第二話 鬼神院、最強の証明
第二話
鬼神院、最強の証明
「うーん、神具・神体を持つ仲間を集める・・・とはいったものの・・・どうやって探し出すか・・・」
小さな皇帝候補ヒカルとその従者ベルはあてどなく歩いていた・・・
「ワタシはヒカル様とでしたらどこへでも行きますぅ!」
「気持ちは嬉しいけど、期限までに集まらないとなぁ・・・とりあえず馬を手に入れないと・・・」
ウェルドラドは大陸一の国土を持つ大国、徒歩で行ける範囲には限りがあった。
(ヒカル様と二人きりなんだから、もっとイチャイチャとしたいんだけど・・・仲間が集まる前に・・・どうしたものか・・・ん?あれは・・・そうか!!)
「・・・あっ!あの山から神具の気配がぁ(棒)!行ってみましょう、ヒカル様ぁ!」
「え?そうなの・・・?」
「はい!あの山に・・・ほら!山小屋がありますよ!誰もいなそうですけど!きっとあそこに・・・ハァ・・・もしいなくても、山小屋で・・・ハァ、ハァ・・・誰もいない山小屋で!ワタシと一緒に今後について・・・ハァ、ハァ・・・今後のワタシ達について話し合いましょうっ!ヒカル様!さぁ!」
ベルは危ないメイドだった・・・
そして息を荒げて乗り込んだ山小屋・・・
「『鬼神院・鬼神流剣道場』・・・ここに神具使いが・・・」
「・・・そんな・・・嘘・・・まさか・・・」
「神具使いをお探しなのか・・・うむ、この道場には神具使いがおるぞい」
道場の師範、ショウイチはそう告げた。
「ホントにいんのかよ!チクショー!」
嘘から出た誠・・・
「この鬼神院の唯一の門下生、名をコウという。コウは『神の鎧』を持つ剣士だ・・・もっとも剣の腕で戦いたいと望んでおり、あまり神具を使いたがらんがの。」
師範のショウイチはそう言って神具使いコウを紹介した。
「師範、そのコウ様という方ははどちらに・・・?」
当の本人がいないのでベルが尋ねる。
「そうだった、そうだった・・・コウは今、山の中で修行中だ。行ってみるかい?」
「はい、お願いします。」
一行は神具使いコウと会うために師範ショウイチと共に山の奥へ入っていった・・・
「・・・して、君達はどうして神具使いなどを探しておるのか?」
ショウイチは今更な質問を投げ掛ける。
「申し遅れました。ボクはウェルドラド第二皇子のコトノハ ヒカルです。後に行われる王位継承の決戦で共に戦ってくれる戦士を探しております。」
「王位継承・・・それはそれは・・・コウも運が良い・・・」
「・・・運が良い、とは?」
「コウは、この鬼神流剣術が最強だということを証明する、という夢を持っておる。王位継承の決戦で勝利することは、その証明のひとつになろうからな・・・」
「最強の証明・・・」
「・・・この鬼神院はこの帝都近郊の剣術大会では好成績を残す様なかなり強い流派で、少し前までは多くの門下生がおった・・・その中でも最も強かったのが鬼神流・神突を極めた絶対的な攻撃力を持つエイジという青年・・・」
「コウさんではないのですね・・・」
「うむ、コウは門下生の中ではエイジに次ぐ強さを持っておった・・・コウは鬼神流・鬼門という後の先をとる剣術を持つスタイル・・・二人はライバルで、切磋琢磨する親友でもあった・・・そんな二人はこの鬼神院をさらに栄えさせ最強の流派として世界に轟かせようと日々鍛錬を怠らなかった・・・」
そう語るショウイチの顔が曇るのをヒカルは見逃さなかった・・・
「だが、山での修行中、二人は熊に遭遇し、エイジは、殺された・・・いくら人との対戦で強かったとはいえ、まだ修行中の子供、熊を相手にするには力が足りなかった・・・突き刺した刀は浅く、一刺しで葬ることができなければ容赦ない反撃にあう・・・相手の耐久力を見誤った結果・・・しかし、決してエイジの勇気は無駄ではなく、怪我を負った熊は逃げるコウを追わなかったため、コウは逃げ延びることができたのだ・・・」
