1-2 冒険者達
私の名はディオン。冒険者、あるいは傭兵と呼ばれる仕事をしている。自慢では無いが戦士としての腕は一流。これまでいろいろな出会いもあったし、同じくらい別れもあった。死を覚悟したことも一度や二度じゃ無い。
身長も体重も冒険者としては平均的。細身の体ではあるが女性特有の緩やかなラインを描いている。戦闘の邪魔になるので黒髪は短く揃えた。顔立ちは、まぁ整っている方だろう。強いて特徴の有る部分を言うなら瞳になるかも。一見普通の黒だが、光を浴びるとダークグリーンが顔を出す。
装備は金属を多用し、胸鎧、小手、すね当て、兜。護るべき所を一通りカバーしつつ動きを阻害しないよう軽量化も図ってある。盾は大きめで腕に装着するものを利用。武器は通常より少し長めの長剣。もしもの時には両手で扱えるよう握りを長くしてある。
普段は剣を使うが、弓、槍、斧、短剣その他にも武器と名の付くものは一通り扱える。必要なら今座っているこの椅子を武器にして戦うことだって可能だ。
生き抜くためなら使えるものは何でも使う。そうやって生きてきた。
冒険稼業は楽では無いが、男女の区別は無い。実力が全て。私が女性でありながらここまでやってこられたのは、その力があったからだ。
それなりに長くやってきた私はあちこちに知り合いがいるし、長く時間を共にした友人もいる。おかげで食うに困らない程に仕事はあった。
今回はそんな昔からの友人の一人、アンキー・テルドットからの依頼。特段用事があったわけでは無いが、久しぶりに顔を見ようと思って立ち寄った際に話をもらった。
いや、彼のことだから私がここに向かっているのを知っていたんだと思う。むしろ最初から私に頼むつもりだったと考えた方がしっくりくる。
彼は、幾人かの貴族から出来ないことは無いと言われていた。通常の仕入れの他、盗みや暗殺などの非合法な部分も含むとの噂もある。事実それに近いことを依頼されたこともあった。さすがに暗殺とかをやるつもりは無いけれど。もちろん彼もそこのところは判っている。
とにかく、今回の仕事は最初から胡散臭いところが多かった。簡単に言えば馬車1台分の荷物を目的地まで運ぶだけだ。
それだけのことなのに問題はいくつもあった。
一つ目は目的地が国外であること。そして通常のルートでは無く、人の通らないルートを使用する。荷物の中には大きな声で言えないような品物が含まれる。
二つ目は運搬チームが寄せ集めの人材だと言うこと。本来ならもう少し少ない人数で目立たないよう行動するべきだが、もう一つの理由から今回は9名が参加する。全員冒険者と名売ってはいるが、信用できるとは限らない。すでに怪しい人物が何人かいる。
三つ目の理由。今回通るルート上に山賊がいるということ。山賊の人数はおよそ20人。
わざわざそんなルートを選ぶ必要が無いと思うのだが、いくつかの政治的事情からこのルートを使う理由があるそうだ。もしかしたらわざと失敗することが前提なのでは無いかと勘ぐりもする。テルドットの様子を見る限りではそれはなさそうだったが・・・。
もちろん依頼を受けた以上成功させるつもりでいる。だが、どんな仕事も入念な準備と、慎重な行動が必要となる。特にパーティを組む以上、信頼できるメンバーを揃えることは重要だ。
その最初の一歩で躓いているのではこの先が思いやられる。互いのことを知ろうにも、時間の都合でその余裕も無かった。
「知り合いからの話って何だったんですか」
「商人テルドットって、かなり有名ですよね。そんな人と知り合いなんてディオンさんさすがです」
「長くやってきているからね。ちなみに仕事の依頼でした。私はやることにしたけど二人はどうする?」
「ディオンさんが持ってきた話なんです。やらないなんて選択肢は無いですよ」
「クーナがやるきなら僕もオッケーです」
「まだ、何をやるかも話していないのに? いいけど、一つだけ言っておくわ。隣の国へ行く事になるわよ」
「隣の? えっと、平気かい。クーナ」
「大丈夫。どんなことでも経験だって。一度くらいヴィセアも見てみたかったしね」
