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TRPGリプレイ小説 「国境を越えて」  作者: えにさん
第三章 怪力無双 【コーディ】
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3-5 クライマックス

 休憩が終えた一行は改めて移動を開始する。程なくして吊り橋が見えてきた。リーダーによるとここが最大の難所らしい。長さはそれほどでは無いが、落ちたらやばいくらいの深さがある。見るからに古びた吊り橋だ。作られてから時間も経っているようだし、そもそもの許容重量が少なく感じる。


「どうします? 先行偵察やりますー?」


「そうですね。では、ディスさんとカイロウさんの二人でお願いします」


「はぁい。了解。じゃぁ、行こうか。カイロウさん」


「しゃぁねぇなぁ。これも代金のうちだよな」


「そう言うこと。さぁさ、ちゃっちゃとはたらけぇ」


 谷底を流れる川の深さもよくわからないし、その中に落ちてしまったら探すのは骨の折れる仕事になる。それを心配しているんだろう、二人は入念な調査を行った。

 やがて二人は顔を合わせ、両手で大きくマルを作った。


「なにも問題ないでーす」


「どうやらそのようだなぁ。これ作った人はしっかり者だ。いい仕事してやがんなぁ」


 それを見たリーダーは馬車を渡らせることを決意する。


「了解した。では二人はそのままそこで待機。そっち岸の安全確保を頼みます」


「オッケー。任せといて」


「コーディは馬を引いてくれ。私は後ろで確認しながら押していく」


「了解っす。任せてくだせぇ」


「イェルム、リリー、キースは残って後方確認。リーブとクーナは私の後ろを付いてきてくれ」


「はい、わかりましたぁ」


「はいはい、後方確認。すればいいんだろ」


 馬車の幅は吊り橋よりほんの僅かに大きい。両サイドのロープを押しのけながらジリジリと進んでいく。俺は馬の手綱では無く、食みの辺りを持って誘導していた。

 馬車の自由がきかない状況だ。どのタイミングで何が起きるか判らない。山賊の襲撃も考えられたが、少なくとも俺の感知範囲内にその気配は無い。

 ギシギシと軋むロープの音が谷間に響いていく。馬車が中間を過ぎた辺りで、後方から殺気を感じとった。それは小さく押さえられていて、さらに俺を狙った攻撃では無い。だから発生源の特定は出来なかった。

 その直後に足下の接地感が無くなる。どんな技か見えなかったが、馬車のすぐ後ろでロープが切断されたようだ。真ん中付近で切られた吊り橋は両岸に向かって落下していく。


 なるほど、この方法で来たか。ライバルが多いこの状況だ、ここにいる連中の実力では、個人技だけで聖剣を手にするのは難しい。なら他者が近づけない場所に移動させれば良い。それが谷底って訳だな。だがそうはいかねぇ。


「なめるなよぉっ。おりゃぁぁぁあ!」


 俺は片手でロープを、空いた手で馬の首を抱え込む。そして首投げの要領で馬を向こう岸にぶん投げた。馬に接続されていた馬車も当然飛んでいく。ついでにその馬車にしがみついていたリーダーも一緒。あの勢いで離さないとは根性あるじゃねぇか。


 ドスン、バガーングワラガシャガシャシャン……。


 激しい音と土煙を上げつつ馬車がぶっ壊れる。チラリと後ろを伺ってみた。よぉし、あの状況ならあいつはこっちに来られない。これでいい、これでやっと聖剣に手が出せる。

 まずは岸に上がってと。だれがどう動いているかな。ここまで来れば全員本性を現していることだろう。

 ふむ、盗賊のお嬢ちゃんが一番近いか。


「それに手を触れないようにお願いします。それは依頼主の物ですよ」


 盗賊を牽制しているのは、やはりリーダー。ほぉう、なかなかの殺気だねぇ。


「散らばっているし、とりあえず集めておこうかなー。とか思っただけなんですけど」


 ドッシーン!!


