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イヤーエイカーズ・セル  作者: 柿ノ木コジロー
第一章・詩音、足を踏み入れる
3/92

01

『お名前』に溝呂木詩音、

『フリガナ』にミゾロギシオン、

と入力してからいくつか質問に答えた私は、最後の質問に手を止めた。



『あなたが一番大切なものは何ですか?

 または

 あなたが一番、大切な人は誰ですか?』



 明るい画面の中に、質問の文字列が並んでいる。

 その下には答えを待つ四角い枠。

 ごていねいに右脇に『(全角40文字まで)』とある。


 私が見ているのは、『イヤーエイカーズ・セルクラブ』のサイト。

 入会費無料、信じられないような特典がいっぱいの、夢のような会員クラブのサイト入口に、ようやく立っているところだった。

 やっているのは仮登録。入力内容自体は、住所に氏名、生年月日……とても簡単だ。


 仮会員登録のおしまいの方でこの質問をみつけ、何度もなんども、その文字列を読み返す。


 どうして会員登録しているかって?


 きっかけはささいなこと……

 あの日、雨の映画館前でみたあの一連の出来事だった。


 長蛇の列、そこに突然割りこんできた人がいた。私のすぐ目の前で。

 金髪の女だった。そして彼女が出したカードを見て、最初はしかめつらをしていた係員が急に態度を翻して、彼女にかけたことば。


「セル会員の方ですね……すみませんでした。どうぞ中に」


 それだけだったら、ふうん、セル会員、なんだろう? だけで済んだはずだ。

 しかし


 館内に吸い込まれる金髪女と一瞬目が合った。


 どうしても忘れられない。

 目の中に垣間見えた……あれは恐怖? 憎悪?

 いや、それだけだったら不快感しか覚えなかったはずだ。

 私の表面的な感覚を一瞬突き抜けて心の奥底を震わせたほどの激しい……悦び。


 それから、そあら先輩のこと。

 一度しか会っていなかったのに、あまりにも強烈な会話だった。

 そして……私に触れたあの時の目。

 あの黒く縁撮りされたような喜悦感、映画館で見た女とそっくりな目つきを私は忘れられなかった、どうしても。

 耳たぶに触れた、指先の熱い鋭さとともに。


 イヤーエイクの、セルの秘密を、知りたい。

 

 質問の答えを指先のキー上に探りながら、私はまず、映画館での一幕から順に思い返す。

 じっくりと、釜の中で毒が煮えていくような丁寧さと慎重さとをもって。

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