第一話 双子の皇子と言葉の帝国
「・・・ボクは・・・・・・なのに・・・・・・どう、して・・・・・・・」
「・・・我が、絶対的な・・・・・・持ってるのに・・・・・何故!!・・・・・・いや・・・・・・それは・・・我が、弱いから・・・・・・」
「・・・どうして・・・・こんなにも・・・こんなにも・・・・・・のにっ!・・・・・・・そんな、・・・・・・・だけでっ!なんでっ!!」
「・・・・・・俺は・・・・・・の分も・・・・アイツのしたかった・・・・・・・を、絶対に・・・・・・」
「・・・・・これが・・・・・・ワタクシの・・・・・・・運命なのだから・・・・・・」
「・・・・・・が・・・が・・・欲しい!誰にも・・・な・・・がっ!!」
「・・・そんなこと・・・ワタシは、そんなつもりじゃないのに・・・・・・どうして・・・」
「・・・今日も・・・私は独りきり・・・・・・も・・・・・・も、全部、要らないのに・・・」
「・・・僕には、無理だよ・・・なの・・・・・・だけど・・・・・・それでも、無理・・・」
戦士達ハ世界ニ其ノ名ヲ謳ウ
第一話
双子の皇子と言葉の帝国
――――軍事帝国ウェルドラド――――
大陸最大の国土を持つ圧倒的軍事力を持った帝国
その歴史は500年にも満たず決して深くはないが、帝国を知らない者は世界にはいなかった。そして、短い歴史で急成長した帝国には皇帝の血族にのみ顕現する絶対的な概念魔術があった。その魔術は近隣の国に恐れられる強大な魔術であった。
軍事帝国は武力こそが絶対。皇帝の代替わりの際にも武力は皇位継承者には重要な要素であった―――――――
「ヒカル様ぁ~!ヒカル様ぁ~!」
帝国の城内で、従者 の声が響いていた――――
「ベル姉、どうかしたの?ボクはここにいるけど・・・」
城の一室でヒカルと呼ばれた少年は従者のベルに答える。
「ヒカル様、今日も素敵でいらっしゃいますね!愛しております!」
黒と白メイド服にセミロングの黒い髪、白い肌、モノトーンな従者のベルはいきなりそんなことを言う。
「ありがとう、ベル姉、それで?何かあったの?」
聞き返すはこのウェルドラドの第二皇子ヒカル、低身長だが王家の血筋に授けられる黄金の髪はその威厳を醸し出している。
「あ、はい。陛下がヒカル様をお呼びです。正装で謁見室まで、とのことです。」
「陛下が?・・・しかも正装でって・・・何か重要なことなのかな・・・?」
「とりあえず、お着替えをしちゃいましょう!・・・脱いだお召し物はワタシが預かっ・・・責任を持ってお洗濯いたしますので!・・・ハァ、ハァ・・・さぁ!脱ぎましょう!!」
「・・・う、うん・・・ベル姉大丈夫・・・?」
怪しい手つきでヒカルの着替えを手伝うベル・・・これはもう習慣となっていた。ある時ヒカルは一人で着替えられると手伝いを断ったが「使用人の仕事を奪う様な王ではいけません!」と良く分からない理論で習慣を変えさせることはベルがさせなかった。
―――――謁見室―――――
「・・・それで、父上、お話とは・・・?」
「まぁ、待てリオウ、ヒカルが来てから二人に話す。」
「・・・ヒカルにも?」
そこには二人、一人はこのウェルドラドの現皇帝陛下、そしてもう一人はヒカルの双子の兄にして第一皇子リオウがいた。二人とも低身長に黄金の髪、彼らの見た目は低身長までもが血によるものらしい――――――そこに――――
「すみません、遅くなりました。」
「ヒカル、遅いぞ。何をやっていた。」
「兄上、申し訳ありません。少々着替えに手間取りまして・・・」
「手間取ったって・・・またあのメイドか・・・セツナ」
リオウがセツナ、と人を呼ぶと、リオウの隣にはいつの間にか一人の従者が現れていた。服装はベルと同じものだったが、その年齢と一挙手一投足より醸し出される品格はベルのものとはまた違い、色物感が一切なかった。
「ヒカル付きのメイド、仕事が遅い、しっかりと教育をしておくように」
「・・・申し訳ありません、ワタクシの監督不行き届きで・・・」
