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TRPGリプレイ小説 「国境を越えて」  作者: えにさん
第六章 貴族の娘 【クーナ】
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6-2 集う冒険者

 旅立ちの準備をしながら、依頼内容の詳細を確認した。簡単に言うと荷物の護衛。大きな声では言えないけれど禁制の品々なんだと思う。具体的に聞かされなかったけど、それは理解した。

 なにしろ隣国のヴィセアとサウザランドは休戦中。今は小康状態だけど敵対関係は続いている。むしろ戦争再開は必然の状況と言えるほど、両国の緊張は高まっていた。

 そんな中で、国の監視をくぐり抜け国境を超える品物。それが依頼の危険度を匂わせている。ディオンさんは私たち二人には荷が重いと考えているのかも知れない。でも、どこか手伝ってほしいと訴える何かを感じた。


 そして意外だったのは他にも参加する冒険者がいるって言うことだった。ディオンさんが集めたわけじゃ無い。どちらかと言えば集まっていたところに私たちが参加する感じかな。

 ディオンさんは簡単ながら参加者の紹介をしてくれた。


 道案内のカイロウさん。装備も軽装だけど、性格も軽い感じ。でも国境を抜ける秘密のルートを知っているって事はとても経験のある冒険者なのかも。それに落ち着きがあって余裕がある。これがベテランの味なのかな。

 ディスさんは私よりちょっと年下かな。目がクリッとしていてとても可愛らしい。歩いているところを見ていると殆ど音がしなくて凄いと思った。

 上半身裸のコーディさんはちょっとだけ目のやり場に困る。見た目だけじゃ無い全身筋肉の体はきっと凄い腕力なんだろう。

 無口なキースさんは何を考えているか判らなくてちょっとだけ怖い。でも流れるような身の動かし方から熟練の技が感じられる。冒険者の人たちって人見知りな人も多いからあれで普通なんだろうな。

 リリーさんとイェルムさんの二人組は、仲の良いおとぼけコンビって言うのが頭に浮かんだ。天然な感じのリリーさんをイェルムさんが美味くフォローしている。本当に仲が良いのが見ていてどこか羨ましいぐらい。


 メンバーはそれぞれ特徴が有って、しかもみんな何かしら得意なことがありそうだ。冒険者なんだから当たり前かな。そう言う意味で、何も特徴の無い私自身に劣等感を感じた。でもその事で焦る必要は無い。リーブと一緒にいろんな事をやって、そして少しずつやれることを増やしていけば良いんだ。そうしたら私もディオンさんみたいな立派な冒険者になれるかな?

 私はリーブと共に旅する遠い未来の姿を想像し、一人笑みがこぼれていた。


「楽しそうだけど何かあったのかい」


 思いをはせていたその一人から声をかけられ、慌てて背をただす。リーブのことを考えていたなんてちょっと気恥ずかしい。だから出来るだけ平静を装った。


「別に何も無いわ。いつもと一緒よ。さ、準備をしましょ」


 参加人数が多いせいか、ディオンさんはいつになく忙しそう。商人テルドットからはパーティリーダーとしてみんなを纏めるよう言われているからだ。

 参加者能力の把握や配置の決定。荷物の確認や消耗品の手配。行き先までのルートや行程の確認などやることは多い。

 しかも依頼の性格からそれを参加者全員に全て伝える事も出来ない。一応極秘任務なので情報漏洩に気を遣っているんだ。そして準備期間が殆ど無い。とりあえず出発してやりきれなかった事項は移動しながら解決するみたい。


 慌ただしく時間が経過して、参加者同士の挨拶もそこそこに一行は街を出発した。

 詳しいルートは判らないけれど、街から東に向かっていき、そのまま山脈を越えていくのだと聞いている。

 冒険者になって日の浅い私は山歩きなんてしたことが無い。多少の不安を感じていたが、リーブと一緒だし多分大丈夫だ。


「ディオンさんから聞いたけど、山では山賊が出るらしい。それに護衛任務だから周辺の警戒を忘れずにしておこう。ディオンさんは大変そうだしここは僕たちでフォローするんだ」


