2-2 コミュニケーション
さて、と。出発当日。護衛のメンバーは全部で九人。能力的にデコボコしているけど、濃ゆいメンバーだと思う。
リーダーのディオン。いわゆる戦士で結構強そう。こっちにずっと殺気を向けるのやめてほしい。単独で彼女の目をかいくぐるのは面倒くさそう。
サブリーダーって言うか案内役のカイロウ。道については詳しいらしい。私と一緒でいかにも盗賊風。もしかしてライバルになるのかも。でも、どこかつかみづらい。何だろう。違和感を感じる。
筋肉馬鹿のコーディ。ずっと上半身裸なんて、いったい何を考えているんだか? 頭も悪そうだしこういうのは相手にしないのが一番。
ローブを纏っているのはキース。アタシの直感が危険のシグナルを慣らしている。絶対とは言えないけど、たぶんこいつはアサシン。もしかしてアタシを狙っているとか? アタシ、あちこちの貴族に嫌われているからなぁ。気をつけなきゃ。
後の四人。リーブ、クーナ、リリー、イェルム。普通の冒険者だと思うし、こいつらは纏めてどうでもいいかな。
そうこうしているうちに旅は始まっていた。隊列の先頭集団であるカイロウとコーディ、そしてアタシは警戒を忘れずに、それでも会話は盛り上がっていた。
「しっかし、あんたのその体。いや凄いねぇ」
「むっふぅー。けんど、ちっと鍛えりゃあ、こんなのすぐってもんでさぁ」
「カイロウさんも真似してみたら? も少し格好良くなれるかも知れないじゃん」
「そういうのは、遠慮しておきますぜ。男は筋肉より顔でしょう」
「その顔がイマイチだから言っているんだけど?」
「おいおい、そりゃや言い過ぎなんじゃないかい。これで結構もてるんだぜ」
「あっしも沢山持てるっす。この筋肉は伊達じゃねぇっす」
そう言いながら、腕の筋肉を盛り上げる。
「いやいや、そう言う意味じゃ無いんだけどな」
「でも、コーディさん本当に強そうですよね。今までどんなのと戦ったことあるんですか?」
「デッカいのとか、チッこいのとか、黒いのとか、赤いのとか。いろいろだぁ」
「なんだよそれ。魔物の名前とか知らねーのかよ」
「とっくに忘れちまっただ。そんなの腹の足しにもならねぇ」
二人の会話は見ていて飽きないし、それに自身も加わることでパーティに打ち解けている感を出す。さらに後方で馬を引いているリリーとイェルムにも話しかけてみた。
「二人って恋人同士なの?」
「んー、どっちかっていうと、お兄ちゃんって感じかなー」
「血のつながりがあるわけじゃ無いがな。それでいいんじゃないか」
「なるほど、仲良いもんね。でさ、後ろの二人組はどうだと思う?」
「よくわかんないかな。後で聞いてみます?」
「他人のプライバシーに踏み込むのは良くないぞ。無理に知る必要は無い」
「かったいなぁ。同じ旅する仲間じゃん。もっと軽ーくいこうよ。こんなの話のネタだって。ねー、リリー?」
「そうなんですか。私あんまりそういうの詳しくなくて。すみません」
リリーは人慣れしていないせいか、会話が途切れがちになる。イェルムは警戒しているのか会話を選んでいる感じ。それでも何日かするうちにだんだん打ち解けてきた。
休憩の合間を見てキースにも話かけてみたが、全く無視される。こういう奴はやりにくい。ただ、無理に話をして虎の尾を踏むようなことはしたくない。だからこちらも近づかないことにした。
リーブとクーナの二人とも会話してみた。二人は息も合っているし、冒険者として経験を積んできたのも判る。ディオンが二人を信頼しているのもその辺りなのだろう。
「で、二人はずっとディオンさんと一緒に冒険してきたって事ね」
「私は冒険者になってまだ半年位なんです。彼と合流してからすぐディオンさんと一緒になりました」
