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【卯月造謙】しとしとと

前年度は「暇人」を名乗っておりました卯月です。

今回はふと浮かんだ「雨」のテーマで書いてみました。


空虚な人間は哀しく思えます。

 ポツリと僕の鼻に当たって弾けた。

 毎日なんの代わり映えもしない下校中のことだった。

 見上げれば曇天。

 雨が降り始めたのか、という単純な事実を理解するのに数秒もかかってしまった。

 僕の心はずっと前から擦り切れて、残っているのは「心」と呼ばれていたただの器だけ。

 引っ込み思案で口数も少なく、本気で抵抗するということを知らなかった僕は根暗な奴だと誰からも言われ続けている。どのぐらい前から言われていたかなんていちいち覚えちゃいない。

 だからずっと虐められて、いつからか何も感じなくなった。

 最初は嫌だと言っていたらしい。やめてと抵抗のような態度を示していたらしい。

 それでも僕の周りの人間で、救いの手を差し伸べてくれる人は誰もいなかった。

 僕の両親は一般的に言う「クズ」らしい。

 母親にとって僕は何人目かの夫との子どもらしく、産んだくせに僕にほとんど興味を示さなかったようだ。

 ま、今となってはどうでもいいことだけれど。


 嫌なことを自分の内にため込む必要はない。

 すべて記憶と共に洗い流してしまえば、苦しむことなんて欠片もなくなる。

 例えるならトイレの水を流すように。

 例えるなら降り始めた雨のように。


 雲から降り、大地に消えていくその流れが僕にはうらやましい。

 同じようにありたいんだ。

 何も考えず、ただ流れに身を任せて生きていれればいい。

 幸福の追求?

 ねぇ、幸福ってどういうものなの? 教えてよ。

 誕生を祝福されず、生きている事実を観測してもらえずにただ存在しているだけの僕は何なの?


 雨は羨ましくて好きだけど、同時に僕がどういう存在なのかを再認識させるから嫌いだ。

 好きだけど嫌い。

 矛盾した感情だけど、否定はできない。

 誰にも認められず、ただそこに在って邪険にされる。

 まるで雨みたいだ。


 僕は雨だ。


 しとしとと降り注ぐ。

 決して激しくは降らず、唐突に現れては消える。


 傘が広がる。


 あれ


 "雨が降っている"と、認識されているのだろうか?


 それは


 僕がここにいる証?

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