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計劃

「村川君、ちょっと出て行ってもらえるかな。合田、話がある」

部屋に入ってくるなり担任は低い声で言った。無精ひげがどこか疲れを感じさせた。村川は助けられたのか、のけられたのかわからないまま部屋から飛び出した。部屋から出ても心臓の鼓動が収まらなかった。部屋から出てから、もしかしたらと思い、部屋に聞き耳を立てることにした。周囲の事など気にしてはいられなかった。

「酒なんて大人になれば、付き合いでもなんでも飲めるようになるんだよ!」

担任の抑えきれない怒りの声が聞こえた。

「タバコなんて、勝手に吸えばいいんだよ!ただし大人になったらな!」

周りの部屋が静かになったように感じた。その間、かすれたさざ波の音と風の音が互いに打ち消しあっていた。村川はがっかりして部屋に戻った。村川の足取りは重く、疲れて切っていた。部屋に戻ると、皆がひそひそと話をしていた。やはり声は隣まで聞こえたのだろう。一つのベッドに皆は集まっている。佐久間だけは一人本を読んでいた。村川は思い切って、輪に加わった。案外、皆は自然に受け入れてくれる。

「本当なのか?合田とか中村が酒飲んだって話」

「ああ、らしい。やばいよ。どうするんだよ」

「さっき班長が呼ばれてたから、多分明日には集会があるよ」

「明日の自由行動どうなるんだろうな、困るわ……まじで」

聞いていても愚痴ばかりで情報は得られそうもなかったので村川は静かにベッドに寝そべる。どうすればいいんだ……もう手は尽きてしまった……明日何も起こることを祈るしかないのだろうか……。村川は何をするでもなく、ぼんやりと皆を見た。円になってみんなで話をしている。村川はそれをどこかで見たことがある気がした。あれは……なんだったっけなぁ……。村川は現実逃避を始めた。そうだ……あれは「サマーウォーズ」だ。懐かしいなぁ……。いや……まてよ……俺の本当に思い出したいのは……。村川の脳裏にヒーロのような生物の肩に乗り、怪物を倒そうとネット駆け巡る少年の姿が思い出されていく。懐かしい夏の記憶。今と同じでじめじめと暑い、でもすがすがしい夏の記憶が。思い出に浸っている村川の脳天にある一つの考えが突如として現れた。皆で力を合わせる……。村川は勢いよく、ベッドから飛び上がった。そうだ……今、俺に残された方法はそれしかない……。村川はベッドから降りると、佐久間に声をかけることにした。自分でも驚くほどすぐに行動が出来た。

「なぁ佐久間、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

絶望的な状況の中、なぜか村川の顔は無垢な少年のようにすがすがしい笑みで包まれていた。


 薄暗い部屋の中、冴えない男の顔が一人、二人……いや四人。

「状況はわかったよ。本当かどうかは別としてね」

比較的明るいバトミントン部のぼっち、小林が村川に言った。明らかに疑の念が、言葉からにじんでいた。

「本当かどうかはわからんが、面白いな。リア充連中にはいいお灸になりそうだしな」

いつもは暗い表情の川上が微笑んで言った。佐久間はぽかんと村川を見ている。

「頼む。俺を助けてくれ」

村川は精一杯頭を下げた。頭を上げると、全員が暖かい目で村川を見ていた。

「仕方ない、頭は貸すよ」

小林が微笑んだ。

「いいぜ。やってやろう。どうせガバメントなんてサルに扱える品物じゃないしな」

川上がほくそ笑んだ。

「頼めるか、佐久間」

村川はぽかんとしている佐久間を見た。佐久間はびくりと体を震わせ、

「村上くん、いい助っ人がいるよ」

佐久間は村川の肩を静かに叩いた。


 佐久間から紹介された桐谷と言う男は、まるで狼のような男だった。

「お前が本当とも嘘ともつかない銃の話をした奴か」

血に飢えた瞳が村川を睨みつける。高校生にしては音付きすぎた声のトーンだった。桐谷は他のよりは屈強だが、はたしてスポ根の上級階層に勝てるのか自信のわかない体つきをしていた。

