求めるテンプレは何処に…。
異世界転移がほんとにあったら...
とりあえずチート能力あって、あんなこと、こんなことやって無双して、人助けして…
なんてことを、誰にも言わず妄想だけで楽しむ僕は桐生恭弥きりゅうきょうや35歳。
バリバリのサラリーマン、中間管理職的な立場も任されているいい歳したおっさん。
今日も仕事で本社の会議に出席するために、いつも通り、高速道路を運転中。
トンネルに差し掛かったところで、ふと前後左右に見える限り、ほかの車がないことに気が付く。
「珍しい・・車が一台も走ってないな。」
ポツリとつぶやきつつ、なんとも不思議な感じ・・。このままトンネル抜けたら異世界!みたいなこと起きたらなぁなんて、淡い期待を持ちながら、トンネルを抜けた瞬間・・・。
・・・・・・。
視界がブラックアウト・・・・・。
「え?なにこれ?…いや、マジで??」
視界が真っ暗になり、何も見えない。自分の手すら目視できない暗闇。
運転していたはずが、感覚としては水中?いや浮いてる??
ふわふわとした感覚に包まれ、上下左右もわからない・・・。
・・・・・・。
訳も分からず、混乱しながらも、ほんとに来ました?ファンタジー????
なんて考えていると、力が入らなくなり、意識が遠くなっていく・・・。
・・・・。
・・・・・・・・・。
「・・ん?」
目が覚め、あたりを見回すと、そこに広がるのは草木・・。
山の中のようだ・・。
・・・って、、
「えぇっぇぇぇえええっっ????」
思わず大声で叫んでしまう。
車、運転してたよね?俺??なんで山??あれ?事故った??
「待て待て、一回落ち着こう」
独り言のように声に出して自分を落ち着ける。そう、こんな時こそ深呼吸!!
スゥーハァー、スゥーハァー、スゥーハァー、スゥーハァー
あぁ~、空気美味しい・・。やっぱり自然はいいね!!
って違う違う。落ち着きすぎた・・ww
とりあえず、ここあれですね。妄想に妄想を重ねてた、、異世界!!ですよね??
やばい、興奮してきた。
「キ、キ、キターーーーーーーっ!!!コレっ!!!」
興奮のあまり、叫んだその時、、
「グォォォ…」
ガサガサッ!!近くの茂みから、不穏な声と物音が・・・。
・・・熊です。あれかな?叫んだ声につられて出てきちゃったやつかな?ww
しかも、普通の熊と違い、両手の人差し指に当たる爪が大きく発達し、まるで鎌のような形状をしている。
はい、モンスターの出現です!!爪長熊とでも呼ぼうかな!
名前のセンスは置いといて、、
ん~これはあれですね。テンプレ的には、、
1.「間一髪で、熟練の冒険者が助けてくれて、そのまま一緒に街に・・」
2.「チートな身体能力が与えられてて、難なく倒すと、実はこのモンスターに追われてたお姫様がいて、助けたお礼にとお城に案内される・・」
3.「チートな魔力が与えられていて、窮地になることで魔力暴走を起こして、爪長熊を倒すも意識を失うと、膨大な魔力を感知して調査に来たギルド員に助けられる・・」
とかかなぁ…w異世界小説好きのおじさんには簡単な問題ですね!!
自分的には、戦いとかやったことないから、1がいいなっ!なんて考えていると、爪長熊が、呻きながら、その強烈な爪を、振り上げ襲い掛かってくる。
「グアアアッ!!」
とりあえず、逃げる一択っ!!
と、かけ出すも木の根に躓き、そのまま倒れる…あ、死んだわ…これ…と、あまりにも短すぎた異世界…あぁ、冒険したかった…涙
などと、思いを巡らせていると…
がっっ!!
鈍い音が聞こえたが、自分に痛みはない…
あれ?あ!キタコレ!熟練冒険者が助けてくれましたよ!
恐る恐る振り返りながら、体を起こすと、そこには冒険者が………
居ないのかいっ!!!
そこにはかばってくれる冒険者はおらず、ただ、爪長熊が振り下ろそうとした爪が、太い木の枝に引っかって、とまっていた。しかも爪がくい込んで外れないようで、外そうともがいている。
運がいいのか…あいつがバカなのか…などと考えるも、爪が外れるのも時間の問題だろう…
はいっ!逃げましょう!!
なりふり構わず、走って逃げる。
後ろを振り返らずとにかくむちゃくちゃに走る…
ハァハァハァハァっ!!
「もう無理…走れません…」
体力の限界で、立ち止まり肩で息を切らしながら、後ろを振り返ってみると、そこにはあの恐ろしい熊の姿は見当たらなかった。
「よかった……ハァハァ…何とか助かった。」
安堵して、その場に倒れ込み、息を整える。
『4.とにかく逃げる』が正解でした…
俺も、まだまだだな…って、いや、想像した異世界生活とだいぶ違う…
どーしよ…体動かした感じ、前と変わってない感じするんですけど…
ふと、腕に目を落とし、そのまま、自分の体を見てみると、
「愛らしいビールっ腹が・・・ないっ!!」
「って服ボロボロ!!」
っていや、あれ?何この服??
ボロボロになってる服は、もともと着ていたスーツがではなく、ゲームとかに出てくる村人が着ている服がボロボロになっている。
服を確認している時にふと、手を見ると子供の手…そーいえば視線も低い……
恐る恐る、ズボンを前に引いて息子を確認……
つるんとした可愛らしい息子がそこに……
あれぇ?これは子供に転生したってことかな?
なら前の世界の僕は死んだってこと?
