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この世の隙間で百物語

死人の町

作者: 一飼 安美

 ……ああ、オレの番か。どいつもこいつもよく知っているものだ。大した話は知らないが、ここにいる以上一つや二つ披露するのが礼儀ってところだ。幽霊も妖怪も出てこないが、怪談話と思ってもらっても、たぶん大丈夫だろう。


 これは、死人の話だ。幽霊じゃねえ。血だらけの腐乱死体でもない。死人。死ぬってのがどういうことか知っていれば、この話ができる。人間、いきなり死ぬわけじゃない。突然ポックリ、ということもないわけじゃないんだが、そうじゃない場合がある。部分。腕や足がちぎれて生活しているヤツはいくらでもいるだろう。本人は生きているが、さすがにちぎれた腕や足は生きていない。そのレベルで知っていれば、わかるはずだ。


 事故に遭えばどこからちぎれるかなんて誰にもわからない。足だったり、腕だったり、はらわただったり。それでも死なずに助かり、日々楽しく生きてるってんなら文句はねえ。十分じゃねえか。だが一つだけ、ここを失うのはまずいという部分を失って、生きてるヤツもいる。ここだけはなくしてはいけない。脳みそだ。


 大脳辺縁系。感情、思考、その他諸々とにかく人間らしい部分はここにある。だが症例によっては、ここをピンポイントで失い、機能不全になったまま生きている場合がある。人間の人間たる部分が死に、残った部分は中脳、小脳、延髄、脊椎……トカゲでも持っているような場所。そうなれば人はトカゲと同じ、見てくれが人なだけで脳みそは動いていない。もちろんそんな自分の病状をトカゲが理解できるはずもない。それを理解できる人の部分は、とっくの昔に死んでいる。その病状に陥れば、人を見ても餌としか思わない。こいつの恐ろしいところは、襲ってくるとかそういうことじゃない。そんなのはたいしたことない、と言った方がいいか。恐ろしい点は二つ。後天的に発症すること。伝染すること。この二つだ。


 人間の世界に、一人だけでもトカゲ人間が混じるとする。この病状は伝染して、他の人間が発症し、トカゲ人間になる。あとはねずみ算、どこかの詐欺みたいにどんどん増えて周りを埋め尽くす。早期に手を打てばどうにかなる場合もあるが、とっくの昔に埋め尽くされたとなれば、もうどうしようもない。自分たちがトカゲになったことにも気がつかず、自分を人間だと思って一生を暮らし、他人を食う。そんなヤツで埋め尽くされた町を、いくつか知っている。


 それはどこかって?聞いても仕方ねえよ。危ないかと聞かれれば危ないが、あそことあそこと……なんて並べても仕方がない。たくさんあるからなあ。

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