3-3 予想外の邂逅
時間ぴったりに俺は集合場所にたどり着いた。そこには、今回の運搬に関わるメンバーが全員揃っていた。
メンバーを一瞥して驚いた。参ったな、これは予想外。一人だけマズい奴がいる。いや、多分大丈夫なんだが、用心しておかなくては。見た感じ弱そうだしこちらの気配に気づく様子も無い。
やっぱりあいつの頼みは面白い。こういう出会いがあるんだからな。他の連中は弱すぎて面白くも無いが、あやつ一人のおかげで旅が楽しくなってきた。こちらから仕掛ける必要は無い。様子を見ながらタイミングを計るとするか。頭の悪そうな怪力男のコーディ。この姿はこう言うときの隠れ蓑としてやくにたつ。
リーダーの指示により、隊列が決まる。運の良いことにあいつからは離れたポジションだ。近くにいてもバレるとは思わないが、少しでもその確率を下げられる方がありがたい。
間髪おかずに馬車は動き出した。俺のいる先頭集団は、男女二人の冒険者がいて、その後ろにも男女二人の冒険者がいる。馬車はその後を着いてくる。
隣を歩く盗賊系冒険者が話しかけてきた。
「しっかし、あんたのその体。いや凄いねぇ」
こう言うときはテンプレートで用意しておいた答えが一番。
「むっふぅー。けんど、ちっと鍛えりゃあ、こんなのすぐってもんでさぁ」
「カイロウさんも真似してみたら? も少し格好良くなれるかも知れないじゃん」
「そういうのは、遠慮しておきますぜ。男は筋肉より顔でしょう」
「その顔がイマイチだから言っているんだけど?」
「おいおい、そりゃや言い過ぎなんじゃないかい。これで結構もてるんだぜ」
「あっしも沢山持てるっす。この筋肉は伊達じゃねぇっす」
つかず離れずの距離感を保ちながら、会話を続ける。全く怪しまれていないようだ。
「いやいや、そう言う意味じゃ無いんだけどな」
「でも、コーディさん本当に強そうですよね。今までどんなのと戦ったことあるんですか?」
「デッカいのとか、チッこいのとか、黒いのとか、赤いのとか。いろいろだぁ」
「なんだよそれ。魔物の名前とか知らねーのかよ」
この盗賊からホンの一瞬だけ視線を感じた。魔物の名前、だと? まさか俺の正体に気づいたか? ちょっと試してみるか。いや、まだ速い。
「とっくに忘れちまっただ。そんなの腹の足しにもならねぇ」
出来るだけ、演技に変化の無いよう慎重に答える。こいつから感じた視線は微塵も無くなっている。やはり勘違いなのか。
ちなみに女はは話の流れそのままに、後ろを歩いていた冒険者二人組に移っていった。ふむ、まぁ今のうちに楽しんでいれば良いさ。
休憩時間や夜の見張り時間を使って、メンバーを一人一人観察する。もちろん、見ていることを誰かに気がつかれるようなへまはしない。
数日間による観察の結果、結論からすると俺とやり合って勝てる奴はいないと結論した。まぁ、そうそういるとは思ってもいないがね。
それと、メンバー同士の雑談には耳を立てていたが、あいつが参加したのは偶然としか思えない。だが俺からすれば、聖剣適合者がいるなんてある意味必然。だからそのことは難しく考えず、他のメンバーの強さと協力関係について確認だ。
万が一聖剣が奴の手に渡ってしまったら。その時は諦めた方が良いかもしれない。流石の俺も十分な準備無しに聖剣と戦う気は起きない。
適合者の能力は、実際に聖剣を手に取るまで計ることが出来ない。十中八九俺より弱いと思うが絶対では無い。そしてその強さが俺より強いと判ったときには、多分俺は滅んでいるだろう。
ふふふ、楽しいねぇ。最近強えぇやつと戦えてなかったから、負けるかも知れないって感じるこの状況が面白くて仕方がねぇ。
通るのが面倒な獣道を、無理矢理切り開きながら馬車は進んでいく。狭い場所などでは木々を押し広げ、馬車を押したり引いたりしながら通り抜ける。
途中からは見ていて面倒になってきたので、木の根が複雑な場所など、車輪での通行が難しい場所は俺が馬車を持ち上げて進むことにした。
メンバーの俺を見る目に変化が現れる。いや、だから最初から怪力だと言っておいただろうに。彼らの想像する怪力と、俺の言う怪力に若干違いがあったようだ。うーむ。俺のパワーはまだこんな物じゃ無いんだが…。
そうそう、馬車を持ち上げたときに気がついたんだが、荷物を入れてある宝箱。頑丈に封がしてある。簡単に言うと封を破壊しないと開かない仕組みだ。
普通に考えれば、俺のパワーで簡単に破壊できるが、そうはいかない。なるほど、対策済みか。対魔力の封印を付与してある。俺の怪力は魔力でブーストしているんだが、それでは封印を破壊出来ないってわけだ。この封印を作った奴はあらゆる事態を想定していたんだろう。この封印をやった奴がメンバーの中にいるのか、あるいはいないのか。なんとも言えないなぁ。一応いることを前提に考えておくとするか。
へっへへ、実に面白い。やっかいごとがドンドン増えている。