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あじさいの咲く庭で《BL》  作者: 茶野森かのこ


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あじさいの咲く庭で14




洋館の向こうに見えるその山の奥に、トガクの住処があると聞いた事があった。ある日、どうしても待つだけでは心許なくて、正幸は、こっそりトガクに会いに行こうとした事がある。トガクだって、こっそり来ているのだから、自分だってこっそりとなら、会いに行っても良いはずだと。けれど、トガクの住処を見つける事すら出来なかった。体力をつける為にちゃんと期間を設けてトレーニングをして、それから心して山へ向かったのだが、途中で体調不良を起こして倒れてしまった。意識を戻した時は病院のベッドの上で、正幸は、たまたま通りかかった登山者に助けられたらしい。


病院で目を覚ました時、両親と一緒に、一雄も心配して病室に駆けつけてくれていた。目を覚ました正幸を見て、一雄は本当に心から安堵を見せ、それから、頼むからと正幸に切に訴えた。


「頼むから、あの山には入らないでくれ。あの山の言い伝えは知っているだろ?あの山は人を惑わす、人ならざる者の住処だって、そいつらは、山の麓の人間を選んで襲うって。この辺の生まれなら、皆が知っている事だろ」


その話は、トガクと出会う前から聞かされていた言い伝えのようなものだ。子供だけで山に入ると危ないので、その注意喚起のようなものだと思っていたが、トガクと出会い、アサジの話を聞いてからは、過去に、見えない妖の存在に怯えた人々が残した話かもしれないと思うようになった。

もしかしたら、アサジを山の中へ、その向こうへと追いやった事、それを正当化させる為という思惑もあったのかもしれないし、純粋に、見えないものを恐れていたのかもしれない。

その話が生まれた理由は分からないが、何にせよ、正幸は一雄の願いに頷く訳にいかなかった。それで分かったとその話を受け入れてしまったら、トガクを悪者に仕立ててしまうような気がするからだ。だから正幸は、努めて明るく表情を作って、一雄を見上げた。


「でも、それは迷信でしょ?そもそも僕が甘かったんだ、体力がついたって過信しちゃってたから、」

「頼むよ、正幸。おじさん達、本当に心配してるんだ。俺だって、正幸が倒れるのは見たくないし、お前がまた変な目で見られるのは嫌だ」


そう、切に訴える一雄の声に、正幸は、どうしたって誤魔化せないと気づいてしまう。一雄が心配しているのは、正幸に再びおかしな噂がつきまとう事だ。噂話は、いつしか消えるけれど、一度記憶されたなら、それはきっかけがあれば呼び起こされてしまう。

正幸は、それでも構わないという心構えだったが、どんなに自分が望んでも、越えられない壁があるのだと、トガクと自分はどうしたって違うのだと再び思い知らされるようで、何も言い返す事が出来なかった。


一雄や両親が、自分を心配してくれているのは分かる。自分にまつわる噂について、心痛めてくれる事も知っている。そんな優しい人達を突き放して、再び山へ入る事は、正幸には出来なかった。


違うのだと引かれた線を、正幸はもう軽々しく飛び越せない。トガクのように、自分は自由に空を飛べない。こんな自分は、トガクに相応しくないのかもしれない。


だから、小さな希望に縋るしかなかった。確証もない口約束に夢を見る事しか、正幸は選び取る事が出来なかった。




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