第二十五話 中堅戦① 早鐘を打つ戦い
―――リオウ軍控室
「懐かしい感じだわ・・・帝国軍に雇われてた時以来の軍服・・・5年ぶりくらいかしら・・・」
軍服のような帝国戦士の正装を来たルゥムはしみじみと言う。
「ルゥム姐さんは帝国軍にいたこともあったんだ。」
「まぁね。上官がポンコツだったから割とすぐに辞めちゃったけどね。」
制帽をヒラヒラと振りつつ、ルゥムは軽く答える。
「・・・戦闘に関してプロのルゥム殿、相手はカルノレット殿くらいに若い素人・・・ここは確実に勝っておきたいな・・・」
「まぁ、負ける気はないけど、一つ誤解が・・・軍人はシゲノブとかみたいな武闘家とは違うわ。無双する存在じゃない・・・武力を手にして仕事をする存在。お互いに神の力が絡む以上何が起こるかわからないわ。」
「さすがルゥム殿、あらゆる可能性を考えておられる。」
「それじゃ、行ってくるわ。」
「・・・ルゥム、大丈夫か?何というか、いつもと様子が違うが・・・」
「こんな大舞台だから、ちょっとワクワクしちゃってるわ。」
「・・・ならよいが・・・」
「どんな時でも自分のできる最大限の仕事をするのが傭兵よ。勝つ・・・とは言えないけど、やりきってくるわ。」
「・・・頼んだ。」
「ん。任せといて。」
振っていた制帽をかぶり直してルゥムは戦場へと歩み出した。
――――ヒカル軍控室
そこには正装を纏ったカケルが、そしてそれを見る戦士達がいた。
「・・・なんていうか・・・カケル、服に着られてるわね。」
「あ、やっぱりレイラもそう思う?俺もそんな気がしてたんだよ。」
「うぅ・・・でも僕、特に戦闘用の服とかないからコウさんとかレイラさんみたく脱ぐ予定もないし・・・このまま戦うんだけど・・・やめようかな。」
「カケル君は戦士だから、ちゃんと着こなせてるよ・・・プフッ・・・」
「キララさんのそれが一番傷付くぅ!!」
カケルは両手で顔を隠してしまった。
「まったく・・・これから決戦って時に何してるんですか・・・皆様緊張感が足りてませんよ。」
「・・・あー、うん。ベル姉もボクの脚にしがみついてあまり緊張感はないと思うんだけど・・・」
「ワタシは来る決戦に向けてこうやって神通力を高めてるんです。真剣なんです。」
「・・・なるほど・・・」
あまり締まらないまま、カケルは呼び出され、決戦へと向かっていった。
第二十五話
中堅戦① 早鐘を打つ戦い
―――――帝都 天空コロシアム
「さあさあ!この次期皇帝を決める玉座決定戦も折り返しの中堅戦のお時間になりました!早速ですが中堅戦の戦士の入場!!」
――――わあああぁぁぁっ!!
ユイがアナウンスし、ルゥムとカケルが入場すると会場の歓声は一気に沸き上がる。
「リオウ軍からは神体『神の翼』を持つ元傭兵のルゥム様!・・・そしてヒカル軍からは神具『神の靴』を持つ少年、カケル様! 中堅戦は元傭兵対少年という対戦カードとなりました!!これはルゥム様有利でしょう!!」
「経験の差があることは間違いありませんが、勝負がどうなるかはまた別です。」
ルゥムとカケルが対峙する。
「お姉さん元傭兵だったんだ・・・軍服が様になってるわけだ。・・・はぁ・・・僕は素人と戦いたかったけど・・・しょうがないか・・・」
「あら、ありがと。カケル君もその格好似合ってて・・・そ、その・・・カッコいいわよ。」
照れつつ告げるルゥム。
「慰めありがとう。さっきまで仲間に散々に言われてたから少し気が楽になるよ。」
「両者、開始位置1へ!!」
審判のイレアが二人へ開始位置を伝える。
「開始位置は1!!百メートル四方のフィールドで二人の感覚が百メートルの最も離れた開始位置だ!!」
「中遠距離型の射手のルゥム様と、高機動のカケル様、近くから始まってはルゥム様はなす術ありませんからね。これでもルゥム様的には近い位だと思います。」
「まぁ、それ言ったら射手が開けた場所で一対一自体本領ではないですよね。」
「ユイさんの言う通りです。普通の射手なら、ですが――――」
「玉座決定戦、中堅戦―――――いざ、尋常に・・・はじめっ!!」
イレアが戦いの始まりを告げる。
「『神の翼』!!」
「『神の靴 韋駄天』―――――――“神速”」
―――――――ビュオッ!!タタタタンッ!!
