① 従者は仕事に時間をかけない
―――――ヒカル軍控室
帝国戦士の正装に着替えたベルがヒカル達に姿を現していた。
「おぉー!ベル姉、正装似合うね。」
「軍服がベースですから、私のような長髪よりベルさんのような短髪の方が合うんでしょうね。」
「短髪とはいってもセミロングくらいはあるけどね。」
キララの解説にコウが補足する。
「フフフ・・・ヒカル様に“キレイだね、抱きたい”なんて言われてしまいましたぁ!!」
「だ・・・!?」
「ヒカルはそこまで言ってねぇだろ。・・・って、どうしたカケル?そんなに紅くなって・・・」
「あ、うん。大丈夫、ちょっとまだ昨日の疲れが残ってるのかな・・・ハハハッ・・・」
ベルの言葉に過剰反応したカケルは誤魔化す様に笑う。
「ヒカル様がそこまで褒めてくださるならワタシこの格好で戦おうかしら・・・」
「イヤイヤイヤイヤ・・・ベルの神具はメイド服様でしょうが。」
「この正装の上に着れば・・・」
「正装にフリル付きのエプロンって・・・」
「狂気の沙汰ですね・・・」
「皆様、あれはダメ、これもダメって、ワタシにどうしろっていうんですが!?」
「普通にいつものメイド服で戦いなよ。」
「ですよねー。」
――――リオウ軍控室
「・・・やはり、いつもの服と違うと気持ち悪いですね。」
セツナは笑顔を絶やさずいつも通りに本心を告げた。
「うーん、確かにセツナさんはメイド服姿がしっくりきますよね。」
「うむ、ソフィ殿。“仕事人”というイメージがセツナ殿にはあるからな・・・」
「正しくメイド服は仕事人であるワタクシにとっての戦闘服。戦いはいつもの格好でさせていただきます。」
「・・・頼んだぞ。セツナ。」
「はい。リオウ様のご期待には必ず応えてみせます。そして、最終戦では必ずお側でお守り致します。」
「うむ、それでこそ“皇帝の懐刀”」
第二十七話
副将戦① 従者は仕事に時間をかけない
「さぁさぁ!!玉座決定戦も残り二戦!!副将戦の戦士、入場!!」
ユイのアナウンスで正装に身を包んだセツナとベルが天空コロシアムの中央に歩いて来る。
「リオウ軍からは神体『神の心臓』を宿す帝国従者部隊侍従長のセツナ様!!」
―――――――おおおおおぉぉぉぉっ!!
セツナが綺麗に礼をすると会場が沸き立つ
「ヒカル軍からは神具『神の糸で織ったエプロン』を持つ帝国従者部隊No.2のベル様!!」
―――――――おおおおぉぉぉぉぉっ!!
こちらも綺麗に礼をする
「今回は帝国従者部隊のNo.1とNo.2という対戦カードとなりました。」
「何か示し会わせているのですかね?」
「マナさんは疑り深いですね。とにかく、ユイやマナさんの上司に当たるお二人様の試合ですから、昨日の中堅戦であまり実況できなかった反省もありますが、精一杯お伝えしたいですね。」
「ユイさん次第ですから、頑張って下さい。」
「おおっ!ユイ、期待されてますねっ!・・・それではマナさんはこの戦いをどう予想しますか?やっぱりセツナ様が勝ちますかね?」
「もちろんセツナ様優勢であることは覆りませんが、状況はそこまで単純ではありません。」
「・・・と、言いますと?」
「まず、従者部隊の序列はあくまで従者としての評価です。戦闘力ももちろん含みますが、ランク差が二桁も離れてなければ戦闘力は一概に序列に準じません。」
「・・・つまりどういうことでしょうか?」
「例えば、No.3の私とNo.49のユイさん、従者としては私の方が優れていますが、ユイさんがお茶の淹れ方とか言葉遣いとかがダメダメで戦闘力が買われてNo.49にいたとしたら、ユイさんが私に戦闘で勝つことはあり得る、ということです。」