ここに来るまで一緒だった、クーナとリーブ。つきあいは半年ぐらい。何度か依頼をこなしていたし人となりも判っている。とりあえずこの二人は平気だろう。
しかし、二人ともあっさりオーケーしたな。いや、リーブの方は少し迷っていたようだが・・・。
二人にはすぐにでも発てるよう準備しておくように言っておいた。
クーナは若い女性で標準的な軽装戦士だ。年は20歳ぐらいだろうか? 私には及ばないが剣の腕もたつし、多方面において平均以上の能力を持つ。もう少し経験を積めば優秀な冒険者になれるだろう。
リーブはクーナと幼馴染みとのこと。装備もクーナと似たり寄ったり。冒険者にはクーナより先になったらしいが、実力は並。気配を察知する能力に長けているがそれだけではこの先辛くなる。彼もまた薄々そのことに気がついているようだ。
「それで。ここから先の護衛としてあんたが来たってことかい。しかしこんな美人さんとは思わなかった。俺はカイロウって言うんだ。よろしく頼むぜ」
「私はリリーって言います。よろしくお願いします」
「イェルムです。よろしく」
この三人は街まで荷物を運んできた冒険者。テルドットの依頼人から依頼されたって立場になる。
一人目はカイロウと名乗る盗賊系の男。20代後半と思われる。冒険者の中でも罠の解除や偵察などを担当する役割を盗賊と呼ぶのだが、こいつの場合はそれに該当するのだろう。身のこなしや装備などから旅慣れているところを感じた。
運び手としては私より前から依頼されているが、注意を払っておいた方がよいだろう。
二人目はリリー。10代半ば、少女と言える容貌を残している。のんきな性格なのかあるいは旅慣れていないのか、周囲に流されることが多い。
装備は布の一部に革を追加した軽装で、武器はダガー。体力的な問題もあるのか所持品も軽量化を優先している。正直監視の必要は感じない。
三人目もまた盗賊系の男で、名はイェルム。20代半ばで口数は少なめ。それなりに旅慣れているが、冒険者と言うより街でスリや窃盗をするタイプに見えた。
リリーと行動を共にしているらしく、彼女の意向を伺うことが何かと多い。その事から危険度は低めでいいだろう。
残るはテルドットが別口で雇った三名。この町で雇ったと言うが、このメンバーは特に気をつける必要がある。
「こんにちはぁ。ディスっていいます。よろしくぅ」
「今回の依頼においてリーダーをつとめるディオンと言う。こちらこそよろしく」
「ディオンさんですか。女同士仲良くやりましょう。楽しい旅になるといいですね」
まずは盗賊系の女。ディス。冒険者系盗賊にありがちな軽装で、ショートソードと弓を持っている。年齢は20前後だろうか。若さあふれる美しさと冒険で鍛えただろうポイントを押さえた体つきをしている。
この若っぽい声と会話は天然なのかそれとも演技なのか。まだ判別できていない。
とりあえず気をつけておきたい。
「今回の依頼では私がリーダーになる。何か質問はあるかい?」
「・・・無い・・・・」
キースは判別が難しい。大きめのローブに身を包み、その顔を見せることが殆ど無い。年齢は判別しにくいが、30を超えていると思われる。性別は男だろう。
魔術師である可能性も考慮すべきだろうか。常に気配を殺していて、隙の無い動きをする。言葉も少なく何を考えているかわかりにくい。どちらにせよ注意が必要だ。
「あっしがいればもう旅は成功したようなもんだすよ。安心してくだせぇ。あ、考えるのは苦手なんで、その辺わ任せるっす」
最後の一人。コーディは二メートル近い巨躯の男で年齢は20代半ば。巨大な大剣を背負うが防具はほぼ無し。全身が筋肉の塊で出来ている。あの体から繰り出される一撃はあらゆる敵を粉砕することだろう。戦力として最も頼りになりそうだ。
行動も言動も単純で、戦うのが好きなようだ。危険度は低いとみていい。
そうして参加者全員との面接が終了した。みな一癖も二癖もありそうな連中ばかり。
戦力的に見れば山賊対策については十分だと思う。しかし荷物を相手先に手渡すまでが護衛の仕事。仲間の中に裏切り者がいれば簡単にはいかない。
私はこれから始まる旅程の困難さを感じていた。