「・・・なに、セツナが悪いわけじゃない。ひとまず侍従長であるお前に話を通しただけのこと。下がってよい。」
セツナと呼ばれた侍従長は一礼すると、すぐさま姿を消し去った。
「父上、失礼しました。」
「うむ、まぁ、よい。従者の統制も王の仕事だ。」
「それで、父上、お話とは?」
「話とは、他でもない次期皇帝についてのことだ。リオウ、ヒカル、お前たち二人には、次期皇帝の玉座を懸けて、その武力を競い、示してもらう。」
「次期皇帝の玉座を懸けての、武力比べ・・・し、しかし父上・・・武力という点において、我とヒカルとでは天と地ほどの差が・・・」
「無論、二人の武力も重要だ、王が強くなくては国が強くならんからな・・・しかし、王一人が強くても、数百万、数千万の軍勢が相手の時、国を護り切れるはずもなし・・・そこで、このウェルドラドでは、王位継承の試練として、皇帝候補とそれを守護する五人の戦士での玉座決定戦を行うことを伝統としている。お前たちには決戦までに共に戦う戦士を集め、玉座決定戦を行ってもらう。それならば圧倒的な力を持つリオウとて、決して有利とはいえまい。」
リオウとヒカル―――――その力の差は誰が見ても歴然だった。国民は誰もがリオウが次期皇帝になるものだと思うほどに、それほどにリオウの王家の能力は抜きんでていた。しかもヒカルには能力らしい能力は見られず、国民の間では陛下の子ではない、とさえ噂されるほどに・・・しかし、この「仲間と戦う」という条件、これがリオウとヒカルの差を埋める条件、ということを皇帝陛下とリオウは理解していた・・・
「仲間・・・ボクが勝つには強い仲間が必要なのか・・・」
「「・・・・・・・・。」」
当の本人もこの条件がどれだけヒカルに有利かを把握していなかった・・・
「集めた五人の戦士には、王位に就いた際には側近として国を護り、動かしてもらうので強さだけでなく、国を支えるにふさわしい者を連れてくるように。」
「そういえば陛下の側近のイレアさんとかもすごく強かったような・・・」
「うむ、イレアは私の元『滝の戦士』だからな。」
「・・・ということは、我々の集める戦士は神具あるいは神体を持つ者でなければならないということでしょうか・・・」
「厳密にそんな規定はない、だが、私の知る限りでも、戦士たちは皆、神具・神体持ちだった・・・少なくとも、我ら王家の能力と張り合える武力、という暗黙の了解があったからな・・・」
神具・神体――――ウェルドラドの神が使ったとされる道具、そして神の身体、これらは「神通力」という力を込めることでその能力を発揮する物であり、その超常なる能力は王家の能力と同等に戦えるものでもあった。神具は神通力を扱える者ならば誰でも使用できる道具だが、神体は先天的に与えられる者であり、使用者は限定される、また神体を持っていても神通力を扱えなければ、持っていた、ということすら気付かずに終わることもあるもの・・・その不便さ故か神具に比べ、神体の方が強力な能力を得られるとされている。
「さて、国内とはいえ旅に出る息子たちへの餞に、一人目の戦士を従者の中から連れていくとよい。王家の能力は基本的に後衛だから前衛がいないのは厳しいだろう。その点、うちの従者たちは皆前衛向きの者だから、ちょうどよいだろう。・・・では、決戦はこの城の上にある天空コロシアムにて行う。またそこで会える日を、成長したお前たちと会えることを、楽しみにまっておるぞ。」
そう告げると、皇帝陛下は謁見室を後にした。
「・・・我は無論セツナを連れていく、よいなヒカル?」
「うん、ボクはベル姉に聴いてみるよ。」
「あのメイド、神具・神体持ちだったか?」
「・・・どうだろう・・・?」
「神具なら持ってますよ。」
部屋に戻ったヒカルは部屋でヒカルの私物を物色していたベルに尋ねた。その返答はヒカルの下着を被ったメイド、ベルのものだった。あまりに当然の様に(部屋の物色も神具の所持も)立ち上がり答えた。
「え?そうなの?」
「はい、この『神の糸で織ったエプロン』が神具です。」