「「・・・・・・・。」」
思っていたよりも重い話になり、ヒカルもベルも、言葉を発っせなかった・・・
「エイジの死を受け、門下生は次々と道場を出ていってしまった・・・弱い剣術と広まってしまったからの・・・世間はこう言った、エイジが鬼神院を廃らせた、と・・・コウはそれが許せなかったのだ・・・栄えさせると誓った友が、その流派が逆に鬼神院を苦しめることが悔しくて仕方がなかったのだろう。それからコウは鬼神流・神突のスタイルをとるようになった・・・エイジは間違っていなかったと、鬼神流・神突は最強であると証明するために・・・」
「・・・なるほど、でも、途中からスタイルを変えても戦えたんですか?」
「それどころか、その後のコウの成長は目覚ましかった、覚悟が違った、そして何より、エイジの剣を最も受けていたのはコウだ、その強みも弱点もよくわかっていた・・・」
「へぇ・・・なるほど・・・」
ヒカルはコウにさらに会いたくなっていた・・・
森の奥へ進む三人に、重たい足音が近付いていた・・・
「・・・ヒカル様・・・私から離れないで下さい。」
「・・・うん、ショウイチさんはやっぱり強いんですよね?」
「人相手ならともかく、獣を切り裂く筋力はもう・・・」
「・・・ヒカル様・・・かく言うワタシもちょっと筋力と得物的に獣は・・・食い止めるのが精一杯かと・・・」
「グルルルルル・・・」
足音は熊のものだった・・・体長二メートルは超えるだろう熊が、その巨体を振るわんとしていた・・・
「「ヒカル様、ワタシが時間を稼ぎますので逃げて下さい。」」
そこにはクナイを構え、二人に分身したベルが熊と対峙していた・・・
「ベル姉、折角の申し出だけど、ボクだけ逃げるなんてできないよ」
「ヒカル様・・・そ、それは!『死ぬ時は一緒だよ』的な愛の告白ではっ!?」
この非常時にも元気なメイドだった・・・
「ボクは、仲間を置いて逃げる王になどなりたくない。」
「見事な心意気だ」
ヒカルの背後、山の奥から青年が颯爽と現れた。手には刀、その刀は目にも止まらぬ速さで熊へと向かって―――――――
「鬼神流 神突 旋!」
刀と、その周囲の斬撃の旋風が熊を貫き肉を抉り―――――――――その身体を貫通した。
「大丈夫かい?」
熊の血を全身に受け、それでも輝く笑顔を向けて青年コウは言った。
「コウ――――!?」
「はい、助かりました。ありがとうございます。」
「お主がコウか?助かった。恩に着る。」
「どうってことない、このくらい。」
「して、コウさん、ボクはウェルドラド第二皇子のヒカルという者だが、ボクの戦士となって共に戦ってはくれないだろうか?」
血塗れのスカウト―――――――
「ヒカル様、一端道場まで戻ってからにしませんか?皆返り血で酷いことになってますし・・・」
―――――――は、ベルによって中断された。
―――――――鬼神院剣道場
「・・・改めて、コウさん、ボクと共に王座を懸けて戦ってはくれないか?」
ヒカルはそう仕切り直す。
「―――――オレは、ただ、鬼神流 神突が最強であることを証明したい、ただそれだけなんだ・・・ヒカル君の戦いでそれはできるのかい?」
「王を護る剣術は最強でなくてはならん」
「なるほど・・・やはり、さっきの心意気といい、オレはヒカル君の事、かなり好きみたいだ・・・いいぜ、是非ともその戦いに参加させてくれ」
「―――――――っ!?好きって!!コウ殿、ダメですよ!ヒカル様はワタシのものなんですから!!」
「・・・あぁ、そういうことか・・・ま、その辺もヨロシク頼むよ。」
「な・・・ヒカル様、やっぱりコイツ仲間にするのは――――」
「ベル姉、どうかしたの?コウさんの剣術凄かったし、いいんじゃない?」
