私も上空から見ています
時間は数時間前まで遡る。
その日の早朝にカールトンを出発した気球は、日が暮れてしばらく経ったあとも目的地に向けて飛行していた。新月の夜である。
半日以上の空の旅の末、一行の目に暗闇の中に照らされる大きな石造りの要塞が入った。そこに向けて気球を飛ばしていく。
全体を真っ黒に塗られた気球は籠の中から見てもほとんどその姿を確認することができず、乗っている者はまるで暗闇の中に浮かんでいるように感じられた。
最初はそれに混乱し、狼狽した勇者の仲間たちも今はすっかり慣れて静かにヴレダ要塞の上空に到達するのを待っている。
そして夜半も近くになった頃、目的地であるヴレダ要塞の上空にたどり着いた。
事前にカールトンの街で夜間、警備の兵士の背後に着陸して全く気づかれないという実証を経ていたが、それでも緊張の時間だった。
「この辺でいいでしょう。デルフィさん、ミャーリーさん、準備を」
地上を見て見つかっていないことを確認してからメリアが作戦の決行を決断した。気球に乗っているのはメリア、デルフィニウム、ミャーリーの三人でイリスはここにはいない。
「わかっ……むぐぐ……!」
元気よく返事をしようとしたミャーリーの口をデルフィニウムが慌てて塞いだ。
「静かにするの」
デルフィニウムの注意にミャーリーはこくこくと頷いた。
ミャーリーがデルフィニウムを背負い、そこからさらに紐で二人が離れないようにきつく縛る。その間にメリアは気球の位置を微調整して降下用のロープを垂らす。
「よし、準備できたにゃ」
ミャーリーがそう言うのでメリアが二人の固定をメリアが確認した。問題なし。
「それじゃ……行ってくるの」
「ええ。私も上空から見ています。問題がある場合はランタンを上から見て時計回りに回してください」
「任せろにゃ!」
そう言い残してデルフィニウムを背負ったミャーリーは右手にランタンを、左手に地上へと続くロープを持ってするするとヴレダ要塞へと降下していった。




