1-1 依頼
「久しぶりだね。ここに来るのは二年ぶりくらいになるか」
「そのくらいかな。最近は名指しの依頼も増えて意外と忙しいのよ」
「僕のところにもちらほらと君の名前が聞こえてきているぞ。売れっ子冒険者というやつだ」
「私の場合、フリーで行動することが多いから、傭兵の方が言葉としては会っているでしょうけど」
「では、一緒にいた彼らはどうなんだい。冒険者としてパーティを組んでいるんだろう」
「今はそうね。一人はかけ出しだし、もう一人はちょっと頼りない。後輩育成的な感じ」
「なるほど。実は仕事を頼もうと思っていたのだが、彼らがいるとまずいかな」
「ちょっと難しい依頼って思えばいいの?」
「そう。君にしか頼めないような。ちょいと、難しい依頼なんだ」
彼の名前はアンキー・テルドット。この辺りでは名の知られた商人。長いつきあいがあり、名指しの依頼をいくつもこなしてきた。
この国。サウザランドで商人をやっていて、さらにのし上がろうとするならば、貴族とつきあって行く必要がある。それに伴い政治的な絡みも増えてくる。そうなると善悪付きかねる裏事情のある仕事もする必要があった。
彼の言う「ちょいと難しい」とはそういう面を言うのだろう。
「付け加えると、今回は人数がある程度必要な依頼なんだ。こちらでも何人かピックアップしているんだが、それに参加して貰えないかと思ってね」
「人数? 数が増えると統制がとりにくくなるわよ。余り褒められた方法じゃ無いと思うけど。特に冒険者同士は競い合う部分もあるし。予定では何人になりそうなのかしら」
「なんとかかき集めて六人。それに君たち三人を加えて九人になるね」
「かき集めた、ね。素性の判らない人もいるって事でしょ。やりにくいわね」
「だから、君にリーダーをお願いしたいんだ。君なら安心して任せられる。頼むよ。もちろん報酬ははずむ」
「そこまで言うとなると。断るわけにも行かないか。で、具体的には何をやることになるわけ?」
彼とは長いつきあいだ。この仕事をどうにか終わらせたいという強い気持ちは伝わってくる。
どこの誰かは判らないが、力のある貴族からの依頼なんだろう。そして、そう言った裏事情は聞かない方がいい。もしもの時には知らないで通すことが出来る。
もちろん断ることも出来た。しかしここで断ったとして、その後彼が大変なことになってしまったら目覚めが悪くなってしまう。
「荷物運びだよ。馬車と馬はこちらで用意する」
「荷物運びって、あれをやるの? やっぱり少数の方が良くない?」
「重さと大きさが結構あるんだ。馬車で無いと難しい。その他、諸々考えて人数が必要とふんだ」
事情のある荷物運びと聞いて、やるべき事はすぐに判った。隣国ヴィセアへの密輸だ。この街から東にある山脈を越えて隣の国へ行く。
ちなみにヴィセアとは数年来休戦中となっていて基本的にはまっすぐ行くルートは無い。が、世の中どんなことにも裏口が会って、彼はそのルートの一つを持っている商人でもあった。
こういうことは目立たないようにやることが大事だ。だから少人数で素早くやるのは当然。過去に一度だけ私もやったことがある。道は険しく場所によっては人がやっと通れるところもある。馬車を通すことは難しい。
「馬車と言っても小型やつを特別にあつらえた。簡単とは言わないが、人数がいればどうにかなると思う」
「面倒な仕事ね」
「頼むよ。頼れるのはディオンしかいない。それは本当にそう思っている」
「仕方ないわね。報酬はたっぷりもらうわよ」