立ち上がったままベルは身に着けているエプロンを広げ見せる。
「だったら話は早い。ベル姉、ボクの戦士になってよ。旅をするなら気心知れてるベル姉がいいから――――――」
ヒカルの提案に一度目を輝かせたベルだったが、すぐにその顔には陰った。
「ヒカル様・・・そのお誘いはありがたいのですが・・・ワタシ、弱いですよ・・・」
「・・・そうなの?ベル姉の戦闘訓練を見た時は、すごく強そうだと思ったけど・・・あの時の組手も侍従長のセツナさん以外には負けてなかったはず・・・」
「えぇ・・・体術ならまだいいんですが、ワタシ、神通力を扱うのがあまり得意ではなくて・・・ホラ――――」
そういうと、ベルのエプロンが若干光り―――
ベルが二人になった。
「「ワタシの神具『神の糸で織ったエプロン』はお世話をするための分身能力、上手い人が扱えば十人弱に分身ができます・・・でも、ワタシは二人までしか分身できないんです・・・」」
それは超常と呼ぶには心もとない―――
「それでもボクはベル姉と一緒にいて欲しい!」
「仰せのままにいいいぃぃぃぃぃぃっ!!」
惚れた弱みに付け込まれた乙女は弱かった・・・
「では、コホン・・・ウェルドラド第二皇子ヒカルより、帝国戦士としての名を授ける『愛の戦士 ファンタズマ・クロシェット』よ。」
「はっ、この『愛の戦士 ファンタズマ・クロシェット』命ある限り貴方のために――――――――」
―――――――帝都東門――――――――
「あら?ベル、貴女、神具もまともに使えないのに帝国戦士の名をもらえたのね。」
「セツナ侍従長・・・」
「・・・成長した貴女と刃を交わせる時を楽しみにしてるわ。」
「侍従長も、歳で体力が衰えないよう、お身体を大切にしてくださいね。」
「・・・貴女、今ここで八つ裂きにしてやりましょうか?」
現時点で女達は火花を散らしていた。
「あまり長居すると今から決戦になりそうだから、ボク達はそろそろ行くよ。」
「そうだな・・・ところでヒカル、お前はどこへ向かうつもりだ?」
「え?・・・特には決めてないけど・・・」
「行き先が被っては面白くないからな・・・我は神体の目撃情報の多い北へ向かうが・・・」
「え?そういう情報とかあったの!?・・・まぁ、ならボクは南に行くよ。」
「わかった。それでは、また、決戦で―――――――」
「いたぞっ!!皇帝候補の二人だっ!!」
四人は声がする方に目を向けた。
「てめぇら!俺らの夢のために、今ここで消えてもらう!!」
「仲間を増やされてからじゃ、勝ち目は薄いからな、ヒッヒッヒッ・・・」
「次代の王を殺して、戦乱の世にしてやるっ!」
そこには暴徒の集団が向かって来ていた。
「統治を嫌う者か・・・残念だが、多くの民を護るために、我は貴様らの願いを叶えることはできない。セツナ!」
「ハッ!」
リオウが言うが早いか、セツナはその両手に小太刀を構え、敵軍に飛び込んだ。
数百はあるだろう軍をセツナは細かく分割するように穿ち、蹴散らして行く――――――
『我が手の翳す先に爆炎の柱ありけり!』
そう言いながらリオウは手をセツナが分割した一集団に向ける―――
――――――すると、そこには燃え盛る炎の柱が立って、暴徒達を焼き払っていた――――
―――――言霊――――――
それが王家ことコトノハ家に伝わる能力だった。「王の啓示」と呼ばれるこの「言ったことが現実になる」能力こそが、ウェルドラドを数百年で大陸一にした概念魔術――――さらに第一皇子リオウはその中でも群を抜いた言霊使い、生命以外の万物に干渉することができる、世の理を治める言霊使いだった――――――
焼き払われた暴徒達の叫びを尻目にリオウは言葉を放つ
『反乱分子を包むは砂塵の嵐!』
砂嵐が暴徒を包み、行動を不能とする―――――
『捕縛するは絶氷の檻!!』
氷の檻が暴徒を拘束する―――――
『重力の鎚が檻ごと粉砕す!』
見えない鎚が氷の檻ごと暴徒を踏み潰した―――――
「ヒカル、数人討ち漏らした!そっちはそっちで片付けろ!」
リオウはヒカルに指示を出す――――
