表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

1−1 <双子の魔法使い>

 

「わああああーーーーーっっっ!!」

 少年は、自分の声で目が覚めた。

「大丈夫ぅ?エルゥ」

 とのぞき込んでくる顔は、エルロンディアのものだ。しかしいくらか幼い。額にあった

神紋も、形を変えて頬にある。赤い花の刺青のように見えた。 

「・・・ああ、大丈夫だ。気分は最悪だけどな」

 起き上がり憎々しげに言った彼も、少年のエルロンディアだった。

 同じ顔、同じ姿のエルロンディアが二人いるのである。


 地上界に降ろされた時、エルロンディアは二人に分けられたのだ。

 一人をエルゥ、もう一人をロンドという、双子の少年となった。


 そこは森の中、一本の大木の根元に彼らはいた。

 一昨日の朝早くにそれまで居た村を出て、そこから近い町を目指して歩いていたが、い

かんせんへんぴな村だったので町までは遠く、日が暮れると手頃な場所で野宿をしている

のだ。

  彼らはほぼ徒歩で旅をしながら、境界の歪みを探しては修復し、なおかつ自分達―――――

つまりエルロンディア神を―――――信仰している人間を探し続けていた。

「またあの夢見たの?」

 ロンドが聞いてきた。

「ああ。ったく、オヤジのヤロー、オレをこんな姿にしやがって・・・!!」

 エルゥは地上に降りるきっかけとなったことを時々夢に見ては、怒り出す。よくまあ毎

回同じことで怒れるなあ、とロンドは思っていた。

「まあまあ、今更そんなこと言ったってしょうがないじゃない」

 なだめるようにロンドが言うが、エルゥはキッとロンドをにらみつけた。

「おまえはムカつかないのか!?地上に来てもう何年だと思う!?」

「えーっと、5年くらいかなあ?」

「違う!!5年2ヶ月だ!!」

「そういうことは忘れないんだね・・・」

「うるさい!!」

 ロンドのつぶやきを鋭く一喝して、エルゥは怒りを吐き出す。

「とにかく、もう5年にもなるのに境界の歪みはなくならないし、オレ達を信仰してる人

間も見つからない!まだ世界の半分も回ってない!」

「あはは、前の村では一ヶ月も滞在しちゃったからねえ」

 エルゥの怒りもどこ吹く風、ロンドののらりくらりとした答え方がさらにエルゥをいら

立たせた。

「オレ達はのんびりしてるヒマはないんだぞ!?」

「でもさ、村人達に慕われてエルゥも悪い気しなかったでしょ?」

「う」

 それはくやしいことに、その通りだった。

 元は神であるエルゥとロンドの本質は、人間に慕われることを無上の喜びに感じる。し

かしエルゥはビシッとロンドを指差し、反撃した。

「オレ達の仕事がはかどらないのは、おまえが一つの所にいたがるせいだ!」

「だってさー、もっといろんなものを見たいんだもん」

 にこにこと観光気分のロンドの顔を、エルゥは見た。そして、ロンドの耳元で

「どうしておまえはそんなにのんきなんだああーーーーーーーっっっ!!!」

 と、力いっぱい怒鳴った。

 ロンドの頭の中が一瞬声でいっぱいになる。

「そんなに大声出さないでよ、エルゥ・・・!!もう・・・。慣れればこの世界も楽しい

と思うんだけどな」

 耳を押さえてへろへろになりながらロンドが言った。

 エルゥは大声を出して少し落ち着いたのか、大きくため息をついた。

「オレはこんな世界ちっとも楽しくない。人間はわがままだわ食い物はマズイわ、住み家

は汚いわ。人間なんか大っ嫌いだ!早くこんなとこオサラバしたいよ」

「じゃあ、早く境界の歪みを直さないとね」

 ロンドはもうにこにこと笑っている。

 エルゥはもう一度ため息をついた。

 二人とも同じ立場のはずなのに、温度差がありすぎる。エルゥにはロンドの考えがまる

で解らなかった。

「・・・おまえ、本当にオレの分身か?」

 疑いたくなるのも無理はない。

 元は同じ存在、エルロンディアなのである。一つのものから分かれたなら二人同じであ