試合が始まると互いに神の力を発言させる――――――
カケルは一瞬にしてその場から消え、カケルがいた地点には『神の翼』の羽が刺さっていた。
――――――ゴウッ!!
「韋駄天キック!!」
「くっ!」
カケルは一気にルゥムとの距離を詰め、速度の乗った蹴りを放つ―――――ルゥムはなんとか回避するが――――――
「もう一丁!!」
―――――――ゴウッ!!
「速っ!? うっ!!」
――――――ゴッ!!
カケルの追撃をルゥム避けきれずに貰ってしまい、その身体が宙を舞う――――――
――――――バサッ!
宙に飛ばされたルゥムはそのまま『神の翼』を広げ宙に留まる。
「・・・やるわね・・・でも、カケル君は地上でしか走れない、なら飛べるアタシに手は出せないでしょ!!」
――――――――シュパパパパパパッ!!
再びルゥムは羽をカケルに向かって飛ばす。
――――――が
――――――――ダダダダダダッ!!
――――――――ストトトトトトトトッ!!
カケルは全弾を走って回避する――――――。
「うーん・・・カケル君、やるわね・・・ならこっちも―――――」
ルゥムは特訓で行った盤面での追い詰め方を思い出す――――――
―――――スパパパッ!!
放った羽は三つ、今までばらまくように放っていた羽の数が減り、カケルも警戒する―――――――
―――――――ゴウッ!!
風より速く走るカケルを追う風に操られる羽―――――――
単独で見れば羽がカケルに追い付くことはないが―――――――
「―――――そう、退路が右から塞がれたなら―――――左!!」
―――――フラッ
ルゥムの予想通りカケルは左へ進路をとる―――――
――――――ストンッ!!
「ん?」
しかし、ルゥムの羽はカケルに当たることなく地に刺さっていた。
「・・・なんで・・・っ、とにかくもう一回!」
――――ストンッ
――――ストンッ
続けざまにカケルの動きを読んで攻撃をするが――――――
「ふっ!!」
―――――ゴウッ!!
避ける、避ける、カケルは何度もその羽で詰めてくる攻撃を避け続ける。
―――――リオウ軍控室
(・・・ルゥム様、思っていたより苦戦しておりますね・・・)
セツナがルゥムの戦いを見て疑問に思う。
(カケル様の動きは盤面で何度もやった動きのはずですが・・・どうして・・・)
セツナとルゥムが行った盤面での相手を追い詰める特訓、その経験は間違いなく活きている。カケルの動きに特殊なものはなく、事実、ある程度まで追い詰めることができている。しかし、最終的にカケルに羽が届かない・・・
(―――――そういうことですか!!)