「うん、お願い、ベル姉!」
「御意っ!」
ベルはクナイを構え暴徒に備える―――――――ヒカルに向かって来る暴徒はおよそ十、リオウと比べると物の数ではなかったが、ベルは近接戦を得意とする戦士、同時に攻められると討ち漏らすことは明白だった。
『大丈夫、ボクはベル姉が強いって知ってる。だから――――――』
「―――――だから、世界に、ボクを守護する最強の戦士の名を、大いに謳い、其の存在を刻むのだっ!!」
「はいっ!」
―――神通力――――――神に通ずる力――――――それはこの言葉の国において自己を神に知らせる力、世界で存在が輝けば輝くほどに、その力は大きくなる―――――――だから――――――
「聞くがよい!王を守護せし我が存在を――――――」
―――――――だから、戦士達は世界に其の名を謳う――――――
「万世不朽の愛及屋烏 敬光愛光 比翼連理の夢求め 黒炭匹婦 磨きて漆 鐘を鳴らすは本黒檀!! 一木一草 光陰持ちて 輝煌の鐘音 響く波間に影潜むっ!! 『愛の戦士 ファンタズマ・クロシェット』 ここに在りぃ!!」
その名乗りに呼応するようにベルの神具「神の糸で織ったエプロン」が輝き―――――――そこには百人近くのベルが在った―――――
「なっ・・・!!」
「ここまでとは――――」
セツナとリオウは驚きの声をあげる――――いくら名乗りをあげようと二人までしか分身できなかった者が百もの分身を作れるわけがなかった――――
暴徒十数人を百人の訓練された戦士で殲滅するのは他愛のない作業だった――――――――
暴徒を殲滅し、ヒカルとベルは南へ向かった。その姿を、リオウとセツナは見送っていた―――
「セツナ、あれが、我らが相手をしなければならない言霊使い、ヒカルだ―――相手がどれほどのものか、お前にも見ておいて欲しかったんだ。」
「・・・ということは、やはりワザと討ち漏らし、暴徒を彼らのもとに・・・?」
「・・・まぁ、な・・・・・・世間がどれだけ我を認めようとも、王になるためにはヒカルが我の最大の壁となる―――『仲間に力を与える言霊』・・・民を従える王として、これほどまでに強力な能力はない・・・」
「リオウ様・・・」
「負けるつもりもないがな、行くぞ、セツナ、強力な神体持ちを探すのにはセツナの情報収集力が必要不可欠だ。頼んだぞ。」
そうして、二人の皇子は玉座を懸けた決戦を戦う戦士と出会う旅へと向かった――――――――
初めましての方は初めまして!前作「Desire Game」からお読みいただいている方は引き続きお読みいただきありがとうございます!ユーキ生物です。
無事・・・ではありませんでしたが、とりあえず、こうして第二作、「戦士達ハ世界ニ其ノ名ヲ謳ウ」を予定日に投稿することができました!まぁ、その間にリアルでバタバタしたり、風邪ひいて数日手が付けられなかったりとありましたが・・・とにかく今は、こうして投稿・掲載を喜びます!
今回の第一話はかなり推敲を重ねました。なんせ、前作の「Desire Game」では、自分で読んでいて「第一話(心の章)つまんねぇ!」って思うものでしたので、反省しました。もちろん一話以降の方が練りに練っているので一話で燃え尽きた、というわけではありません。・・・何というか、一話を盛り上げるのってかなり難易度高いんですよね・・・私の文力が低いからか・・・前作よりも第一話が魅力的に書けたなら幸いかと・・・
さて、第一話でも出てきた「名乗り」なのですが、何を言っているかの訳はまた後々の後書きでご説明いたします。ベルもまだまだ名乗ると思うので・・・この名乗り、かなり力を入れています。戦士ごとに名乗りを考えるのですが、1つあたり数時間かけてます。まぁ、お読みいただいてる方はこっちの苦労はそこまで気にならないと思いますが・・・とりあえず、頑張ってます!・・・まだ全名乗りが完成してないとは言えない・・・
さてさて、そんなこんなで今回はこの辺に致しましょう。次回更新は2016年8月26日を予定しております。