るはずなのに、同じなのは姿だけで、性格は全然違っていた。

「あはは、攻撃性がキミの方に片寄っちゃったんだねえ」

 ロンドの言う通りで、エルゥは気性が激しく短気だが、ロンドはいつもニコニコ、おだ

やかで陽気だった。

 とりあえず、これ以上言い争っても無駄だと悟ったので、エルゥは気持ちを切り替える

ことにした。

 空を仰ぐと、木々のすき間から太陽が見える。天気はいい。もう日はだいぶ高く昇って

いるようだった。

 お腹も減るはずだ、とエルゥは思った。何もこんな生理現象まで人間に忠実にしなくて

もいいのに、とまた父に対して怒りが込み上げてきそうだったので、父のことは考えない

ようにする。

「ロンド、メシにしようぜ」

「ないよ」

「・・・は?」

 あまりにそっけないロンドの返答に、エルゥは思わず聞き返した。

「だから、ないって言ったの!」

 ロンドは改めてエルゥに向き直り、さっきよりも大きめに、はっきりともう一度言う。

「な、なんでだよ!?前の村で足りるように買っただろ!?」

「そうだけど、エルゥが配分も考えないで食べるから、もうないの!昨日はぼくのを分け

て食べたんだよ!」

 常に笑顔のロンドが、珍しくすねたように口をとがらせている。が、本気で怒っている

のではなく、いたずらっ子をたしなめるような感じだった。

 エルゥは決まり悪そうに上目遣いでロンドを見た。

「そ、そうだったのか」

「そうだったんだよ」

 エルゥはがっくりと肩を落とした。

「メシも食わずに歩くのか・・・」

 口に出して言うとよけいむなしくなって、なんだか泣きたくなった。そして、こんなふ

うに野宿に慣れてしまった自分もなんだか悲しかった。

「元気出して!がんばって歩けば、夕方までには次の町に着くよ!」

 ロンドのこの根拠のない元気はどこから来るのか。

 エルゥは全くはげまされなかったが、もう食事にありつけないと分かった以上、ここに

いても仕方がない。早々に発たなければ、夕食も食べられないかもしれない。

「しょーがねえ。行くか」

「うん、そうだね」

 エルゥはしぶしぶ立ち上がり、枕代わりにしていた肩掛けカバンを手にした。ロンドも

同じようにカバンを肩に掛ける。

「杖も忘れないでよぉ」

「わあってるよ」

 二人はそれぞれ、側に置いてあった自分達の背丈ほどもある、長い銀の棒を持った。

 この杖は不思議な杖で、一見何の装飾もないただの棒に見えるが、エルゥとロンド以外

の者が杖を持とうと思っても、重すぎて持ち上げることができないという代物だった。

 実はこの杖にエルロンディアの神としての力の大部分が封じてあり、杖なしでは力を使

えない。神界の父神ルーとも繋がっているので、決して手放すなときつく言われていた。

 二人はその力ゆえに地上では『魔法使い』で通しており、この杖というアイテムは説得

力があった。魔法使いなので人間の前で少々力を行使しても怪しまれない。あまりに若い

ということで怪しまれてはいるが。

「忘れ物はない?」

 ロンドが自分達がいた場所を振り返って聞いた。

「ないよ。もともとそんなに持ち物ないだろ」

 エルゥが呆れたように答える。

 同じようないでたちの二人が並ぶと、全く見分けがつかなかった。

 顔は言うまでもなく同じだ。同じカバンを持ち、同じ銀色の杖を手にしている。服装も

ほとんど同じで、多少色やデザインは違うものの、丈の短い上着に、ひざ下まである中着、

だぶだぶのズボンといった具合だ。

 見分けとしては、上着の色が青いのがエルゥ、紫のがロンド。もしくは、腰までの黒髪

をそのままたらしているのがエルゥ、三つ編みにして束ねているのがロンド。さらには顔

にある神紋が向かって右頬にあるのがエルゥ、左にあるのがロンドといったところだ。

「よーし、じゃあ出発〜!」

 無駄に明るいロンドの掛け声を合図に、二人は町へ向けて出立するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