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味方の指揮官はどこにいるの?

 丸一日近く起きていた上に敵が集結してきて疲労の極致にあったが、緊張していたせいだろう、ンジャーミンの眠りは浅かった。何か物音がして目が覚めたようだ。与えられた三時間後にはまだ少し時間があり、もう一眠りしようかと思ったが、どうにも外のことが気になった。


「ふわぁ……。静かだな。敵はまだ動いていないのだろうか」

 眠気を必死に払いながら身支度を整えて兵舎から外に出た。


「みゃっ……!?」

 二人組の女と鉢合わせた。


 要塞に女がいることは別に珍しいことではない。ラミア隊長を筆頭に、要塞内に女性兵士などそれこそごまんといるからだ。


 問題はそこではない。彼女らは異常に若いのだ。


 一人は十代後半とおぼしき、貴族の家政婦のような格好をした獣人。

 そしてもう一人はさらに若く、十代前半で左右のこめかみから羊のような角が伸びた少女――


「……! デモン族っ!」


 ンジャーミンははっとした。この要塞には一度も来たことがないが、この要塞の総司令はデモン族の貴族だと聞く。この少女がその総司令自身だとは思わないが、娘だか孫だかがお供のメイドを連れてやってきているということは考えられないだろうか。


 そうでなくてもデモン族は魔王を輩出する種族であり、最下層のゴブリンからすると雲の上の存在である。礼を失して相手を怒らせるようなことがあってはならない。

 自分が咎を受けるだけならばまだいい。罪が係累にもおよぶと思うと、ここは一つのミスも許されない場面であった。


「し、失礼しました……」

 ンジャーミンはデモン族の前で膝を折って頭を垂れる。彼の視界には少女のまとったローブの先しか入らない。


「敵の……じゃなくて味方の指揮官はどこにいるの?」


「はっ。今は一部の休息を取っている一部の兵をのぞいてあちらの防壁に展開しております」

「わかったの」


 そう言ってデモン族とお供のメイドは防壁の方に歩き出そうとしたので、ンジャーミンは慌てて声をかけた。


「お待ちください。わ、私がご案内します」

「ん。よろしくなの」


 ちょうど持ち場に戻る所だったので、ンジャーミンは少女達をラミア隊長のところに連れて行くことにした。

 新月の夜だったが、要塞内の至る所にはかがり火がたかれていて足元に不安はない。


 にもかかわらず、お供のメイドはカンテラの火を消そうとはしなかった。


 そのカンテラも奇妙な形だった。球形の発光部を持ち、手に持った金属製の棒とは紐でぶら下がるような形で繋がっている。

 通常のカンテラよりもかなり明るく、メイドの周囲だけまるで昼のようだ。中に入っている魔封石の能力が高いのだろう。


 貴族のもつ高級品に違いない。ンジャーミンはあまり深く考えることもせず、兵舎の間の石畳を歩いて行った。

 少女達の歩みに合わせたせいで普段よりもかなり時間がかかったが、ゴブリンを先頭とした三人組は外壁の外階段を上り、多くの兵士達が集まる防壁の上までやってきた。


「隊長、ンジャーミン、復帰します」

「うむ。よく戻った。……そちらは?」


「……? ご存じではなかったのですか? 隊長の下まで案内して欲しいとのことでしたので、てっきり……」


 隊長はデモン族の少女の前までやってきて、目線を合わせるためにかがみ込んだ。

「このような最前線にまでデモン族の方がどのようなご用でしょかう?」


 ラミア隊長は相手がデモン族ということもあってか、相手が子供であっても腰の低い態度で接した。

 それに対し、デモン族の少女は両手をすっと上げ、ンジャーミンやラミア隊長には理解できない言葉――王国公用語――でこう言った。


「みんな、朝までぐっすり眠るの……!」


 瞬間、少女の全身から紫色の煙が吹き出した。

 それは一瞬にして要塞全体を覆い尽くしていったのだが、ンジャーミンの意識はそれを知ることもなく途絶えた。

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