異世界は修行の日々??
「グルルルゥっ!!」
涎を垂らしながら、爪長熊がこちらに近づいてくる。
「で、でた〜っ!!!」
爪長熊には絶対に勝てない!それこそ、リックのように殺される!いや、リックは俺だけど、俺になる前のリックみたいにね!
ということで、逃げる一択!!
なりふり構わず、走り出し、目の前に見えた茂みを軽く飛び越え着地するはずが、、、
着地するはずの地面が……無かった……
ヤバいと思い、壁に手を伸ばし、掴めるところも無かったが勢いを少しでも軽減するために、掴もうとする…
ズガガガガガガッ!!!
ドンっ!!!!
最後は、壁に手を弾かれ、背中から落ちる…。
「カハッ!!」
そのまま、視界が暗くなり、意識を手放した……。
…………。
「……っ、うぅ……」
目を覚ますと、体中に痛みが走り、起き上がるのもやっとだった…。
「い、いただただ…」
辺りは真っ暗で上を見上げると、丸い穴から星空のようなものが見える。
どうやら、穴に落ち、衝撃で意識を失っていたようだ。しかも、外はもう夜…かなり長いこと意識を失っていたらしい。
暗すぎてどれだけの穴に落ちたかもわからない…この夜は、登ることは潔く諦めよう…
体の痛みも激しかったため、壁際にうずくまり、目を閉じると、意識を失うように眠りに落ちた。
…明るさに目を覚まし、上を見上げると丸い小さな穴から青空が見える…。
日が昇り、自分の落ちた穴の深さが理解出来た……。
これは、何メートル??10?20??深すぎる……
しかも壁は凸凹の少ない岩壁。
オリンピック出るようなロッククライマーでも登るのは無理そうな壁…。
早々に登るのはあきらめ、他の出口を探すべく探索に乗り出すが………
落ちたところから、横に洞窟のような穴があったため、入ってみるが、なんのことは無く、直径10m程度の円形の空間があるのみだった…。
日中は、縦穴からの光が差し込み、薄暗く空間全体が見渡せた。壁際を歩き、抜けられる穴がないかくまなく探したが、何も無い…。
1箇所、水が溜まっている所があったため、水の流れ込む穴がないかまで確かめてみたが、人が通れるような穴は確認出来なかった。湧き水か、地下水が溜まってるだけのようだった。
「いやいやいやいやいやいやいやいや…無理ゲーじゃん!」
思わず、声に出し、今のおかれた現状を嘆く…。
どうやら、壁を登るしか道はないようだ。
試しに登ろうとしてみるが、全く壁をつかむこともできず、30㎝も登れない・・・。
絶望を覚える中、ヒントはないかとステータスをのぞいてみる。
リック・K・アルジャン 10歳
Lv.1
体力 20/20
魔力 10/10
筋力 6
速さ 7
精神力 5
器用さ 5
魅力 5
運 25
属性 無
スキル 打撃耐性 Lv.2
ユニークスキル 極耐性 理
あれ・・。ステータス上がってる!
体力倍になってるし!スキルなしだったのに、打撃耐性とかできてる!
??????
これは、この穴に落ちたことが関係してるっぽいな・・。
ここは、桐生恭弥の知識を活かして考えてみよう。異世界小説の知識を参考にすると、体力や魔力は0になるまで使えば、大きく上昇する・・。
ということは、体力が倍になったのは、落ちたことでダメージを受け、体力が0になった。
体力が0になったことで気を失い、眠ることで回復し、ステータスUP。
こんな感じかな?
あとは、発生した打撃耐性スキル、これはおそらく穴に落ちた衝撃を受けて、発生したと考えられる。
ユニークスキルの極耐性が関係しているのかもしれない。
ぐうぅぅぅぅぅ・・・。
考えを巡らせていると、お腹が大きな音をたてて鳴り響く。
腹減った・・・。よくよく考えれば、転生してから何も口にしていない。
食べ物・・。このあなぐらに何か食べれるものがあるのか・・。とりあえず水は、ある。
きれいな水かどうかはわからなかったが、背に腹は代えられず、手ですくって飲んでみる。
ゴクゴクゴク。
「ぷはっ!」
臭みもなく、問題なく飲めそうだ。生きる上で欠かせない水の確保はできた。
ただし、水も無限にあるわけでもなく、大切に飲む必要がありそうだ。
問題は、食べ物・・。見渡す限り、動物の気配はない空間である。襲ってくるモンスターがいないのは幸いだが、食べ物がないのは致命的だ。
狭い空間をうろうろしながら探していると、毒々しいキノコを見つける。
「キノコ・・・。」
アウトドアの中で、正確な知識もなく、素人が一番手を出してはいけないともいわれるキノコ・・。
しかも、この毒々しい見た目。色は紫に白い水玉模様・・。完全に毒キノコですよね・・・。
異世界によくある鑑定スキルとかでてこないかな・・・。と考えた瞬間、ウインドウが開く。
紫茸・・??????
え??名前だけ??
ステータスを開くと、スキルに鑑定Lv.1が増えていた。鑑定レベルが低すぎてわかるのは名前だけってww
全く役に立たんな・・・ww
ただ、この飢えを何とかしのぐ必要がある・・・。他に食べ物はない・・・。
そうだ、極耐性があるっ!何とかなるはず!!
バクッ!!
