今のうちに仮眠を取ってこい
敵の軍勢は数を増し、夜明けを迎える頃には六百ほどの数が要塞の前に集結していた。
対する駐留軍もほぼ全ての人員を要塞前面の防壁上に配備していつでも対抗できるよう準備していた。
要塞駐留軍の兵力は千五百を越す上に守備側は絶対的に有利なために普段であれば恐れるような状況ではない。ましてやここは難攻不落のヴレダ要塞だ。
しかし、先の戦いで外征軍は敵軍の五倍の戦力差があったにもかかわらず敗北したという。その責任を取って総司令官のアガリアレプト皇子は処分されたとの噂も流れている。
決して侮ってはならない――それが駐留軍の総意であった。
それから半日近く敵の動きはなく、また夜が訪れようとしていた。
「敵の様子に変化はあるか?」
要塞全面の防壁上に矢を装備して待機するンジャーミンに下半身が蛇の女性――ラミア隊長が話しかけてきた。
ラミア隊長の本名は別にあるのだが、あまりに長すぎて覚えられない結果、皆は彼女のことをラミア隊長と呼ぶようになっていた。
「いえ、夜が明けてから敵の動きに変化はありません」
「そうか……」
ラミア隊長はそのまま立ち去ろうとしたが、すぐに何事かを思い出したようで、ンジャーミンに問いかけてきた。
「最初に敵を発見したのは貴様だと聞いたが?」
「はっ、そうでありますが……」
ラミア隊長は少し何事か考え、ンジャーミンに命じた。
「三時間与える。今のうちに仮眠を取ってこい」
「は……? いえしかし」
「おそらく敵の狙いは持久戦に持ち込み、こちらを疲弊させる戦術だろう。こちらも兵を分け、少しずつ休息させる。まずはお前からだ。行け」
「そういうわけでしたら……。お先に失礼します」
「うむ」
ンジャーミンはラミア隊長に敬礼をし、同僚のオークに手を軽く上げて挨拶をすると要塞の奥へと入っていった。