突然視界がブラックアウトしたのは、テンプレ的に事故にでもあったってことか?…
ん〜、ま、いいや。とりあえず考えてもわかんないしね!とりあえず、現状把握しよう。
ふむ、よく見ると汚れたボロボロの服は、鋭いもので切られたように、脇腹辺りがぱっくり空いている。
こびり付いた茶色い血の後もある事から、何かに襲われて、ボロボロになっているようだった。
確認したところ、体自体に傷は無かったが、かなり痩せ細った貧相な身体をしている。
ズキッ!
色々考えていたら、突然、頭痛に襲われ、その場にうずくまる…。頭を抑えていると、知らない記憶が頭の中に流れ込んでくる…。
この体は
リック・アルジャン 10歳
アルス族のトゥーレという小さな村で、父母と共に3人で暮らしていた。決して裕福な家庭では無かったが、村全体が家族のような関係で、みんなで助け合いながら生活していた。
しかしある日突然、鎧を纏った騎士団に襲われ、村は焼かれ、無慈悲に村人は殺されていった。
そんな中、父と母、更に村人10数人でリックを囲み、全員から手のひらを向けられている。そして、父から、
「リック、よく聞け。我々アルス族は、かつての魔大陸戦争で、魔王を討伐した7大英雄の1人勇者アルス・アルジャンの末裔一族だ。絶やしてはならないこの血筋をお前に託す。何とか生き延び、我等が一族の血筋を繋いでくれ……。こんな使命を追わせてしまってすまない…愛してる…我が息子リックよ…お前が生き延びることを切に願う!」
父からの言葉が終わると共に、視界が真っ白に染まり、目を瞑るとこの森にいた。
リックは、なぜ村が襲われたのか分からなかったが、騎士団が掲げた旗にあった剣に蛇が巻き付いた紋章と、騎士団の「アルス族には死を!」という言葉だけが強く脳裏に焼き付いている。
リックは父からの言葉を胸に、何とか生き延びようと頑張ったが、10歳の子供にはこの森で生き抜くことは、厳しかったらしく、さっき俺も襲われた爪長熊に襲われ、命を落としたようだ。
そこに俺が転生し、リックの体に入ったらしい。
平和に生きてきた俺には、自分が経験した記憶では無いが、村が襲われ、命が目の前で奪われていく光景はなかなかくるものがある…。
そして、あの紋章を掲げた騎士団に深い憎しみ、怒りの感情が渦巻く。
また、肉親に加え、家族同然の村人達を失った虚無感が心を支配する。
いや、これは10歳の子供にはハードすぎる…。
35の、俺でも辛い…
ただ、これはリックの記憶であり、自分、桐生恭弥の記憶では無いため、冷静さを保つことが出来た。
いきなり記憶が流れ込み、混乱したが落ち着いてこれからのことを考える。
この体は、リック・アルジャン10歳だが、中身は桐生恭弥35歳……んー見た目は子供中身は大人的なことになってるなw
今後の自分の名前はどうしようかな…この辛い経験を尊重して、リックと名乗ろうとは思うが、35年間慣れひたしんだ桐生恭弥が、完全に無くなるのも寂しく思い、イニシャルのKをとって、
リック・K・アルジャン
うん、これで行こう。
いきなり重たい過去を背負ったけど、まぁ、憧れの異世界に来たわけだし、切り替えて楽しもう!
勇者の末裔に転生したわけだから…
ふふっ、、チートの匂いがする!!
えーと、ステータスウインドとかあるのかな?
と、思い浮かべると、、
リック・K・アルジャン 10歳
ステータス
Lv.1
体力 10/10
魔力 10/10
筋力 5
速さ 6
精神力 5
器用さ 5
魅力 5
運 25
属性 無
スキル なし
ユニークスキル 極耐性、理
おぉ、ステータス出たっ!
「いや、弱くない??汗」
この世界の普通が分からないけど、普通のLv.1の能力値ですよね…?運はちょっと高めかな?
しかも属性、スキルなしって!!
いや、スキルはひらがなでなしってなってるから、属性は無属性ってこと?
気になるのはユニークスキルの極耐性と理。
ユニークスキルと言えば、異世界ではチート能力のはず……
でも、極耐性…耐えるスキル?恐らく防御系かな?極って位だから、何に対しても耐性あるのかも…後で試してみよう。
あとは理…り?ことわりかな?
……なんのこっちゃww
説明文とかないのかな…ステータスに触れてみるが、説明文が隠れたりしているわけでは無かった。
んー、色々試していくしかないようだ。
それよりも、魔力がステータスにあるってことは魔法使えるよね?ワクワク
「ファイア!」
叫びながら手を前に出してみると、、
………しーん。
「でないのかい!」
何も起きなかったことにショックを受けつつも、魔力があるならそのうち魔法も使えるはずと、思い込む。
まぁ、無属性だからファイヤとかの火属性は使えないのかな?無属性魔法って、なんだろう…。
リックの記憶で、最後に真っ白になり、突然森にいたのは恐らく転移…こーゆーのが無属性?
「転移!」
……。
…………。
出来ないか…
と思ったその時、頭に転移魔法の仕組みのようなものが不思議と思い浮かんだ。見たことの無い文字で、術式が構成されており、無属性魔法の転移の術式と分かる。
ただ、必要魔力は50000…魔力が全く足りないために使えないようだ。
思えば大人数人で俺を転移させたんだもんな…膨大な魔力が必要だわなw
あ、これが理?魔法の仕組みが分かるのか!
なかなか使えるかも!
でも、ファイヤは出なかったし、頭に思い浮かばなかったしな…属性が無いからダメなのかな?まだまだわからない事が多い。
と、その時、
ガサガサっ!
物音に振り返ると、そこには、、、
爪長熊!!!