もうなるようになれと思い切って食べてみる。
もぐもぐ、もぐもぐ・・・。
味は、無味無臭。苦み等があるわけでもないため、大丈夫かも?と思った瞬間、めまいと吐き気、腹痛が発生。
「これは、ダメなやひゅら・・。」
呂律も回らなくなり、意識が遠のき、その場で倒れこむ・・。
「うぅ・・・。」
意識を取り戻すと、明かりはなく、また夜まで意識を失っていた。
ステータスを開いてみると、
リック・K・アルジャン 10歳
Lv.1
体力 40/40
魔力 10/10
筋力 6
速さ 7
精神力 6
器用さ 5
魅力 5
運 25
属性 無
スキル 鑑定 Lv.1、打撃耐性 Lv.2、毒耐性 Lv.2
ユニークスキル 極耐性 理
お、毒耐性増えた。しかも極耐性レベル上がって、体力もさらに倍に!
というか、20以上ののダメージを食らう毒キノコ・・。怖いなw
でもまあ、なかなか体を張った方法だが、ステータスUP方法がわかってきた。
ただ、この状況から抜け出すためには、体力ではなく、筋力を伸ばし、何とか壁を登る必要がある。
筋力UPか、、思い浮かぶのは筋トレだ。地道なトレーニングをするしかないのか・・・。
空腹具合としては、意識を失う前よりはマシになっていた。毒キノコでも腹に入るだけで、飢えはしのげるようだ。
脱出のために、思い浮かぶ筋トレを始めてみる。
腕立て、腹筋、スクワット、背筋、腿上げなど、筋トレをとにかくやってみる。登るためには、握力とか手、腕を中心にした筋力が必要と思い、重点を手、腕にして筋トレを実施。
筋トレに疲れ、水分補給をして、腹の足しに紫茸をむさぼる。
そのまま、また意識を失い、目を覚ます。
ステータスを確認。
リック・K・アルジャン 10歳
Lv.1
体力 80/80
魔力 10/10
筋力 10
速さ 7
精神力 6
器用さ 5
魅力 5
運 25
属性 無
スキル 鑑定 Lv.1、打撃耐性 Lv.2、毒耐性 Lv.3
ユニークスキル 極耐性 理
体力、筋力、毒耐性上がってる。方法は間違っていないようだ。
試しに壁を登ってみると、多少登りやすくなっていた。
・・・・・・。
あこがれの異世界ライフ、想像と違いすぎる・・・。何この修行・・。しかもずっと一人・・。ぼっちよろしくのこの状況が辛い・・。
ふと、我に返り涙が出そうになったが、こんな穴に落ちたのもあの爪長熊のせいだと、爪長熊への憎しみを募らせ、ひたすらにこのステータスアップという名の、
筋トレ → 食事(毒接種) → 睡眠(意識喪失)という、地獄のサイクルを繰り返していく。
少し経過すると、毒耐性のレベルUPと体力増加から、さすがに紫茸の毒では、体力0まではダメージを受けなくなり、意識を失うことはなくなったが、体力を減らして、回復することで、倍とはいかないが体力値は増えていった。
さらに、筋トレの成果により、壁をそれなりに登れるようになったため、壁を登ることで筋力UPを図った。
登れる高さが上がることで、落ちる高さも上がり、落ちた衝撃を受けることで、打撃耐性レベルも上がった。
ひたすら、この地獄サイクルを繰り返し、1か月ほど経っただろうか・・。
もう今では、筋トレにダッシュなども加え、どこのスポーツマンかと思われるようなトレーニングを行っていた。
ステータスは、
リック・K・アルジャン 10歳
Lv.1
体力 2700/2700
魔力 10/10
筋力 500
速さ 400
精神力 500
器用さ 300
魅力 100
運 25
属性 無
スキル 鑑定 Lv.2、打撃耐性 Lv.10、毒耐性 Lv.20
ユニークスキル 極耐性 理
かなり上がったように思うが、まだ壁を登りきることができない。まだ、真ん中くらいまでしか登れていない。
その理由としては、真ん中くらいから、穴の大きさが狭まっており、壁が垂直よりもきつい傾斜になっているのだ。つかむところも、足を引っかけるところも少ないため、完全に指の力だけで登る必要がある。
最近では、打撃、毒耐性のスキルレベルが上がったせいで、紫茸を食べても、壁から落ちても、あまりダメージを受けなくなってしまった。それにより、体力値の上昇もなくなっており、筋力等の上昇速度が非常に悪くなってしまった。
ステータスアップも頭打ちになってしまい、どうしようかとステータスを眺めていると、大変な見落としをしていることに気づく。
せっかく異世界に来たというのに、穴に落ち、壁を登らねばと、完全に頭が筋トレモードになり、ステータスの魔力という項目をスルーしてしまっていた。最初に魔法を使おうとして、結局使えなかったため、あきらめていたこともあったが、、、
「魔力上げれば、転移ででれるんじゃね???」
この一か月、地道なトレーニングのおかげで、体力値は2700と大幅に上がっており、転移に必要な魔力値50000は程遠いが、何か可能性はあるのではないかと思える。しかも、ユニークスキルの理については、まったく考えてこなかった。
今一度、転移を思い浮かべると、転移魔法の術式が頭に浮かぶ。それを地面の土に、書き写し、よくよく確認していくと、非効率と思える箇所が数か所見つかる。魔法の知識は全くないが、なぜか理解できてしまう。その箇所を、自分の解釈で修正してみる。
すると、効果(転移距離)上昇に、消費魔力低減ができ、魔力消費500で転移が使える術式に書き換えることができてしまった。
魔力500ならば、体力の上昇値を考えると、不可能な数値ではない・・・。魔力を上げることができれば・・。なぜ、もっと早く気づけなかった・・・。
ここにきて、最大の自分の落ち度に気づき、落ち込むのであった。