第十六話 セツナブリーフィング
第十六話
セツナブリーフィング
「・・・そういえば、ルゥム姐さんはキョウ師範代に挑まなかったよね?」
ふと、カルノレットがルゥムに問う。
「相手の力量を見て、感じて、退ける時は退く、これもまた強さの一つよ。」
「・・・なるほど。」
「セツナさんが敵わない程の近接戦をする相手に、遠距離系のアタシがあの距離で挑んでも勝ち目はないからね。」
「・・・あれ?そういえばセツナさんは?」
ルゥムの話に上がったセツナがいないことに気付くカルノレット
「セツナさんならキョウさんに言われて情報収集に出ましたよ。」
カルノレットの疑問にソフィが答える。そしてその答えを聞き、カルノレットはニヤリと笑った。
「・・・じゃあ、今なら訊けるのか・・・」
「・・・何を?」
「セツナさんが何者か、だよ。」
「・・・確かに気になりますね・・・。」
「アタシらが解ってるのって、セツナさんはリオウの戦士の中で一番強いってことくらいなのよね。」
「くっくっくっ・・・セツナが一番強い、か。あの青二才も立派になったもんだ・・・」
ルゥム達の会話を聞いていたキョウが誇らしげに笑う。
「キョウさんはセツナさんの部隊の武道指導者なんでしたよね?」
「そうだ。アイツのことは赤子の頃から知っとる。」
「・・・侍従長殿はその頃から帝国に・・・」
セツナの話題にシゲノブまでも興味を示した。
「『神の心臓』神の存在を支える中心となる神体。その能力はとてつもないモノで、王家は『神の心臓』を受け継ぐ家系を代々側近として置いている。」
「・・・『神の心臓』って、どんな能力なんですか?」
キョウの説明ルゥムが質問をする。
「・・・俺の口からは言えんな。」
「リオウは知ってるの?」
「知ってはいる。しかし、セツナの家系は王家の懐刀、そうそう言えるものではない。」
「それほどに・・・」
「一つ言えることは、『神の心臓』が王家を裏切れば、王家は一瞬にして絶滅する、ということだ。王家にとって、『神の心臓』との信頼関係は最重要項目であることは間違いない。」
「なるほど・・・強くて、危険だから手元に・・・仲間にしてしまおう、ということか。」
「まぁ、有り体に言えば、そういうことだルゥム。」
「・・・キョウ師範代なら勝てるんですよね?」
「・・・『神の心臓』なしならともかく、それをフルに使われると、な・・・無論、使わせないように戦うが・・・あれは、強いとか弱いとかの上の能力だからな・・・」
「・・・へぇ・・・」
ルゥムが感嘆する・・・その間からカルノレットが顔を出す――――――――――
「ちなみに、セツナさんって年齢を訊くと怒りますけど、いくつなんですか?」
「・・・カルノレット・・・それを聴いて生きていられると思うのか?」
「・・・・・・やめておきます。」
カルノレットは恐怖を覚えた――――――
「強すぎる神体に、最強から学んだ格闘術・・・なるほど、強いわけだ・・・」
シゲノブが納得する――――――
「・・・でも、代償型の神体だよね?」
恐怖からの立ち直りが早いのか、カルノレットは『神の聖典』を開き、そう言った。
「・・・代償型?」
聞き覚えのない単語にリオウが聞き返す。
「『神の聖典』によると、神具・神体は、ざっと『神通力型』『一点型』『代償型』の三種類に分けられるらしいんだ。『神通力型』はソフィやルゥム姐さんの神体みたいに、威力が神通力に依存していて、注いだ神通力に比例して威力が変化するタイプ。『一点型』はシゲノブの神体のように、ある一点の超常に特化して、あとは使い手次第なタイプ。『代償型』はこの文献に『速く走れるが疲労は蓄積される』ってある『神の靴』のような使用することで使い手に負担が掛かるタイプ。」
「・・・そんなのあるんだ・・・」