「なるほど・・・」
「それと、やはり神の力を使った戦いとなれば相性の問題もあります。カルノレット様とレイラ様の戦いではかなりハッキリ出ていたと思います。どれだけ強力な能力を持っていても相性次第でいくらでもひっくり返ります。つまり、ベル様の下剋上も十分にあり得る、ということです。」
「でも、ベル様的には“下剋上”なんですね。」
「立場的にもそうですし、まぁ、普通に考えればセツナ様優勢ですからね。」
「両者、開始位置5へ!!」
二人がメイド服になったことを確認するとイレアが初期位置を告げる。
「開始位置は5!!これは両者の距離が最も近い開始位置!!お互いに腕を伸ばせば届く距離!!近い!!」
「お二人とも近接武器ですし、素早いですからね。」
「これは開始早々目が離せませんね。」
「今までもそうでしたけどね。」
「玉座決定戦、副将戦―――――いざ、尋常に・・・はじめっ!!」
イレアが戦闘の始まりを宣言する。
―――――――――サァァァ
風の吹く音だけが会場に聞こえていた。
「始まったにも関わらず二人は武器を構えない!?どういうことでしょうか!?」
「何か話しているようですね・・・」
「ベル様、我々の様な従者は仕事に時間をかけないモノです。どうでしょう?――――――――お互い全力で一気に決めませんか?」
「まさかセツナ様からそんな提案があるとは・・・ワタシとしても願ったり叶ったりです。」
セツナの提案にベルが同意する、そして――――――
「「聴くがいい!!主に尽くす戦士の名を―――――」」
王を支える二人は同時に名乗り出した――――――――
「万世不朽の愛及屋烏 敬光愛光 比翼連理の夢求め 黒炭匹婦 磨きて漆 鐘を鳴らすは本黒檀!! 一木一草 光陰持ちて 輝煌の鐘音 響く波間に影潜むっ!! 寄り添いし『愛の戦士 ファンタズマ・クロシェット』推して参る!!」
「王候将相 金枝玉葉 英雄豪傑 見初められ 尽忠報国 戴月披星 雌伏雄飛に在りたまふ。 絶類離倫の力を継ぎて、かつての誓い その御身と共に護るべく 胸に潜む刃とならん!! 潜み支えし『時の戦士 ブレイドオブエンペラー』 参ります!!」
「“分身”!!」
―――ボボボボボボボボボボンッ!!
名乗り終えた直後には、ベルが十人に増えていた。
「あら、この間は三人でしたのに・・・ずいぶん努力なさったみたいですね。」
セツナは分身を目の前にしても武器を抜かず、称賛し余裕を見せる―――――
「ベル様の分身だぁ!!」
「あれは『神の糸で織ったエプロン』の・・・主人のお世話を滞りなく行うための能力ですね。」
「あ、なるほど、神具なのに従者のデザインしたエプロンだと思ってましたけど、そういう用途だったんですね。」
「従者で神具・神体を持つ者の能力は大抵、主に尽くすための能力です。」
「・・・では、マナさんの『神の目』も?」
「はい。ルーツは“主の些細な機微をも見逃さないため”の神体です。」
「となると、セツナ様も・・・」
「詳しい能力は私もしりませんが、恐らくは―――――」
「・・・でも、セツナ様、構えもしませんね・・・」
「・・・一対一の格闘戦なら確かにセツナ様に軍配があがります。セツナ様が余裕をお持ちなのもわかりますが・・・さすがに一対十では・・・」
「行きますっ!!」
ベルの分身十体が同時にセツナに襲いかかる―――――――
「――――――『神の心臓』“時を越えて”」
セツナがそう言うとセツナの胸部から光が発せられ――――――
―――――――ボボボボボボボボボボンッ!!
