表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TRPGリプレイ小説 「国境を越えて」  作者: えにさん
第四章 隠された牙 【キース】
23/48

4-5 必殺のタイミング

 簡単な休憩の後、一行は移動を開始する。一部隊列に変更があり、さらに監視が付くようになった。

 なにか致命的なミスをしたのか? 考えてみたが何も思い当たらない。監視対象は他にもいて、そこから察するに山賊の襲撃に関連し内部支援者の可能性を覚えたのだろう。

 先ほどの戦闘状況からそれを考えたのか? いや、最初からその可能性を考えていて、候補を絞った。たぶんそうだ。

 それならそれで構わない。何かあったとしても荷物を優先して行動するだろう。その時隙が出来るかもしれない。逆にそれを利用して荷物を狙う振りをするか。いや、それをやってはダメだ。

 監視の視線を浴びながら、それを無視して進んでいく。

 先頭が止まる。難所である吊り橋に到着した。渡る前に強度チェックを行うようだ。


 斥候が橋をチェックしているときも、監視は続く。それに対し何もせず、ただ立ち尽くしていた。なんとか警戒心を解きたいところだが、今はまだ無理。しかし特別なことはしない。自然体、それが一番だ。

 橋のチェックが終わり、強度には問題なく馬車を渡らせることになった。


「了解した。では二人はそのままそこで待機。そっち岸の安全確保を頼みます」


「オッケー。任せといて」


「コーディは馬を引いてくれ。私は後ろで確認しながら押していく」


「了解っす。任せてくだせぇ」


「イェルム、リリー、キースは残って後方確認。リーブとクーナは私の後ろを付いてきてくれ」


「はい、わかりましたぁ」


「はいはい、後方確認。すればいいんだろ」


 それぞれ指示に従い配置につく。

 こちら岸に残るよう言われた二人は、橋のたもとより少し離れ、後方を中心に警戒している。そこで気配を悟られぬよう二人から少し離れた位置へ移動。

 馬車に背中を向けたまま、聴覚の感度を高めた。小さくささやく声が聞こえる。


「馬車が橋を渡った直後が最も危険な瞬間です。どんな状況にも対応できるようにしておいてください。それと出来るだけ馬車から離れないように」


「出来ればそういうことにならない方がいいんですけど。そういうわけにもいかなそうですね。判りました。クーナにも伝えておきます」


 素晴らしい。渡りきる瞬間に向かって集中力を高めている。逆に言えば、岸から最も遠いときの集中力が低くなっている。つまり吊り橋の中間点を荷物が通過するとき。

 ロープの軋む音、踏み板に当たる靴の音。車輪や馬の足音。音だけを頼りに全ての状況を把握する。ここで振り向けば、その気配を悟られる。


 馬車が中間点を通過。意識がこちら岸から向こう岸に切り替わる。その瞬間が待ち望んでいたとき。

 絶対のタイミングを計り、隠しておいた刃を抜く。操るは影。闇の技が刃となり、持てる最高の速度で飛んでいった。

 優秀な察知能力を持つ者は、自分に命中する攻撃に強く、咄嗟に対処出来る。しかしそれ故、自分に当たらない攻撃には対処が遅れる。つまり誰にも当てず、吊り橋だけを切る。この攻撃は誰にも防げない。


 想定通り吊り橋はピンポイントで途切れた。二つに分かれたそれぞれが、岸に向かって落ちていき、壁に叩き付けられた。その音と、橋が落ちたことで発せられた気配を感知したうえで、向きを変え橋へと向かう。

 岸から体を乗り出し、眼下を除く。そこにはロープにしがみ付く二人の姿があった。他にはいない。メンバーの分断が成功した。こちら側に強者はいなくなった。

 用意しておいたロープを取り出し、届くように投げ下ろす。


「掴め。登ってこい。一人ずつ順番に」


「ありがとうございます。さぁ、クーナ。先に」


「無理な動きをするな。上にいる者から順番にあがれ」


「リーブ。私なら大丈夫。すぐにロープが切れそうな状況じゃ無いわ」


「そう、ですね。判りました。クーナ。上に付いたらすぐに引き上げるから」


「よろしくね」


 ゆっくりと、そして確実にロープを引く。一人目が手の届くところま来ると、直接体を掴み、そして岸上の安全な場所へ体を移してやる。

 後ろで様子を見ていた二人に後のことは任せ、再度ロープを降ろす。そのロープを掴んだのは先ほどクーナと呼ばれていた女。引き上げるロープに重量の感じ、手応えを確かめた。間違いなく全体重が掛かっている。

 もう一度周囲を確認する。女との間を塞ぐものは無い。間に割り込める者もいない。邪魔者は全ていなくなった。絶対のタイミング、その時がやってきた。

 両手を使ってロープを引きながら、あらかじめ口に含んでおいた小さな針を発射する。音一つなく飛んでいったそれは、ロープを掴む女の右手に刺さる。その所作に気づく者は一人もいない。針を受けた当の本人ですらその事に気づいていないだろう。チクリとした痛みは感じたかも知れない。しかし必死にロープを掴んでいるこの状況では、それを気にしている余裕も無いはず。

 針には即効性の毒薬が仕掛けてある。手先から全身に痺れが広がり、そして痺れが心臓に到達したときその人物は絶命する。いや、ロープを掴む力を失う方が速い。そして落下する。岩にぶつかって即死するか、運良く水面に落ちてもその後毒によって死ぬか。どちらにしてももう死は免れない。

 女が死んだのは、手を滑らせロープを放してしまったから。誰が見てもそう思えるだろう。依頼達成。仕事は終わった。


 そして針を飛ばす前と全く変化無いように、ロープを引く動作を続ける。

 手がピタリと止まった。いや、止まってしまった。目の前に信じられない光景がある。降ろしたロープの先に捕まっていたのは、先ほど引き上げたはずの男。

 思わず後ろを振り返る。ターゲットが二人に介抱されていた。


 バカな!? そんなはずは無い。今のは絶対のタイミングだった。


 後ろで介抱していた二人も驚いている。当たり前だ。目の前で人が入れ替わったのだから。改めて眼下を確認する。ロープを掴む男の姿。全身が痙攣し目から光が無くなって来ている。毒の効果が体中に広がってきている。コイツはもう死んだ。

 冷静さを失い、心臓の鼓動が速くなっている。落ち着け、そして考えろ。二人が入れ替わったのは何かの魔法。針が命中する寸前に二人が入れ替わる。そして男が針を受けた。その力を使ったと言うことは、こちらの攻撃を理解したと言うこと。

 情けない。暗殺者失格。正体に気づかれてしまうとは。

 かくなる上は、ここにいる全員に死んでもらう。そうすれば正体に気づかれたことも無かったことに出来る。簡単では無いがやるしかない。

 まずは女を殺す。男が死んだ今なら入れ替えの魔法は使えないはず。その後残りの二人も殺す。残念だがそれが寿命だったと諦めてもらうしか無い。

 やるべき事は決まった。後はそれを実行するだけだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