カルノレットの説明に皆が感心する。
「・・・それで?どうしてセツナが代償型だとわかるんだ?」
「代償型の使い手は、あまり神具・神体を使いたがらないし、基本的に短期決戦が勝ちパターンだから仕掛けが早いって特徴があるからね。セツナさんが強いのもあるけど、あの人は神体を要所要所でしか使わないから、きっと代償型のはず。」
「・・・なるほど・・・」
「オレだって、勝つために色々勉強してるんだから。」
カルノレットは自信に満ちた顔をして言い切る。
「頼もしいな・・・」
そんなカルノレットをリオウは正直にそう誉めた。
「・・・おや?皆様で集まって、何を話していたのですか?」
そんな中、セツナがリオウのもとへ帰ってきたのだった。セツナは軽くお辞儀をする。
「あぁ、セツナか。なに、ちょっと神体についてな。」
「・・・? そうですか。」
「それで? どうだった?」
リオウはセツナに問う。
「はい、ヒカル様も既に戦士を集め終わり、帝都に向かっておられるようです。」
「・・・へぇ」
「・・・それで?戦士については?」
リオウは引っ込み思案な弟が戦士を集めたことに驚きの声を漏らす。
「はい。一人目はリオウ様もご存知だと思います、従者部隊のベルです。『神の糸で織ったエプロン』を使い、分身をします。」
「・・・分身・・・」
「従者ってことは、セツナさんバリの体術を使うんだよね?」
「その通りでございます、ルゥム様。」
「その体術使いが分身・・・やっかいね・・・。」
「分身ってことは、さっきの話でいうところの一点型かな?」
「恐らく神通力型だろう。分身の数がそれで変化する。」
「あ、そっか、リオウは知ってるのか。」
「ベルはヒカルとの相性が良い、ヤツに勝たれるとヒカルとのコンボで、最終戦は多勢に無勢という状況を強いられる。一対一の時に確実に勝ちたい相手だな。」
ベルを知るリオウはそう評する。
「二人目は若い男性、剣士な様です。神具・神体についての目撃情報がないので確実ではありませんが、鎧を纏っている姿が目撃されておりまして、刀か鎧、あとは神体の可能性が考えられます。」
「剣士とあらば、是非、手合わせ願いたいものだな。」
セツナの話を聞き、シゲノブがニヤリと笑う。
「三人目は槍を持つ少女、槍から雷撃を発するそうです。槍は神具と見てよいでしょう。雷撃は相当な威力のものの様です。」
「高威力の雷撃・・・」
ソフィは高い威力の攻撃、という点に興味を示す。
「四人目は格闘家の女性、なんでもイレアさんの娘とか・・・」
「となると『神の血』・・・超回復の使い手か・・・」
「戦士になるために山籠りをしていたらしく、神具・神体使い手と渡り合える格闘術を身に付けている様です。」
「へぇ・・・努力家なんだね。」
カルノレットが話に聞く格闘家を賞賛する。
「五人目は『神の靴』を使う少年、ということです。」
「『神の靴』・・・さっきの代償型の神具か・・・カル、どんな能力だっけ?」
「速く走れる、でも、疲労は普通にするってヤツだね。」
「速いのか・・・」
ルゥムの質問にカルノレットが答える。
「以上になります。」
「なるほど・・・相手がわかっているのなら、その相手を想定した特訓をしようか。」
話を聞き終わり、キョウが宣言する。
「だったらオレは格闘家とやりたい。」
「・・・カル・・・」
キョウの言葉の直後、カルノレットは言い放った。
「回復の能力なら、神通力の持久力があるオレかシゲノブさんがいいはず、で、そのシゲノブさんは戦いたい相手がいるみたいだし。」
「うむ・・・」
カルノレットの考えにシゲノブが同意する。
「なら、頼めるか? 格闘家は極力最終戦にはいて欲しくはない・・・重要だぞ。」
「任せときなって!オレは天才だぜ。ちょっとやそっとの努力じゃ揺らがないっ!」