「なっ!?」
―――――ベルの分身全てが消し去られていた。
「勝負アリ、ですね。」
「――――――――っ!?」
そして、分身を消し去ったセツナの姿はベルの背後に在った。二刀の小太刀をベルの首に当てた姿で―――――――
「勝負ありっ!!副将戦勝者、リオウ軍、セツナ!!」
「・・・・・・な、なんということでしょう!!一瞬にして勝負が決まってしまった!!勝者はリオウ軍のセツナ様!!これでリオウ軍は、ついに一勝を勝ち取りました!!」
「・・・今の・・・時間遅行の能力ですか・・・」
「時間遅行、ですか?」
「ええ、セツナ様の能力は心臓の鼓動を任意で操作できるもの・・・」
「え?・・・それだけですか?」
「心臓が刻める鼓動の数は決まってます。その鼓動を速めると世界よりも時間の進みが速いということ、また、心臓が速く動けば神体能力もそれに準じます。そして、それはセツナ様からしてみれば止まった世界で自分だけが普通に動けると言うこと・・・この能力は速いとかの問題ではありません。もう一つ上の次元です・・・。」
「・・・なるほど、でもその能力って・・・」
「はい、寿命を縮めることと同義です。代償が大きい神体ですが、得る力も絶大ということです。」
「それにしてもマナさんはよくそれがわかりましたね。」
「『神の目』のお陰です。ですが、見えても身体は付いていきません、対応することは不可能かと・・・」
「身を削ってまで主のお世話を瞬間的にする神体、ということですね。」
「恐らくは・・・」
マナはあまりに強大な能力にセツナが敵でなくて良かったと安堵するのと同時に、敵に回した時を想像すると恐怖を感じた。
――――ヒカル軍控室
「ヒカル様、申し訳ありませんでした・・・ワタシ・・・」
「しょうがないよベル姉・・・セツナの能力を鑑みると・・・」
「・・・今は悔いるよりも先を考えねぇとな・・・最終戦、あのメイドが参戦するってことだぞ・・・」
「コウの言う通りだよ。ベル姉もセツナと戦って感じたこととか情報を出すのに協力して。」
「そうですね・・・わかりました。」
ベルは珍しく落ち込み、おとなしく作戦会議に参加するのだった。
「時間遅行って解説の人が言ってたよね・・・」
「『神の目』で見極めた情報ですから、おそらく間違いはないかと・・・」
「・・・ってなると、アタシは対応が難しいわね・・・」
「・・・まぁ、レイラは相性悪いよな・・・」
「あれ?でも無限に立ち上がるレイラさんだとセツナさんも能力は使いたくないんじゃ・・・寿命を縮めるみたいですし・・・」
「・・・確かに・・・」
「その辺はやってみるしかないか・・・最終戦はリオウさんの相手もしなきゃだし・・・」
「でもアタシ達には現状分析からの未来予知ができるコウと、速度なら誰にも負けないカケル君がいるから何とかなるかな?」
「どうだろうな・・・オレはさっきの解説のヤツみたく知覚はできても動けないだろうし・・・」
「僕は動きは何とか付いていけても、知覚することは思考速度が速い訳じゃないから・・・」
「んー・・・」
皆が頭を捻る中、ヒカルがまとめに入る。
「まぁ、でもみんなの意見で一つわかったよね。」
「? 何がわかったんだヒカル?」
「次の大将戦で負けたら最終戦で対応できないってこと。セツナと兄上に全力で当たって、それでもどうかわからないんだから、これ以上の人数は無理だよね。」
「・・・確かに・・・頼んだわよ、キララ。」
「・・・えっ!?」
「キララ様、ワタシが不甲斐ないばかりに・・・お願いします。」
「大丈夫、俺の見立てじゃ、相手の白い女の子も動きがキララと同じくらい素人だし。」
「そうそう、キララさんの雷速の槍は僕でも躱すのに結構苦労するくらいだし、きっと大丈夫。」
「・・・皆さん・・・私、頑張ります!!・・・ヒカルさんに恩返しができるように・・・きっと・・・!!」
キララは大将戦に向けて重圧を感じ、そして仲間の支えも同時に感じ、重圧を、責任を恩返しの機会と変えるのだった。
―――――夜 帝国従者部隊詰所会議室
「・・・セツナさん、それで、要件は何でしょうか・・・?」
詰所の会議室にはベルとセツナだけがいた。
「皇帝陛下が昨晩より行方不明となっております。」
「――――!?」
二人だけの会議室に静かな緊迫感が走る。
「本来なら皇帝陛下が外出なさる場合、侍従長に一報入るはずですのに・・・」
「一大事じゃないですか!?」
「・・・ですが、侍従長代理をしているマナは“問題ない”の一点張りで・・・」
「・・・キナ臭いですね・・・」
「そこでアナタには皇帝陛下の行方等を調べていただきたいのです・・・」
「・・・確かにワタシが適任ですね。」
「申し訳ありませんがお願いします。」
