転売ヤーに罰を、アイドルには祝福を
アイドルオタクの三人が、推しを守る為に動き出す
「由々しき事態だ。」
マクドナルドの一卓を囲む我々三人。
本日は非常に重い議題について話さなければならない。
「やっぱりあの件ですか、キリオさん。」
神妙な顔で俺の顔を見て来る【ぽよるん】。
「まじで許せないっす。」
ポテトを頬張りながらスマホを素早く操作する【羅刹】。
「そうだ。本日はオフ会ではなく、作戦会議をしたい。」
俺は卓の中央にスマホを置き、とあるフリマサイトを表示する。
「諸君らも知っての通り、最近リコぴんの限定グッズ、その他プライベート写真等の転売が横行している。」
リコぴんとは所謂地下アイドルグループ、『めりぃGOらんど!』のメンバーである。
略してメリゴ。グループ自体は人気、とは言えないしファンの数もまだ少ない。
リコぴんは18歳、担当カラーは極彩色。
グループのリーダーでもセンターでもないが、清楚で頑張る姿に我々は常に心を打ち抜かれているのだ。
グッズの転売は前から少しあったが、ここ最近は酷い。
限定グッズに加えて明らかにプライベートを撮った写真、口紅の付いたハンカチ、練習着のジャージ、衣装などファン個人では手に入らないような物がフリマサイトに並べられているのだ。しかも一つのアカウントから。
出品者の名前は【GOGO】。
情報が書いてないのでどんな人物なのかは分からないが、我々はGOGOを敵と見なしどうにか本人を見つけるつもりだ。
「多分、メリゴの関係者だと思います。」
ぽよるんが呟く。
「どうしてそう思う?」と俺が聞くと、ぽよるんは鋭い眼光で応えた。
「僕、営業職なんですけど、仕事柄人の顔を覚えるのが得意なんです。メリゴはまだその、ファンの数が少ないので覚えやすいし、転売なんてしたら誰かすぐに分かりそうかな、なんて。」
それに…とぽよるんは更に続ける。
「僕、何回かファンレターで転売の事書いたんですけど何の反応もありませんでした。
関係者が手紙を先にチェックしてリコぴんに知られないようにしてるのかも。」
澱みなく意見を言うぽよるんに羅刹が衝撃的な一言。
「彼氏の可能性…とか…ないっすかね。」
「…」
「…」
触れたくなかった。メリゴは恋愛禁止とはいえ、やはりそこは避けて通れない話題だ。
「羅刹君の言いたい事は分かる。だが、リコぴんの眼はいつも真っ直ぐで純粋だ。メリゴに対する気持ちも、ファンの気持ちも大事にするリコぴんに彼氏はいない、と思う。」
言い終えて、これは俺の願望だなと思う。
「…そうっすよね、すんません変な事言って。オレもリコぴんの事信じるっす。」
我々は頷いた。
「ではこれから GOGOが出品した時間のパターン、リコぴんのスケジュール、怪しい人物のピックアップ等を始める。」
よし行くぞ、“どんな時でも平常心!”
と、我々の合言葉、メリゴのファーストリリース曲のタイトル名を三人でコールし、早速調査を開始した。
「…決まりだな。」
「確定ですね。」
「マジっすか…のぶ姐さん…」
様々な情報を分析し、我々が辿り着いた GOGOの正体は、メリゴのマネージャーのぶ姐こと信子さんだった。
30代の明るい姐御肌で、メリゴを叱咤激励しながら見守り、ライブ前後に我々ファンにも気軽に声を掛けてくれる信頼できるマネージャーだ。
残念過ぎる、何故彼女が。
我々は次のライブ後、のぶ姐にメモを渡した。
『リコぴんの転売の事は全て知っている。』
のぶ姐は俺の顔を見た。その表情、クロだ。
のぶ姐はちょっと待っててと言い残し、少し経った後話す場としてライブハウス近くのメリゴ御用達カフェを指定して来た。
遂に勝負の時だ。どんな時でも平常心。
「この度はご迷惑をお掛けしまして、大変申し訳ありませんでした。」
店主が気を利かせてメリゴの曲を流してくれているカフェで待機していた我々の前にのぶ姐は現れた。いや、のぶ姐の後ろにも誰かが隠れるように…。
「ほら!あんたがやった事なんだからちゃんと謝罪しなさい!」
のぶ姐に促されて出て来たのは…リコぴん?
「ご、ご…ごめんなさぁい〜!」
え?
「問い詰めたらこの娘がフリマサイトで売り捌いてたらしいの、全く何て事して…」
は?
我々は石のように固まった。
「だってぇ!赤ちゃん出来たからぁ、彼氏が結婚しようって言うからぁ!お金必要だったんだもん!」
「彼…氏…?」
「妊…娠…?」
「つまり…脱…退…」
スローモーションで膝から崩れ行く我々の頭上から『どんな時でも平常心♬』と、メリゴの清らかな歌声がいつまでも鳴り響いていた。
〈終〉