5-4 戦闘の後で
「リーブさん。疲れているところ申し訳ない。少しお話をしたいのですが…」
最初の襲撃を無事にやり過ごした事で少し気が緩んでいたのだろう、昔のことに思いを馳せ、少しボウッとしていた僕にディオンさんが話しかけてきた。
「それは構いませんが。いったいなんですか?」
「さっき攻めてきた連中のことです。今後の対策なんかを決めておこうと。攻めと守りに分けるとか」
「そういうことですか。判りました」
今回の護衛依頼。一言で言うなら密輸である。しかし隣国のヴィセアとは休戦中でもあり監視の目はそれほどキツくは無い。総合的に考えると危険度はそれほど高くなかった。それにディオンさんも一緒だ。と言うよりこの依頼はディオンさんが持ってきた。古い友人からの依頼でディオンさんが依頼を請けることは確定していた。後はその依頼に僕たちがついて行くかどうかだった。
結局クーナの「隣国を見てみたい」という発言によってそれは決定した。今は政況が安定しているから危険も少ないし、隣国を見ておくというのは確かに彼女にとって意味と意義があるのは理解出来た。
しかし何か、この依頼に対して不安を感じていた。
「リーブさんは察知する能力に長けています。だから聞きます。パーティメンバーの中に山賊の関係者がいるとしたら誰だと思いますか?」
「それは、その可能性があるってことですか?」
ディオンさんの言葉で僕の中の不安が少しずつ膨らんでいく気がした。言葉に出来ない何か。それが何かまだわからない。
「可能性は非常に高いと思います。この手の山賊達がよく使う手なんです。さっきの戦いの中で、そういったことを感じ取れていたらと」
「そうなんですか…。僕は人を疑うのが好きではありません。パーティになった以上、お互い信頼し合いたいと思っています。だから、そうですね。信用できる順に言います」
そう言ってから何か引っかかる物を感じた。パーティの中にいるかもしれない不和の存在。不安に対する答えが見えてきた。
「それで構わない」
「まず、クーナは間違いなく信用できます。それからあなたも」
「当然でしょうね」
「次はリリーさん。彼女はそういうタイプでは無いと思います。イェルムさんはリリーさんと知り合いのようですし、除外しても良いのでは」
「それにも同意できます」
「それから、コーディさん。彼の岩投げには遠慮を感じませんでした。だから違うと思います」
漠然とした不安の中、僕は自分の気持ちに納得がいく答えを探す。不和。裏切り。敵。山賊。荷物。狙う。思いつく限り言葉を羅列し、それらを最適の形で組み直していく。
「残るは、ディスとキース、それからカイロウ。この三人か」
「そうなりますね。でも、この人が怪しい。と言う部分は感じていませんよ」
「そこまでで十分です。さて、ここからがお願いなのですが、私一人で三人を監視し続けるのは難しい。だから」
不安に対する正解は見つからない。ただ本能が一人の人物を見つけた。そしてそれを口に出す。
「そういうことでしたら、私はキースさんを見張ります。隊列的にも妥当でしょう」
「ありがとうございます。それから隊列も少し変えようと思います。リリーさんとイェルムさんを最後方にして、クーナさんとリーブさんを馬車のすぐ後ろにします。二人には出来る限り馬車の近くにいてほしいのです」
「僕なんかがどのくらい役に立つか判りませんが、でも、やれる限りのことはしますよ」
「頼りにしています」
人を疑うのは好きでは無い。けれどあのキースという男。何かが引っかかる。僕はその直感を信じてその動きを監視することにした。基本は僕が監視することとなるが、何かあればディオンさんもすぐに対応してくれることだろう。
僕は一人じゃ無い。信頼出来る仲間もいる。油断して良いとは思わない。けれどきっと大丈夫だ。落ちついて出来ることをこなしていこう。