「・・・それがわかっていたのなら、今日の副将戦、わざと負けてセツナさんが情報収集に行けば良かったのでは?」
「何を仰っているのですか?格式高いあの場で八百長などもってのほかですし・・・何より、ワタクシはリオウ様に遣えているのです。優先順を履き違えるワケがありません。それはアナタも同じでしょう?」
「・・・そうですね・・・失礼しました。」
一礼すると、任務へ向かうべく、ベルは闇に消えていった。
―――――リオウの部屋 バルコニー
「夜が明けたら試合だというのに・・・どうした?」
そこには部屋の主、リオウと―――――
「はい・・・緊張してあまり寝付けなくて・・・」
大将戦を控えたソフィがいた。
「まぁ、緊張するのも無理はない・・・しかし、セツナもシゲノブも相手の金髪娘は身のこなしがほぼ素人だと言っていたぞ。心配するな、ソフィならきっと何とかなる・・・」
「はい・・・」
「不安か・・・ソフィ、近くへ寄るのだ・・・」
リオウはソフィを手招きをして呼び寄せる・
「・・・前にも言ったが、我は人に対して言霊を掛けることはできない・・・・・・だ、だが、我の口から勇気を授けよう・・・目を瞑るのだ・・・」
「――――はい。」
ソフィが目を瞑るとリオウは静かにキスをした――――。
「――――まだ不安か?」
「――――いいえ、リオウさんの御力で不安は消え去りました。ありがとうございます。最終戦でリオウさんと一緒に戦える様に、明日の試合、全力で臨みます!」
「・・・無理はするなよ。」
「大丈夫ですよ。リオウさんでないと私の強力過ぎる能力は止められません。」
リオウの口から勇気をもらったソフィは、決戦に備えるべく睡眠を取りに自室へ戻っていった。
―――――ヒカルの部屋
「キララ?どうしたのこんな夜更けに・・・」
「えっと・・・その・・・なかなか寝られなくて・・・」
ここにも部屋の主をキララが訪れていた。
「まぁ、プレッシャーはかなりのものになってるだろうからね・・・」
「えっと・・・はい・・・それと、ヒカルさんに言霊を掛けて欲しくて・・・」
「・・・? 今?」
「・・・はい・・・その、試合でのドーピングとかじゃなくて・・・この前、言霊を掛けてもらった時に何か引っかかるモノがあって・・・もう少しでわかりそうなんで・・・その、もう一度、言霊を掛けてもらえれば・・・」
「引っかかるモノ?」
「私もわからないんですけど・・・でも、きっと明日の戦いで役に立つはずなんです!」
「うん、それじゃあ――――」
ヒカルの口から言霊と疑問の解答をもらったキララは、決戦に備えるべく自室へ戻っていった。
そして翌朝―――――
―――――わあああああああああ!!
「さあさあ!!玉座決定戦の大将戦が始まりますよー!!」
「最終戦はありますが、最終的な戦力を決める大事な一戦で、注目です。」
―――――最後の最終戦参戦権を懸けた大将戦が始まる。
どーも、ユーキ生物です。
「副将戦①」とか書いておきながら副将戦はこれで終わりです。①と書くのはタイトルバレしない用です。
ちなみにベルの変なルビが付いてる原初技(?)は、また後々で出てきます。忘れてるわけではありません。むしろベルの原初技は変なルビを付けようと決めるきっかけとなった技です。忘れてはいません。
さて、いつものキャラ&名乗り解説ですが、今回は中堅戦です。中堅戦のテーマは「勇気(維新)VS自信(経験)」です。
今回はルゥム姐さんについてです。姐さんのテーマは“自信(経験)”です。ちょっとレイラと被ります。属性は“暴風”。風属性をわざわざそう言うのは“勝利”とか“事象”とかに合わせてという感じです。あの子とかも“雷”とか“氷”ではありません。ちょっとかっこよく(中二チックに)言い換えてます。
名乗りは
「単騎千軍 一矢万貫 兵戈槍壌 死地天昇 紅き地に咲く白き翼!! 偃武修文 天下泰平 白き夢 砲刃矢石 仁王立兵 紅きを以って成さんとす!! 躍り舞う『風の戦士 ブルーム・ブルーム』!!」です。
単騎千軍は千軍万場を書き換えた造語で、一人で千の軍の力を持つという意味で作りました。一矢万貫も造語で、一本の矢が一万を貫く一騎当千の意味です。偃武修文・天下泰平はルゥムの願い、平和な世界、白い夢は、砲刃矢石の武力を来る仁王立ちする兵(一騎当千の)が紅い血で染めることでしか作ることができない、それを甘んじて受け入れて、ルゥムはその兵になる。というちょっと悲しい名乗りです。ブルーム・ブルームは開花のbloomと風に乗る箒のbroomでできてます。
次回更新は4月7日㈮を予定しております。
4月6日 追記
大変申し訳ごさいません、第二十八話の投稿ですが、予定していた4月7日には間に合いません。仕事の都合です。申し訳ありませんが1週間後の4月14日(金)を改めて予定させていただきます。