 とりあえず近くにあった馬を投げつけた。二人とも流石にちょっと引いた。その隙を逃さず聖剣に近づき、そしてついにそれを手にした。

 おおー。こいつぁ本物だ。半端ねぇ力を感じるぜ。話には聞いていたがこれ程とは。こんなパワーを自由に使われたら俺じゃぁかないっこねぇ。

 だがしかし! これを使いこなせる奴は手の届く範囲にいねぇ。


「悪りぃなぁ。こいつは俺がもらうつもりなんだ」


 この場にいる全員に聞こえるよう、高々と宣言してやった。


「その剣をおいて、そしてそこから下がりなさい。これは脅しではありませんよ」


 最後まで粘るかぁ。他の二人は諦めたみたいなんだがなぁ。いやいや、リーダーのそういう所、好きだぜ。


「俺ぁ戦うのは好きじゃねぇんだ。そう言うの、やめようぜ」


「最後の警告です。剣を置きなさい」


 そう言いながらジリジリと近づいてきてる。得意の間合いに入ったら、グワッて感じで突っ込んでくるんだろうなぁ。


「まったなぁ。だから戦いたくないんだってば」


 こいつは時間をかければもっと強くなる。出来ればそうなってから遊びたい。今やり合っても面白くないからな。さぁて、どうすっかなぁ。


「しょうがねぇなぁ。判った、判ったよ」


 かがみ込むようにして、剣を地面に置くふりをする。


「だから、逃げるっ!」


 リーダーに背中を見せて一目散に逃げ出した。もちろん手には剣を持ったままだ。足を思い切り地面に叩き付け、地面を陥没させ、土煙を発生させる。俺のトップスピードなら一瞬の隙があればやつの間合いから逃げられるはずだ。


「逃がしません!」


 気合いと共にリーダーが吠えた。


 ヒュン。ギュババババガガガザザザザ…。


 剣刃から伸びる衝撃波が土煙を大きく吹き飛ばしながら飛んできた。


「うっっそおぉぉーーんん」


 思わず変な声を出しちまった。やべっ、これは避けきれねぇ。しゃあないな、左腕に力を込めてそれを受け止める。予想通りの切れ味で腕に裂傷が出来た。くっ、痛えじゃねえかこの野郎。振り返ってリーダーを睨んでやった。


「てめぇっ。よくもやってくれたなっ。こうなったら…」


 って、オワァ、チャチャチャチャチャ。何じゃそりゃぁ。おい、俺が喋っている間ぐらい待ってても良いじゃねぇか。

 リーダーが続けて使った剣技は、その速度において、今の俺のそれを遙かに凌駕していた。この体では勝てないと悟る。残念だ。とっても残念だよ。

 俺の状況を確認するために目を見に来たディオンを憐憫の思いで見返した。まだ俺が死んでいないことを悟ったディオンはさらに追撃を放とうとする。

 だがね、それじゃぁ遅い。かりそめの体を破壊され、真の姿を取り戻した俺は、力を自由に使うことが出来る。


「俺は弱い奴を相手にするのは嫌いなんだ。あんたは、うん。まぁまぁ、強かったな。だからな、ちょっとだけ本気を出してやろう」


 声なき声。思念で伝えた言葉はディオンにちゃんと届いたはずだ。それが俺なりのケジメ。強者に対する賞賛の証。そして強者の名前を覚えておくのも俺の流儀。

 俺が使ったのは、ある一点に超高熱を作りだし拡散させ、その熱で全てを溶かし尽くす魔法。威力もスピードもディオンの剣速を凌駕する。

 ディオンならその研ぎ澄まされた感覚で、魔法が発生し広がっていく光景を目にしたかも知れない。


 魔法の閃光が収まったとき、俺の前には小さなクレーターが出来ていた。魔法の影響を直接受けた範囲が超高熱で抉り取られた痕跡。ディオンの体はかけらも残さず消滅した。痛みを感じる暇も無かっただろう。

 この魔法の良いところは、威力の割に効果範囲が小さいこと。超高熱は距離に比例して急速に低下する。二十mも離れれば温度変化によって発生した突風を受けるだけ。橋の向こう側なら何かが光って風が吹いてきたぐらいに感じただけだろう。


 近くにいた盗賊二人? どっちも魔法の余波で谷底に吹き飛んでいった。微妙な立ち位置だったから、どのぐらいダメージがあったかは判らない。運が良ければ生きているだろう。しかしここに戻ってくることは考えにくい。

 俺の正体を見られたとしても、まぁ、それもいいか。


 必要なものは手に入れた。向こう側を確認する必要は無い。時間も無いことだし、余計なことをしてマズいことになる前に退散するとしよう。

 迷わず転移の魔法を使い、あらかじめ用意しておいた隠れ家へと帰るのだった。

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