第十二話 殺戮の王
第十二話
殺戮の王
――――――――――ゴゥッ!!
「・・・・・・。」
竜の姿を模した鎧を纏うコウの目の前を風よりも速くカケルが走り抜ける―――――――
「―――――っ、ふぅ・・・コウさん、どうでした?」
走り抜け、戻ってきたカケルがコウに問う。
「んー、何となくだけどわかってきたような・・・」
二人が行っていたのはカケルの神具「神の靴」の能力の解明。コウの神具「神の鎧」にて“今”を感じとることで、カケルの身の回りで起こっていることを分析していた。
「カケル、ちょっとオレにぶつかってみてくれ」
「え?あ、はい」
――――――――ビュオッ!!ゴッ!!
カケルが超速度でコウに体当たりをする。
「っ―――――――――やっぱり・・・」
吹き飛ばされたコウは体勢を立て直し、カケルに告げる――――――コウが立っていた場所にいるカケルに――――――
「こういうことだ。」
「・・・・・・・・。」
「本来体当たりなんてものはぶつかられた方だけでなくぶつかった方にもノックバック、反作用のダメージがいくものだが、神の靴はそれを無効化している。走っている時の空気抵抗をはじめとする全抵抗の排除、それに加えて速く手足を動かせるようにすることで速度を生み出している。まさに『速く走る状況を作り出す』神具なわけだ。」
「韋駄天にそんな能力が・・・」
「だからスタミナの消費も普通に走っている程度なんだな・・・」
「抵抗の排除・・・ということは・・・」
「それを利用した攻撃方法があるだろうな。」
――――――――――ブンッ、ブンッ!!
「初撃はだいぶ良くなってきたけど二撃目からどんどん雑になってきてる!」
「くっ――――――」
―――――バチバチバチバチッ!!
「っ!!――――いかに雷速で攻めても回避力の高いカケルとかコウには当たらないわよ!!」
「――――そうは言ってもっ!!腕がパンパンでもうっ・・・!!」
「なら腕立てからやろうか!」
「自分は回復があるからって・・・」
「大解放の威力は確かに凄いけど、あそこまで“大技行きます”なんて攻撃、機動力が高くなくたって避けられるわよ。」
「うっ・・・」
「だからこそ、小解放の連撃で相手の動きを封じたり、制限させなくちゃ」
レイラの言い分はもっともだった。キララの“大解放 アブソリュートレイザー”は全身と槍に大きな雷撃を纏い、それを放つ――――――相手に確実に命中させるには相当な隙が必要だった。
「それに、生まれ持った才能で雷速の槍裁きが出来たり、あんな威力の技が放てるなんて、そっちの方がズルいわよ・・・」
レイラの回復をぼやくキララにレイラはそう返すのだった。
「分身っ!!」
―――――――ボボンッ!!
「・・・また三人か・・・」
「この間のベル姉の百人分身はどうやったのかな・・・?」
「あの・・・ヒカル様の能力ということは・・・?」
「ボク?いやいや、ボクに能力なんてないから・・・」
「でも、ヒカル様に応援されるとワタシ、力が湧いてくるのですが・・・」
「そんなことないと思うけど・・・『頑張って、ベル姉っ!』」
――――――――ボボボボボボボボッ!!
ヒカルがベルに声を掛けた瞬間、ベルの分身は三人から三十人になっていた。
「ほらっ、やっぱりヒカル様のお陰ですって!!」
「・・・そうなのかなぁ?」
「皆さん、お茶を用意したデス。休憩するデス。」
「あぁ、リーネ・・・ありがとう。」
「はー・・・はー・・・もー無理・・・腕が・・・あ、リーネ、ありがとう。」
「このお茶、安くて健康に良いって有名なお茶なんデスよ。」
そう言いつつリーネは皆にお茶を配る。
「訓練の疲れも吹き飛ぶはずデスから、グイッとイッちゃうデス!!」
――――――グイッ
皆がリーネをお茶を飲み―――――――
「あ、味は馬の尿みたいでクソマズだって有名デスけど―――――――」
ブフ――――――――ッ!!
