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TRPGリプレイ小説 「国境を越えて」  作者: えにさん
第一章 傭兵戦士 【ディオン】
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1-5 裏切り者は誰

 そして一行は、この行程の中で最大の難所に差し掛かった。深い谷間に掛かる一本の吊り橋。長さは8m程で、谷の深さは三十m位だろうか。谷底に水は流れているが、各所に岩が飛び出しており落ちたら助かる可能性は低い。作られてから時間も大分経ってしまっている。使用頻度も非常に低く、いつ崩れでもおかしくない。


 今までの渓谷から急に開けているこの場所は山賊の襲撃にもちょうど良いポイントだ。しかし、ここを通らずに国境を越えることは出来なかった。

 カイロウとディスに命じて、吊り橋の状況を確認させる。ロープの強度、踏み板の劣化具合、接合部の不具合。そういった事を慎重にチェックしていく。


「なにも問題ないでーす」


「どうやらそのようだなぁ。これ作った人はしっかり者だ。いい仕事してやがんなぁ」


 二人は荷馬車の通過に問題ないと結論を出した。万が一の襲撃に備え、カイロウとディスは吊り橋を渡りきったところで待機している。


「了解した。では二人はそのままそこで待機。そっち岸の安全確保を頼みます」


「オッケー。任せといて」


「コーディは馬を引いてくれ。私は後ろで確認しながら押していく」


「了解っす。任せてくだせぇ」


「イェルム、リリー、キースは残って後方確認。リーブとクーナは私の後ろを付いてきてくれ」


「はい、わかりましたぁ」


「はいはい、後方確認。すればいいんだろ」


 私は、吊り橋を渡りきったあたりで山賊の襲撃が来ると確信する。二人のうちどちらか、あるいは両者共に山賊とつながっているのだろう。対岸の安全な場所から襲撃のタイミングを指示するつもりなのだ。

 荷物が目的であるのは判っているから、荷馬車が対岸に到着した直後に吊り橋を落とすなどして、後衛を切り離す策に出ることも思いつく。だからわざと荷馬車の後ろに移動した。相手の油断を誘うためだ。さらにこの位置ならリーブと小声で会話することも出来る。


「馬車が橋を渡った直後が最も危険な瞬間です。どんな状況にも対応できるようにしておいてください。それと出来るだけ馬車から離れないように」


「出来ればそういうことにならない方がいいんですけど。そういうわけにもいかなそうですね。判りました。クーナにも伝えておきます」


 高まる緊張感の中、荷馬車はついに吊り橋を渡り始める。橋の幅は狭く、車体が吊りのロープを擦りながら進んでいく。馬を引くのはコーディで、私は馬車のすぐ後ろでロープの擦れ具合を調整していた。

 他者から見るとわかり辛くしておいたが、馬車の後部にロープを結びつけてあり、その一部を腕に巻き付けておいた。さらにその端を反対の手に持ち、いつでも後ろにいる二人に投げ渡せるようにしてある。こうしておけば、馬車さえ陸地にあれば、私が落ちることはないし、二人を素早く引き上げることも可能だろう。


 そして吊り橋を渡る最中は常に両岸から現れるだろう伏兵に意識を割いていた。だから気がつくのが遅れてしまった。それは思いもしなかった所からの襲撃だった。

 馬車がちょうど中間点を過ぎた頃、不意に足下が軽くなった。咄嗟に手にしたロープを後方のクーナに投げるが、タイミングが合わず彼女はそれを受け取ることが出来なかった。

 しまった、ロープのことを先に伝えておくべきだった。咄嗟の判断が遅れるのは経験不足からだ。二人がそれなりに優秀だったから忘れていたが、クーナは初心者だった。リーブの方は気がついたようだがクーナを支えることに必死でロープまでは手が届かない。今更後悔してももう手遅れだ。二人のことは忘れて自分のことに集中しなくてはならない。

 山賊達は私たちに勝てないことを前提に、谷間に私たちごと落とし、後から回収するつもりだったのか? 自信の迂闊さに後悔を感じる暇も無く、体が引っ張られる。


「なめるなよぉっ。おりゃぁぁぁあ!」


 コーディの気合いの乗ったかけ声が谷間に響き渡る。彼は片手で吊り橋を持ち、反対の腕で馬の首をつかみ、それを対岸へと放り投げたのだ。私は腕を馬車と繋げておいたため、その馬車と一緒に対岸の地面へと叩き付けられる。馬車と腕をつないでいた金具が衝撃で壊れたせいか、勢い余って体が二転三転しながら吹き飛ばされた。


 全身に激しい痛みが走るが、それに絶えて周囲の確認する。投げたときの力で馬の首はあらぬ方を向いていた。馬車は大破し荷物の一部が散らばっている。カイロウとディスは馬車を避けるためか、壁際にうつぶせになって倒れている。岸の方を見るとコーディがゆっくりと登ってきていた。


 最初に行動したのはディスだったと思う。素早く体を引き起こすと、散らばった荷物を伺っている。目的の物を探しているのだろう。その視線の先を追えば・・・。そこには予想通り剣が落ちていた。ディスに遅れぬように私も立ち上がり剣をかまえる。


「それに手を触れないようにお願いします。それは依頼主の物ですよ」


 私の声はディスの動きを止めるのに十分だったようだ。


「散らばっているし、とりあえず集めておこうかなー。とか思っただけなんですけど」


 もちろんそれが嘘だという事は判っている。剣先で牽制しつつ荷物とディスの間に移動していった。その時、激しい危機感が全身を駆け巡る。本能に刺激されるままその場から飛び退いた。

 私の立っていた場所に馬が降ってきた。ドーンという鈍い音がして、周辺に砂埃が上がる。もちろんこんなことが出来るのはコーディしかいない。


「悪りぃなぁ。こいつは俺がもらうつもりなんだ」

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