「うっ・・・ヒ、ヒカル様・・・そんな穢れない瞳で・・・わかりました・・・確かに、頼れる強さだと――――――いや、神具!神具はお持ちなんですか?」
「神具?あぁ、『神の鎧』なら、オレが呼べば勝手に装着されるよ。」
「ベル姉、まだ何か?」
「・・・・・・いえ、宜しくお願いします。コウ殿。」
「・・・では、ウェルドラド第二皇子ヒカルより、帝国戦士としての名を授ける『現の戦士 フロンティア・ナ・ウォーカー』よ。」」
「・・・承知した。この『現の戦士 フロンティア・ナ・ウォーカー』そして我が剣、鬼神院と次期王のために――――」
――――――――そして、
「それじゃあ師範今までありがとうございました。師範から教わった鬼神流、世界に知らしめてくる。・・・お元気で・・・」
「ん、胸張って行ってこい」
――――――こうして、剣士コウを仲間にし、ヒカルは次の仲間を探しに―――――――
「ア、イタンダナ。ウエルドラドノオウジサマダヨ!」
カタコトでしゃべる人がその道を遮った。
「――――どちら様ですか?」
警戒するベルがヒカルの前に出て対峙する。
「ドチラサマ?ドチラサマデショーカ?」
「・・・・・・。」
「コイツが誰か知りたくても、名のない人形だから答えられないんだよ。」
カタコトのヤツの奥から普通にしゃべる人が出てきた。ピエロを連想させる服装をした青年。その手からは糸の様な光りを放っていた。
「貴方なら話せそうですね。何者ですか?」
警戒レベルを上げたベルがさらに問う。
「この国は名乗る礼儀正しい国だと聞いていたが、案外無礼なんだな。」
「こちらが聴いています。答えて下さい。」
「はいはい、怖えーメイドさんだこと。俺はウェルドラドの南にあるパペリオンから来た者だ。皇帝候補を人質として捕らえに来た。」
「そのカタコト、やはりパペリオンからの刺客でしたか。」
「なぁ、ベル?カタコトがやはりってどういう事だ?パペリオンって?」
何も知らないかのようにコウがベルに尋ねる。
「コウさん・・・パペリオンって言うのはウェルドラドの南にある国で、ウェルドラドでは王の啓示や神具などを扱うように、パペリオンでは傀儡を多用するのです。傀儡使いでも言葉を話すことは高度らしく、大抵の人形は話す事ができない、話せてもあの人形のようにカタコトになるんです。――――そして何より、パペリオンとウェルドラドは敵対関係にあります。」
「へぇ・・・傀儡使いねぇ・・・」
コウは興味の視線を人形に向ける。
「コウさん、ここはワタシとコウさんで分担し―――――」
「コウ、一人でいけるよね?」
「おう。」
ヒカルの堂々たる問いに、コウもまた堂々と応える。
「しかし、ヒカル様、パペリオンの傀儡はトリッキーな仕掛けが―――――」
「なら尚更、ベル姉はボクを傍で護ってて。」
「お傍におりますうぅぅぅ!!」
愛の誘惑には勝てなかった。
「それじゃあ、コウ、任せたぞ。お前の全力、見せてみろ。」
「心得た!!」
ベルが下がり、コウが傀儡使いとその人形に対峙する―――――
「なんだ、お前一人で俺らを相手するのか?傀儡使いと二対一をする厄介さを知らんのか?」
「へぇ、厄介なのか?でも言葉もまともに喋れない、そんでもって名乗る名のない相手に負けるとは思えないな・・・」
「減らず口を・・・」
「おっと失礼、まだオレも名乗ってなかったな・・・」
そう挑発すると、コウは地面を足で踏みつけ叫ぶ――――――
「『神の鎧 グラックロイオ』!!」
コウの呼び掛けに応じるように、大地がコウを包み―――――
―――――――コウの身体に鎧を纏っていた――――――
何かの生物の皮で覆った鎧――――それを纏う姿は人の形をした竜――――
「主の指示だ、全力で行かせてもらう。」
そしてもう一度、強く、大地を踏みつけ―――――――