カルノレットは力強く宣言し、シゲノブも頷く――――――
「『神の靴』の子、速度があるならアタシかセツナさんでしょ?・・・だったらアタシは的が分身するよりも、一つで速い方がやりやすい。それに、セツナさんバリの格闘術を遠距離メインのアタシじゃ受けきられないだろうし・・・。」
「なら、私は雷撃さんですね。相手も高威力なら私も全力を出せそうです。」
ルゥムとソフィが各々の標的を決めていく。
「・・・そうだな・・・セツナもベルが相手なら確実に勝てるだろう・・・セツナには最終戦にいて欲しいからな・・・それでいこう!」
リオウが承諾する。
「それじゃあ、その相手を想定して特訓しようか。」
キョウが言うと戦士達はそれぞれの特訓へと向かう―――――――
「セツナ、よくやった。」
「―――――――はい。」
そんな中、誰にも聞こえない様な声で、リオウはセツナを労い、セツナは僅かに頬を緩めたのだった――――――――
セツナが思い出すのはリオウがまだ幼い頃――――――――
「セツナ・・・セツナはそんなに強いのに、どうして従者なんてやっているのだ?」
当時のセツナに問う幼きリオウ。
「それは・・・代々王家に仕えてきたから、という意味ではないのですよね?」
「うむ、例えば、今、我を殺せばウェルドラドを乗っ取ることができるかもしれぬぞ。」
「御冗談を・・・そうですね・・・先代達はわかりませんが、ワタクシはまず、王というのは柄ではありませんし、それに、従者なら必要としてもらえるから、ですかね。」
「必要・・・?」
幼きリオウは合点がいかない顔をする。
「そうです。誰かに、特に、信頼する方から必要とされる。それはワタクシに生まれた意味が、ワタクシという存在に価値がある、ということですから、それ以上の誉れはごさいませんし、ワタクシはそれを幸せだと感じます。」
「うーん、我にはよくわからぬな・・・」
「リオウ様もいずれわかる時が訪れます。」
「・・・そうだ。その時が来たら、セツナは我の戦士となってくれないか?我にはセツナが必要だからな。」
幼き王からの突然の存在価値の証明――――――――
「――――――――っ・・・はい。ワタクシでよろしければ。」
「それじゃあ、約束だ。セツナ・・・いや、我が『時の戦士 ブレイドオブエンペラー』よ。」
「この『時の戦士 ブレイドオブエンペラー』、あなたの戦士であり続けることを誓います。」
遥か昔に、リオウの第一の戦士は誕生していた―――――――
どーも、ユーキ生物です。
第十六話もお読みいただき、ありがとうございます。今回で決戦編の対戦カードが見えてきましたね。なんとなく予想はできた構図通りで申し訳ありません。
今回はリオウサイドの年齢公開をします。ヒカルサイドでもやりましたし。
まず、リオウですが、ヒカルと双子ですので16歳です。生まれた順で兄なだけですので。
セツナは、設定はありますが、公表は避けておきます。ただ、ヒカル、リオウを含めても最年長です。
シゲノブは「某」とか言ってますが、22歳です。50歳くらいにしとくべきか、とかなり迷いました。大卒くらいの年齢で侍・・・ファンタジーでしか許されませんね。
一気に晒し過ぎてもアレなので、残りは次回にします。
さて、次回更新なのですが、年末年始の影響で書けるか微妙なので、少し期間を開けさせて下さい。「去年も同じ事言ってたやろ」とか思ってましたが、去年は普通に更新してて、どうやったか不思議で仕方ありません。しかしながら、私はできるできると言ってできないのは忍びない質なので、安牌を取らせていただきます。次回から「最強の戦士編」の佳境となっていきますので、ご期待下さい。
ということで、次回更新は2017年1月13日(金)となります。