1-6 激戦の果てに
いつの間にかコーディが荷物の近くに立っている。その手には一振りの剣が握られていた。
一目で業物とわかる剣。鞘に収められているのに、不思議な圧迫感を感じる。細かい装飾や飾りがわずかに光を放っているようにも見えた。聖剣。そんな言葉が頭に浮かぶ。
「その剣をおいて、そしてそこから下がりなさい。これは脅しではありませんよ」
「俺ぁ戦うのは好きじゃねぇんだ。そう言うの、やめようぜ」
「最後の警告です。剣を置きなさい」
私は手にした剣に力を込めながら、ゆっくりと近づいた。彼は、まだ剣の間合いの外と考えているのか余裕の態度だった。確かにコーディは強い。気を抜いたらやられる。ありがたかったのはカイロウとディスがこの戦いに参加する気が無いことだった。彼らを気している余裕は無かった。わずかな時間の経過が非常に長く感じた。
「まったなぁ。だから戦いたくないんだってば」
あいかわらず余裕の態度。スキだらけのような気がするが、そうでは無いと長年の感が警告してくる。
「しょうがねぇなぁ。判った、判ったよ」
かがみ込むようにして、コーディは剣を地面に置いた。
「だから、逃げるっ!」
かがみ込むことで溜めたバネを一気に開放して彼は走り出した。彼の暴力的な脚力は、その衝撃で地面に穴をあけ、さらに砂煙を巻き起こす。もちろん剣を手に持ったままだ。
「逃がしません!」
私は、全身の力を剣に込めてそれを振るう。
ヒュン。ギュババババガガガザザザザ・・・・・。
剣の軌跡がそのまま伸びていき、砂煙が二つに割れる。その先にはコーディの姿が見えた。
「うっっそおぉぉーーんん」
驚きの表情を浮かべながらコーディは体をひねって避けようとしたが、軌跡はそれよりも速く到達した。
左腕が大きく裂け、赤い血に染まっていく。腕を使って軌跡を受け止めたようだ。残念ながら致命傷と言うにはほど遠い。
並の人間なら十分殺せるほどの威力があるはずだが、相手はあのコーディ。これだけで倒しきれるとは思っていない。ただし今の攻撃で途中の障害物が全て無くなった。これで真っ直ぐに近づける。大事なポイントはそこだ。
「てめぇっ。よくもやってくれたなっ。こうなったら・・・」
次の言葉をしゃべらせる必要など無い。むしろ言葉を出すなんて、一瞬の戦いの中では愚の骨頂。
私の体は一瞬のうちにコーディの目の前へ移動する。それだけでは無い、すでに最初の暫撃を振り終わっている。そして、攻撃は一回で終わらない。十数回に及ぶ暫撃がコーディの体を四方八方から切り裂く。移動開始から連続攻撃の終了までコンマ一秒と掛かっていない。高速移動からの超高速連撃。私の剣技のなかで最高速にして最大の攻撃力を持つ技。
端で見ていたカイロウやディスにも見えなかっただろう。何が起きたか判らないままに、相手を切り刻む。全てはその一瞬で終わっていた。手応えは十分。これならば致命的なダメージを与えることが出来たはず。
しかし私はそこで緊張を切らさなかった。コーディの目が私を向いている。そして感じた。まだ、死んでいない! なんてタフな奴なの!
肉体の限界を超える私の剣技。その連続使用の反動は大きい。体のあちこちが悲鳴を上げている。けれどここが勝負どころ。引いたら負けだ。攻撃の手を休めること無くもう一度、必殺の高速連撃を行う。
その最初の一撃を放つ寸前。ほんの僅かなはずのその一瞬に、私はコーディの声を聞いた。そんな気がした。
「俺は弱い奴を相手にするのは嫌いなんだ。あんたは、うん。まぁまぁ、強かったな。だからな、ちょっとだけ本気を出してやろう」
私の人生は、ここで終了した。
THE END
キャラクターデーター
傭兵戦士。ディオン。
体力8/技術 10/知力 7/運 6
非常に高い戦闘力があり、戦闘に関するロール+2。ダメージ+1。
さらに独自に開発した剣技を所持する。技の使用にはそれぞれ体力消費がある。
一.相手に剣から生じる衝撃波を当てる。ダメージ1d6/消費1。
二.高速移動で間合いを詰め、瞬時に十数回切る。ダメージ2d6/消費2。
友人でもあるアンキー・テルドットから密輸の依頼を受けた。彼からの信頼も高くリーダー役も頼まれている。