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あじさいの咲く庭で《BL》  作者: 茶野森かのこ


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あじさいの咲く庭で19



「さては、俺の実力を信じていないな?ほら、これだけ簡単に人間に化けられるんだぞ」


そうして変化したその姿は、見知ったトガクの姿よりも歳を取っているのに、もう正幸の目にはトガクにしかない映らないのが不思議だ。

人間である正幸には、人間への変化がどれ程大変なものなのか想像もつかないけれど、二十年もの時をかけて、自分との約束を守ってくれた。

それを思えば、トガクの何を疑っていたのだろう、トガクはこんなにも自分を思ってくれていたのに。

そう思ったら堪らなくなって、正幸は手で顔を覆った。


「正幸?悪い、大丈夫か?」


そんな正幸に、トガクは不安そうな顔を向ける。そんな心配そうな声に、正幸は顔を隠した手をどけて、「違うんだ」と、トガクを見上げた。


「好きだなって、幸せだなって思って」


手をどけてみれば、正幸は幸せをふわふわと撒き散らして微笑んでいて。トガクは目をぱちくりとして、それから勢いよく正幸に覆い被さった。


「うわっ、え、え?」

「頼むからさ、」


額同士がくっついて、その距離の近さを改めて認識すると、正幸はかっと顔を熱くして、今度は正幸が目をぱちくりする番だった。トガクは、正幸の体に負担を掛けない為か、ベッドヘッドに手をついている。頬が熱くて、突然、心臓が騒ぎ始めたが、それでも、その腕で抱きしめてくれたら良いのにと思ってしまう。正幸がそんな葛藤を繰り広げていれば、トガクは大きく溜め息を吐いたので、正幸は思わず肩を強ばらせた。


「早く、体調治してくれ」


もしかしたら、何か気に障る事を言ってしまっただろうか、してしまっただろうか。そんな不安の中で聞こえた言葉に、正幸はさっと顔を青ざめさせた。

自分の事ばかり考えて、トガクの気持ちをちゃんと考えてなかった。正幸は、焦りに瞳を揺らし、トガクの服をきゅっと掴んだ。


「ご、ごめんね、そうだよね、せっかく会いに来てくれたのに看病させて、」

「そうじゃなくてだな…手が出せないだろ、これじゃ」

「…え?」


正幸は、思いもしない言葉に、きょとんとして視線を上げた。トガクは額を離してそっぽを向いているが、その頬が赤く染まっている。


「…だ、出してくれるの?」

「だ、!」


思いもよらない言葉につられてか、正幸はついそんな言葉を溢していた。


だって、まさか、こんな自分に?あの頃と違って、もう若くもないのに?


期待と希望、それに加えて熱もあるせいか、それとも泣いたりしたせいか、正幸の瞳は潤んで魅惑的にトガクを見つめている。トガクは堪らず正幸の顔に布団を勢いよく掛けた。


「びょ、病人はさっさと寝ろ!」

「い、嫌だよ!せっかく会えたんだ!こまりちゃん達だって、」


そこで、はたと気づき、正幸はもぞもぞと抵抗を試みて、布団から顔を出した。


「そういえば、どうして店が忙しいって知ってるの?外から見たくらいじゃ、中の様子は分からないでしょ」

「あー。あれは、俺のせいだから」

「え?」

「人に化けられる妖を集めて、店に客として行かせたんだよ。そうでもしないと、この家には誰かしらいるだろ。お前は、体調が良けりゃ、朝も夜も店や町にいるし。休みの日は、あの親子や近所の奴らがべったりだ。俺の変化の力が安定してるとはいえ、久しぶりの再会だし、さっきみたいに気が動転して、変化が解けるとも限らないしさ。そうでなくても、なるべく再会は二人きりが良かったんだ。…深夜は、色々と気になるしさ」


そう言って、トガクはちらりとベッドに目を向ける。その視線の意味が分かって、正幸はまた赤くなって布団を口元まで引き寄せた。

そんな照れる正幸に、トガクはそっと笑みを向けた。


「まぁ、俺の第一関門は突破したんだ。これからは、いつだって会いに来れる。だから、ゆっくり休め。正幸が眠るまで、側にいるから」

「…じゃあ、目を覚ましたら、トガクさんは居ないんだね」


自分が思うより、寂しい声が出てしまった。それでも、それが本心なので、正幸はどうしようと不安そうに瞳を揺らせば、トガクは仕方なさそうに肩を竦めた。


「あの親子に見つかったら厄介だろ。今日のところは、だよ。言っただろ、会いに来るって。また明日、会いにくる。それに、まずは体調治せ。俺は結構我慢してるんだからな」

「はは、何だよそれ」


正幸が笑えば、トガクもどこか嬉しそうに笑った。


「それで、色々話そう。これまでのことも、これからのことも」


そう愛おしく頭を撫でられ、正幸は胸を熱くさせてそっと頷いた。


希望の先に未来がある、愛おしい彼と、まだ共に歩める未来があるなんて。


こんなにも幸せで、正幸は心の居場所を再確認する。


何もないと思っていた、鬱々と暗いばかりの箱の中から、嬉しいも楽しいも、それから、悲しみも恋しさも、トガクが全て教えてくれた。


その心が、ちゃんとここにある。このまま目を閉じても、夢のような日々が明日へと繋がっていく。


正幸は、久しぶりに心から安堵して、幸せな眠りについていった。




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