カケルを見ていたセツナがその差に気付く
(――――速い、のでしょう。私達が想定していたよりも・・・ですから包囲を抜けられてしまう・・・ですが、ルゥム様落ち着いて少しずつ詰めていけばよいのです。ルゥム様は空中にいてカケル様は手が出せませんし、カケルは代償型の神具、消耗戦ではルゥム様に分があります。)
―――――ヒカル軍控室
カケルと共に特訓をしたコウは戦いの経過を見てニヤリと笑う。
「“カケルに一杯喰わされたが、ルゥムは空中にいるし手が出せない、落ち着いて消耗戦を仕掛ければ・・・”なんて相手が思ってるこの頃合いがいい・・・行けっ!!カケル!!」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「カケル君、なかなかやるわね・・・でもあなたは避け続けることしかできないでしょ?」
「はぁ・・・はぁ・・・そんなことないさ・・・」
「何ですって!?」
「そろそろ見せよう・・・僕が名乗り終えた時、ルゥムさんは地に落ちている。」
カケルは堂々と宣言する。
「何をバカなことを――――――」
「現実さ、だって僕は――――――」
勇気を身に付けたカケルは相手が元傭兵であろうと堂々と立ち、名乗りを上げる―――――――
「萎縮震慄 弱き過去 明目張胆 踏みつけて 輿馬風馳にて立ち向かう!! 不並独走 不踏我影 不言実行の駿さを以て 月の叢雲散らすべく 縦横無尽 天駆けるっ!! 奮い起つ『大地の戦士 アースェアブレイブ』なんだからっ!!」
――――――ブオッ!!
名乗ったカケルから神通力が吹き出す――――――
「“神速――――――音”」
――――――ドゴォッ!!
次の瞬間、ルゥムは地面に落とされていた。
「ぐっ!!かはっ――――――何っ!?」
そして地面に横たわるルゥムが見たものは、空中を走るカケルの姿―――――――
「なるほど・・・絶対安全圏なんてないってことね・・・いいわ、その方がよっぽどドキドキする!!この勝負、一緒に楽しみましょう!!アタシは―――――――」
これから遊ぶ相手に自己紹介をするように、ルゥムは名乗り出す―――――
「単騎千軍 一矢万貫 兵戈槍壌 死地天昇 紅き地に咲く白き翼!! 偃武修文 天下泰平 白き夢 砲刃矢石 仁王立兵 紅きを以って成さんとす!! 躍り舞う『風の戦士 ブルーム・ブルーム』!! よろしくね!!」
名乗るルゥムは暴風を纏い、少女の様に笑うのだった――――――
どーも、ユーキ生物です。
折り返しの中堅戦が始まりました。正直スピード感が出てるか疑問で不安ですけど、少しでも高速戦を感じていただけたら幸いです。
今回からは次鋒戦の二人について後書きで語らせていただきます。
次鋒戦のテーマは「前進VS待機」この「前進」のためだけにコウは突きとかいう剣術を使わせています。絶対普通に斬った方がカッコいいし書き手的にも書きやすいと反省しております。
今回はシゲノブについてですが、シゲノブのテーマは「待ち」です。
名乗りは
「枕戈待旦 拒絶刃壁 流星光底 一にして 零の空間 千の斬 唯我独存るのみなれば 神の恩恵 後の攻勢 星火燎原 越える理 浮きたる音を両断す!! 沈かなる『惑星の戦士 プラネットガーディアン』」
となってました。
枕戈待旦は実在する四字熟語で、いつでも戦えるように準備を怠らないこと。拒絶刃壁は造語でシゲノブの剣術、拒絶の刃が壁の様に立ち塞がるという意味です。流星光底は実在します。刀の振り方、洗練のされ方を表しました。その剣術一つだけで、近付いたら千回斬って零に刻む絶対的な領域を持つ。それは神の力と合わさると後の待ちスタイルでなく、後だが攻めることだって出来る、しかし、その神の力はあまりに強く手に負えない、だがリオウという理が助けてくれた。だからリオウの声を邪魔する者は私が全て断ち切る。という意味になっております。
正直「プラネットガーディアン」はどうかと思いますが、実はシゲノブの戦士の名は初めはもっとキラキラでした。これでも大分マシになった方です。“惑星の戦士”ですから仕方ないです。
ということで、次回はコウについてになります。
次回更新は3月24日を予定しております。