全員すぐに吹き出した。
そんな彼らのもとに、多くの影が迫っていた・・・
「いたいた、“死の皇子 ヒカル”」
「だいぶ仲間を集めちまったみたいだな・・・」
「まぁ、でも仕止めるなら疲弊している今だよな・・・」
「――――――!?」
「――――――すげぇ数で来たな・・・」
「ヒカル様、リーネ様も下がっていて下さい。」
戦士達はその大軍に気付き、構える。
「あらら、奇襲は失敗しちゃったか・・・」
大軍の一人が忍び寄るのを諦め、話し掛けてくる。
「お前らの気配・・・パペリオンの傀儡使いか!?」
「剣士さん正解。我々はパペリオンからウェルドラド第二皇子ヒカルを抹殺に来たパペリオンの“全兵士”だ。」
「全兵士!?そんなに!?」
「・・・どうしてそこまでしてボクの命を狙う?危険度ならボクよりもリオウ兄さんを狙うべきなのに・・・むしろボクが即位したほうが、パペリオン的にはウェルドラドが弱くなって喜ぶべきことのはず・・・」
「わかってねぇ様だな・・・。ヒカル、お前の『王の啓示』である言霊の魔術は“生物にのみ干渉する”能力、お前がチカラを込めて『死ね』と言えば相手は死ぬ、平たく言えば、即死魔術の使い手・・・殺戮の王だ。」
「・・・・・・そ、そんな・・・」
パペリオンの兵士の言葉にヒカルは絶句する。自らに能力があったことに加え、その凶悪性を知らされたのだから・・・
「確かに世界ごと消せるリオウも脅威ではあるが、それは“あっち”がなんとかしてくれる・・・だから我々はパペリオンの全勢力をもって、お前を消させてもらう。」
「ボクが・・・殺戮の王・・・?」
「ヒカル、惑わされるな・・・奴らはそうやってヒカルの動揺を誘っているだけだ。」
明らかに動揺するヒカルをコウが落ち着かせようと試みる・・・
「この人数・・・一万はいるんじゃない・・・?」
「嬢ちゃんよくわかったな。パペリオンの兵士一万、その人形一万、計二万の軍勢をもって仕止めに来た。」
数に押されるキララ、兵士は戦意を削ぐべくその事実を告げる。
「二万対七人ですか・・・」
「七人って・・・リーネを戦力に入れないで欲しいデス・・・。」
「訓練後のこのタイミングっていうのが最悪・・・僕は既に足が笑ってるよ・・・」
キララだけだなくベル、リーネ、カケルも圧倒的な数に怖じ気付く・・・
「そういう時のアタシでしょっ!!」
そんな絶望の中、ワクワクと少女の様に弾んだ声と共に――――――
「これだけの相手を一度にできるなんて、経験値がいっぱいありそうね!!」
―――――――レイラがパペリオンの軍隊の前に躍り出た。
「お前はっ!?」
パペリオン軍も予想外の威勢に一歩下がる。
「攻撃を仕掛ける相手の名も知らない? ちゃんちゃらおかしいわね!! 仕方がないから教えてあげる!! 全軍よく聴くんだよ!!」
パペリオンの軍隊全ての兵士に聴こえる様に、レイラはその名を盛大に謳う―――――――――
「積土成山 積水成淵 一念通天 一重に信じ 己を磨き 日進月歩 日々鍛練!! 浅識非才であろうとも 不撓不屈の心を武器に この身朽ちても 七転八起 折れることなく其処に在る!! 『水の戦士 ブレクレスシャトー』 疲れ知らずのアタシが相手だいっ!!」
―――――――二万対七の戦争が開戦した。
どーも、ユーキ生物です。
第十二話ご閲覧ありがとうございます。「輝きの王編」はここから佳境に入っていきます。よろしければ、最後までお付き合いください。二万対七(六)の戦争の行方はいかに!?
では、設定の話になります。本編でも触れましたが、パぺリオンの人形は基本的に喋れません、優秀な傀儡使いが使うと片言でしゃべることができるモノも一割程度いる、くらいです。ですのでパぺリオン側のセリフは基本的に人間がしゃべっています。
さて、年齢に関してですが、今回はコウとカケル、ヒカル軍の男性陣の年齢を・・・コウは20歳でヒカル軍最年長となります。反対にカケルは最年少の14歳です・・・あれ?カケルの設定資料にはそう書いてありますが、書いてるときはカケルは小学生くらいの気持ちで書いてました・・・改めます。
そんな再確認もできる後書きになってきてよかったと思います。
次回更新は11月25日を予定しております。今回も既に書き上がってますのでほぼ確定かと。