「聞くがいい!貴様を葬る戦士の名を―――――――」
世界にその存在を知らしめるように、其の名を謳う――――――
「直往邁進 進取果敢 千荊万棘 嵐の道でも 一刀両断 踏み出す刃!! 背負いし友との志 眼前握りし我らの剣 承前啓後 突き進む!! 『現の戦士 フロンティア・ナ・ウォーカー』 ここに在りぃ!!」
「御大層にどうも、こっちも行くぞ!傀儡使いの恐ろしさ思いしれ!」
そう言うと傀儡使いは手を動かし――――――
「挟み撃ちだ!死ね!!」
「・・・手首から刃・・・毒もあるのか・・・」
「なっ!?」
コウは彼らがどう動くのか、知っていたかのように避け――――
「ふっ―――――!!」
傀儡使いを一突きにした。
「くっ・・・・・・へっ、残念~傀儡は死なず、傀儡使いもまた、甦る。これが俺のドールの特性『相互回復』」
「なるほど、同時に仕留めればいいのか。」
「―――――――っ!?お、お前、なぜそれを―――――」
――――――神の鎧 グラックロイオ――――――――
その防御力もかなりのものだが、本領は―――――――
「くそっ!なんで挟撃をそんな簡単に―――――目が背中にもついてやがるのかっ!?」
―――――――“今”を全身で感じること―――――――
「おい?アイツ、どこへ行った?」
その一瞬一瞬を静止したように感じる能力は、筋肉の機微を察し攻撃の軌道を予想し、目の位置から相手の視界を察し、大気の流れ、音の反響からその存在を察することのできる現状分析能力――――――それは未来予知では留まらず――――――
「―――――――――同一直線上に並んだ――――――」
――――――相手の動きを制御する“未来操作”にすらなりうる―――――――
無論、コウの動きが速くなるわけではない。未来操作を可能にするための動きをコウ自身がしなくてはならない。そして、それを可能にするのが鬼神流剣術―――――――
「鬼神流 神突 霊!!」
背後から傀儡使いの両肩をコウの刀が貫く―――――
「ぐっ!!――――――――ドール!『相互回復』!!」
「そのドールはもう動かないぜ。」
「なっ――――――!?」
そこには頭と胴体を貫かれた人形があるだけだった――――
「言っただろ?同一直線上って―――――」
「まさか、俺の肩と一緒にドールを!?」
「ま、殺しはしないさ。もう戦えないよう肩は壊させてもらったけどな。・・・これでいいんだろ、ヒカル?」
「見事」
傀儡使いを戦闘不能にすると、一行は仲間探しの旅を再開するのだった――――――――
戦士達ハ世界ニ其ノ名ヲ謳ウ を続けて読んで下さった方、ありがとうございます。ユーキ生物です。
後書きをガッツリ書くのは前作の途中からの取り組みで癖で今も書こうとしてます。
ちなみに投稿も金曜20時、というのも大体の定例となってます・・・はい、今回は間に合いませんでした。スミマセン。忙しいのもありますが、最近曜日感覚が狂いだし、錯覚で金曜なのに木曜かと思って余裕ぶっこいてました。気付いたのは金曜の19時56分・・・しかも名乗りは漢字変換がめんどくさいからパソコンでやろうと後回しにしていて、急いでスマホで打ちました。誤字とかあったらごめんなさい後でもう一回見直します。
本編についてですが、コウは甲であって紅ではありません。書いていて気が付きました。(予測変換)前作の紅と被りますね・・・ 神具が鎧なんで甲です。
ちなみに見直しをしていて、「警戒レベルを上げたベル」に吹きました。あまりに下らなくて・・・狙ってはいません。でも訂正もしません。結構気に入ってます。
そんな感じで今回の後書きとさせていただきます。バタバタとスミマセン。以後気を付けます。(改善するとは―――――)今後もよろしければ読んで下さい。
次回は9月3日金曜日に更新予定です。