「そうね。私もそれが良いと思う。何かの気配を感じたらすぐに教えるわ」


 私は十分な警戒をしていたと思う。でも結局山に入るまでは何も起きなかった。このときの私はまだ駆け出しの冒険者だった。だから、外だけでは無くて、内にも敵がいることを全く考えていなかった。


 街を出て森に行くまでは平坦な道が続いている。見晴らしも良くて襲撃が来る可能性は限りなく低かった。


「で、二人はずっとディオンさんと一緒に冒険してきたって事ね」


 前を歩いているディスさんが話しかけてきた。彼女は私より少し年下のようだけど、私より沢山の経験を積んでいると感じている。普通に歩いているように見えるのに、その速度は急ぎ足の私と同じか速いぐらい。それに森を歩いているはずなのに足音が聞こえない。

 そして何より、ちょっと嫉妬するぐらい可愛らしかった。旅慣れていない私は髪を整えることだって難しいのに、彼女はビックリするぐらいさらさらな金髪をポニーテールに纏めてあって、振り向くたびにそれがフワッと流れていく。

 私も旅慣れてくれば、ああいう風にさらさらな髪になるんだろうか。


「私は冒険者になってまだ半年位なんです。彼と合流してからすぐディオンさんと一緒になりました」


 ここまで何の襲撃も無かったことで、少し気持ちが緩んできているのかも。でもこうやって話をすることで、互いのことが判るのならばそれも必要なことだと思う。


「僕はかれこれ四年になるかな。実力が無いので、難易度の低い仕事ばかりやってきました。最近はディオンさんのおかげでこういった難易度高めの仕事も出来ています」


 隣を歩くリーブも話に加わってくる。


「ディオンさんは強いよね。冒険者としても経験を積まれていて、私たち色々教わっているんです」


「なるほどねー。そんなに凄いんだぁ」


「いつも冷静で、先を見通しているっていうか。そう、安心感があります」


「ところでさぁ。二人って恋人同士なの?」


 急に話が変わって少し驚く。いつも一緒にいるからよく言われるのだけど、端から見るとそういう風に見えるのだろうか。


「そんなんじゃ無いって。ただの幼馴染みなの」


「ええ、ただの幼馴染みです」


 リーブも調子を合わせてくる。もちろんただの幼馴染みなんだけど、リーブに言われると少し残念な感情が生まれてくる。まぁ、間違いじゃないんだけどね。


「そう言うディスさんは、恋人とかいるんですか?」


「えっ? んっんー。いないんだよねー。フィーリング会う人いなくてさぁ」


「ディスさんは理想、高そうですものね」


「えっとぉ…。顔が良くて、背が高くて、教養があって、優しくて、強くて、アタシをしっかり守ってくれる人なら誰でも良いかな」


「それを理想が高いって言うんです」


「そうかなぁ。これぐらい普通だと思うんだけど」


 聞いただけだと、その条件に合う人って私の知り合いの中にはいないかな。王都の騎士隊に何人かいるかも知れない。そう言えば、どこそこの隊の誰それが格好良いとか、そう言う話を聞いたことがあったかも。夜会とかで声をかけてくる連中は、なんか下心満載で相手にする気も起きなかったな。ああいうのは私も遠慮したい。

 んっ? そう考えると私も理想高いのかな。


「たとえば、僕で言うとそれに一つも当てはまりませんね」


 リーブは自分のことを能力が無いなんて言うけど、それは違う。彼には彼の良いところがあって私がそれを一番判っている。今の私がこうやって冒険出来ているのは彼のおかげなのだ。私一人ではここにこれなかった。だからもっと自信を持って良いと思う。


「あなたにはあなたの良さがあるんだから、それでいいじゃない」


 そう。彼には彼の良さがある。そのおかげで私は楽しい冒険を続けられる。感謝の気持ちは他の何にも変えられない。このときはそれで十分だと思っていた。

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