2-6 戦いの果てに
馬車が半分を超えたところでそれは唐突にやってきた。何か影のようなものが、上から下に向かって吊り橋を通過。その通過した場所、ディオンの背後でロープが全て切れた。ナイフや剣を使ったんじゃない。何か特殊な装備、あるいは魔法。その正体がわかっていれば見えたのかも知れないけど…。まずい今回は見逃した。
しかしアタシはキースがやったと確信する。彼は向こう岸に立ってこっちを見ている。背中を向けたままだけど見えているんだ。そして彼が何かやった。だったら彼の狙いはアタシじゃ無い。そして聖剣でも無い。
吊り橋が真ん中から二つに分かれ、橋の上に乗っていた全てが落ちていく。クーナとリーブが手元のロープを掴むのが見えた。これなら崖下に落ちることは無い。問題は馬車だ。あれが落ちていくのを止める手段が無い。はずだったんだけど違った。
「なめるなよぉっ。おりゃぁぁぁあ!」
コーディが片手でロープを、空いた手で馬の首を抱え込むのが見えた。そしてそのまま首投げの要領で馬車を馬ごとこっち岸にぶん投げた。咄嗟に身を投げて飛んでくる馬車を回避する。あっぶなーい。アタシに当たったらどうすんのよ。
ドスン、バガーングワラガシャガシャシャン……。
激しい音と土煙を上げつつ馬車がぶっ壊れた。あの勢いだもん。まぁ当然か。倒れ伏せながらもアタシの視線は荷物を捉えて放さない。もちろん壊れた瞬間中身の聖剣が飛び出したのも見えている。
チャンス到来。今ならアタシが一番近い。とっとと拾ってさっさと逃げよう。素早く立ち上がって動こうとしたその時。ディオンの声が掛かった。
「それに手を触れないようにお願いします。それは依頼主の物ですよ」
彼女、馬車にくっついて地面に激突したはずだよね。立ち直り速ーい。
「散らばっているし、とりあえず集めておこうかなー。とか思っただけなんですけど」
一応言い訳してみた。ディオンはそれを無視して聖剣の方に移動してくる。あちゃぁ。アタシの視線で剣の場所見つけたっぽい。どうする? 今、ダッシュすればアタシの方が早く着けそうだけど…。んっ。なんだ!?
ドッシーン!!
今度は馬が降ってきた。ディオンもアタシも牽制できる上手い位置。誰がやったかは判るけど、復帰が速いじゃん? って事はコーディも剣狙い! それってマズいかも。
「悪りぃなぁ。こいつは俺がもらうつもりなんだ」
予想通りコーディがそこに立っていた。もちろん剣を手にしている。あれが聖剣かぁ。たしかに、一目見ただけでなんか凄そうって判っちゃう。
「その剣をおいて、そしてそこから下がりなさい。これは脅しではありませんよ」
「俺ぁ戦うのは好きじゃねぇんだ。そう言うの、やめようぜ」
ディオンの殺気がドンドン高まってる。逆にコーディにはそれを感じない。あ、アタシ? ムリムリ。こう言う戦いになったら手なんか出せないって。戦うの苦手だもん。下手に手を出したら両方の攻撃食らってあの世行き確定。チャンスがあるとしたら二人の決着が付いた瞬間。一瞬の気の緩みに乗じて獲物を手に入れる。でもなんか無理っぽい。どっちも勝った勢いそのままにこっちも攻撃してきそう。
「最後の警告です。剣を置きなさい」
アタシが今やるべきは、何もせずじっとしていること。下手に動くと注目されちゃうもんね。ほんとはカイロウの様子を探りたいけど、それすら攻撃のきっかけになりそう。
息を止めたまま様子を伺う。コーディに変化は無い。戦う気が無いっていうのは本当みたい!?
「まったなぁ。だから戦いたくないんだってば」
二人の距離は5m。間合いを詰める為、ディオンはコーディにジワジワ近づいていく。とりあえずアタシからは意識が外れたみたい。
「しょうがねぇなぁ。判った、判ったよ」
かがみ込むようにして、コーディが剣を地面に置くふりをする。
「だから、逃げるっ!」
ディオンに背中を見せて一目散に逃げ出した。もちろん手には剣を持ったままだ。ちょっと。間合いの外だからってそれはマズいっしょ。
コーディのとった作戦。脚力を生かして地面を蹴りつけながら走る。それで発生する土煙で目くらましをすることだった。やっぱバカぁ? ディオンにそんなの通じるわけねー。
「逃がしません!」
ディオンがその場から動かずに剣を振るう。
ヒュン。ギュババババガガガザザザザ…。
剣の軌跡がそのまま伸びていって土煙が割れた。
「うっっそおぉぉーーんん」
避けれないと察したのか、コーディは左腕でそれを受け止める。むき出しの筋肉がスパッと切れて血がにじみ出てきた。
あれが噂の剣技かぁ。聞いたことはあったけど、見るのは初めて。さっき無理に行かなくて正解だよ。アタシがあれ食らったらサヨナラできる。
「てめぇっ。よくもやってくれたなっ。こうなったら…」
コーディが初めて感情を見せた気がした。そのコーディの姿が霞む。さらに全身から血が噴き出した。いつの間にかディオンがコーディの前に立っていた。姿が霞んで見えたのはディオンの体がコーディの前を高速で動いていたからだと後から理解する。今のも剣技だと思うけど、何が起きたかは見えなかった。ディオンつぇぇ。これで勝負は決まったね。
さぁて、何かでディオンの気を引いて。そいでその隙に剣を手に入れて、ソッコー逃げる。なんて上手くいかないかなぁ。ともかく音を立てないようジワリと前進する。
その時、誰かに背中を引っ張られた。状況的にカイロウだと思う。二人の戦いに見入っていたアタシはそれを防ぐことが出来ない。
その直後だった。周囲が閃光に包まれて何も見えなくなった。全身に強い圧力を受けて体が宙を舞う。熱いと思ったのはその後だ。あれ? 熱いと思う時間があったのかなぁ。とりあえずそこから先の記憶は無い。
「おっ、目が覚めたか。良かった。もうダメだと思ってたぜ。けど意識が戻ったんなら、まぁ、なんとかなるかもな」
この声、聞き覚えがある。そか、アタシ、カイロウに助けられたんだ。
「……」
声が出ない。体がだるい。目もあかない。アタマもボーッとしてる。
「ムリすんじゃねぇって。安心していいぜ。しばらくは面倒見てやるからさ」
睡魔が襲ってきた。意識が遠のいていく。不思議と不安は無かった。とりあえず生き残った。それは判った。
CRITICAL DAMAGE & RETIRE
キャラクターデーター
盗賊。ディス
体力6/技術 9/知力 7/運 9
盗賊ギルド所属の凄腕で、周りからも一目置かれている。
さらに盗賊としての特殊技術を所持する。使用に当たってペナルティーは無い。宣言することで発揮し、結果についてはマスターに一任する。
一.一つの動作(手業)を常人には関知できないスピードで行うことが出来る。
二.何か別の物に注意を逸らせ、一瞬の内に隠れ忍ぶ。常人には捉えることが出来ない。
今回はギルドからの要請で、王国より盗まれた聖剣を取り返す依頼を受けた。
聖剣は密輸で隣国に行くことになっており、その護衛の仕事を受けることが出来ている。
密輸ルート上に水の牙と言う山賊がいて、それに対する指示を出せる。