「僕はかれこれ四年になるかな。実力が無いので、難易度の低い仕事ばかりやってきました。最近はディオンさんのおかげでこういった難易度高めの仕事も出来ています」
「ディオンさんは強いよね。冒険者としても経験を積まれていて、私たち色々教わっているんです」
「なるほどねー。そんなに凄いんだぁ」
「いつも冷静で、先を見通しているっていうか。そう、安心感があります」
「ところでさぁ。二人って恋人同士なの?」
「そんなんじゃ無いって。ただの幼馴染みなの」
「ええ、ただの幼馴染みです」
クーナはそう思っているみたいだけど、リーブはそうでも無い感じかな。青春だねー。アタシもそろそろそう言う人探さなきゃなぁ。ギルドの連中は微妙な奴ばっかだし、アタシより実力の高い奴って考えたら候補もいなくなるよなぁ。
「そう言うディスさんは、恋人とかいるんですか?」
「えっ? んっんー。いないんだよねー。フィーリング会う人いなくてさぁ」
「ディスさんは理想、高そうですものね」
「えっとぉ・・・。顔が良くて、背が高くて、教養があって、優しくて、強くて、アタシをしっかり守ってくれる人なら誰でも良いかな」
「それを理想が高いって言うんです」
「そうかなぁ。これぐらい普通だと思うんだけど」
「たとえば、僕で言うとそれに一つも当てはまりませんね」
「あなたにはあなたの良さがあるんだから、それでいいじゃない」
こうやってメンバーと会話しながら打ち解けていく。これは警戒心を減らすための作戦。護衛の依頼を受けた冒険者。そのらしさをアピールするのだ。
もちろんそうやってだらだら時間を過ごしていただけじゃぁ無い。ターゲットの状態を確認するのもとーぜん忘れてはいない。ディオンの警戒心は強く馬車に近寄るだけで視線が強くなる。これを崩すのは難しそう。
遠くから眺めるだけでもある程度のことは判る。まずは見るべきポイントをはかっておく。そして馬車がギリギリ通るような道を通過するとき率先してその手助けをし、至近距離で色々観察しちゃう。
その結果判ったこと。荷物を入れてある箱と馬車は一体化されていて、それを馬車から外すことは不可能。それをやろうとしたら馬車を壊すしか無いって作り。
箱自体も頑丈な封が施されていて、開ける際は封を破壊する事が前提になってる。コッソリ箱を開けてターゲット奪取することも考えていたけれどそれは難しそう。
当初の計画通り水の牙の襲撃に乗じて中身を手にするか。あるいは人数が減るのを待って行動するか。ターゲットさえ手に入れれば逃げるのは難しくない。山道は得意じゃ無いけど、ここにいる連中よりは速く移動できる自信がある。
逆にターゲットを手にする前に狙われると、作戦遂行は難しくなる。特にディオンとキース。この二人なら獲物を手にして動きが止まるその瞬間を狙うのは造作も無いだろう。
あとは、カイロウ。こいつの考えがちょっと読めないでいる。いや、普通に道案内しているようには見えないって。こいつとはターゲットがダブっている気がする。
中身が聖剣だって考えれば、ライバルは他にもいるのかもね。カイロウが手を出してディオンが相手をしているうちにアタシが頂くとかありかな? うーん。その案やっぱ却下。盗賊としてのレベルはアタシが上でも、こいつはこの辺りの地理に詳しそうだし、ちょっとしたミス一つで逃げられちゃう。やっぱり他のライバルを出し抜いて最初に手にする必要があるよなぁ。
難しい鍵とかなら開けるの簡単だけど。今回みたいに力業で封をしてあるのは苦手なんだよね。アタシとは相性最悪だー。
他には受け取りが来て中身を確認する時を狙うのもあり? 建物内で警備がきついと難しいし、そもそも確認する場所に列席できないってこともあるよね。
どれもこれも決め手に欠けるなぁ。とりあえず最初の襲撃があるまでおとなしくしていよっと。