「ああ、俺だよ。だが、この件が吉沢とかかわっている保証なんてひとつもない」

村川は強く言い放った。村川は佐久間から吉沢と桐谷の事は聞いていた。

「保証はないだと、笑わせてくれる……」

脇から川上が入ってきて、

「俺たちが海に入ったのはクラス的に最後だぜ。すると銃を拾えるのは俺たちのクラスだけになる」

村川のクラスは六組ある中で六組目のクラスで、海に入るのは最後だったのだ。

「確かに……」

村川と小林は声を合わせて驚いた。村川は呟くように、

「男子に容疑者がいないとすると……」

「疑わしいのは、女子ということになる」

桐谷が微笑んで言った。

「あっ……性行為騒動ってことは」

佐久間が驚いて声を上げた。

「そう。今、一番殺したい奴がいるのは吉沢だ」

川上が得意げに言った。

「しかし、これから女子の部屋で持ち物検査ってわけにもいかないでしょ」

小林が笑いながら言った。皆が一瞬凍ったように静まり返る。

「終わった……」

村川は嘲るように呟いた。

「バカ野郎。まだ始まっちゃいねぇよ」

川上がいたずらっぽくウインクした。

「何か方法があるのか?」

食いついたのは桐谷だ。抑えてはいるが、桐谷ははっきりと興奮していた。それは、追いかけていた獲物に喰らいつけるとわかった肉食獣を連想させた。

「方法って犯行現場を抑えるしかなくないか?」

小林がまさかと言うように川上を見た。

川上は自分の無力さを悔しがるように、

「俺もそれしか思いつかない……」

皆が再び、黙ってしまった。

「いいじゃないか。俺たちで犯行現場を抑えればいい。それだけさ」

桐谷が凶暴な笑みを浮かべる。村川は皆の顔を見渡した。

「頼めるか?」

村川の声が静かに部屋に響いた。遠くで海の音が小さく聞こえる。

「やるよ」

「訊くなよ」

「仕方ない。やるしかないだろ」

もうお前を一人で戦わせたりはしない、か。村川は静かに思い出と決着をつけた。村川は溢れ出す涙を止めようと必死になりながら、

「ありがとう。皆、ありがとう」

心の底から感謝の意を述べた。

「それじゃあ、どうするかだな」

川上が紙とペンを取り出しながら言った。

「犯行現場を写真で撮ればいいのでは?」

小林が尋ねると、

「だめだ、動画で行こう」

桐谷が鋭く言い放った。

佐久間が皆雰囲気に流されず、

「なんか食べるものある?」

「お茶なら、部屋にあったやつが」

村川は率先してお茶を淹れはじめた。香ばしい臭いが部屋に漂い始める。気が付くと静かに心地よい風が部屋に流れ込んでいるのがわかった。

佐久間が笑って、

「ちんすこう食べちゃおうかな」

躊躇する口調で、手は包み紙を破いている。

「あっ……そんな俺のを」

村川が慌てて駆け寄ると佐久間は、

「君の奨学金の書類を少し見たことがある」

それを聞いて、村川は黙り込んでしまった。佐久間はお構いなしに大きく微笑むと、

「ちんすこうはお母さんへのお土産だろう」

「ありがとう」

村川はまた涙ぐんだ。

「なんか強盗の作戦でも考えてるみたいだな……」

お茶を啜りながら、小林が言った。

「スパイ大作戦ってか……?」

川上は得意げに言って、お茶を啜ろうとして熱さに顔をしかめた。

「尾行しよう」

桐谷がちんすこうをほおばりながら言った。香ばしいお茶の香りが部屋に立ち込めていた。

「しかし、人数が足りない……」

村川は熱いお茶にため息をついた。

「どうにかして人数を絞れないか」

小林が川上に尋ねる。川上がちんすこうを飲み込んで、

「いい方法がある。それよりちんすこうはのどが渇くなぁ」

川上はいたずらっぽく微笑んだ。村川は素早く川上のお茶を淹れた。

「それで、方法とは?」

桐谷が妙に食いついて言った。

「ラインに……そうだな……最近、何か修学旅行生が何か起こしたって書くとか」

小林は川上に、

「どういうことだそれ?」

「つまりさ」

川上は得意げに、

「容疑者がうかつに不審な動きが出来ないようにだますんだよ。ラインを利用してね」

川上はそこでお茶を啜り、

「まず、ラインにそうだな……そうだ、万引きが最近修学旅行生によって起こったせいで地元の人が警戒しているとか書くんだ」

桐谷が目を細めて、

「それで?」

川上がにやりと笑い、

「そうすれば容疑者は人の多いところは警戒されていると踏んで、そこでは怪しい動きが出来なくなる」

小林は勢いよく食いつき、

「しかし、どうやってそんなデマを……」

「俺たち全員で、一斉にその発言をする。そうすれば出所なんてわからなくなるというわけさ」

インターネット社会の痛いところだね、と川上は笑った。

「じゃあ今すぐしよう!」

佐久間がスマホを取り出して言った。

「やるか」

少しの間、皆は黙りこくって自分のスマホをいじっていた」

「川上、終わりました!」

川上が笑って言った。

「小林、終わりました!」

「桐谷も同じく!」

「佐久間、終わりました!」

登録してある全員に送り終わった村川は顔を上げ、微笑んで、

「村川も終わりました!」

「おっ……さっそくデマが飛び交い始めてるぞ」

川上が嬉しそうに言った。桐谷は苦笑いして、

「みんな暇なんだなぁ」

小林は驚愕の声を上げた。

「すごい……」

佐久間と村川はただただ驚くばかりだった。クラスのラインに一気にデマが広がり、ついには変異まで始めた。変異とは言うところのうわさ話に尾や尾びれが付くことらしい。



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