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0200、異常なし

「交代の時間だ」

「ん? ああ、もうそんな時間か。それじゃ頼んだぞ。おれは酒でも飲んで寝るわ」


 同じ場所を担当する顔なじみのオークと挨拶を交わし、ンジャーミンはいつものように警備の任に付いた。最初は同僚がゴブリンだと憤慨していたオークの彼も、今では彼の実力と真面目さを認めて同格の仲間として認識してくれる。


「さて、と……」


 ヴレダ要塞は『世界の屋根』とも言われるギガンティス山脈に築かれた要塞である。急峻な岩々の間に長い時間を掛けて構築された山道の最中にあり、石造りの強固な構造と正面以外からの攻撃ルートが存在しないことから難攻不落の要塞とされていた。


 ンジャーミンはいつもと同じく、その日も要塞の見張り塔の上から王国側――帝国は王国の存在を認めていないので叛徒の領域と呼んでいる――の見張りを始めた。


 真夜中のヴレダ要塞はあたりに明かりとなるものがまるでないが、ゴブリンはもともとが洞窟の中に住む種族なので夜目が利く。ンジャーミンがこの時間を担当しているのはそういうわけだ。


 この日は新月も近く、いつもよりもさらに暗い。


 暗闇の中見張り塔から見えるのは見渡す限りの岩である。これが森の中の砦ならば木々の動きがあったり、夜行性の動物などがたまに顔を出したりもするが、木の一本も生えない高地であるヴレダ要塞の見張りでは動くものが何も見えない。


 それは過酷な任務であったが、ンジャーミンは不満のひとつも口にせず、毎日の監視任務をこなしていた。その任務に真摯に当たる姿は部隊長からも一目置かれていた。


0200(ゼロフタマルマル)、異常なし」


 目を眇めて岩と岩の間を確認する。今日も何事もないだろうという気持ちがわき上がってくるのを堪えて監視を続ける。


 そう思うのも仕方がない。

 かつては王国軍が幾度となくこの要塞に攻め込んできた時期もあったと言うが、ンジャーミンがこの要塞に赴任してからは一度もそういったことは起こっていない。


 しかし今まで起こらなかったからといって今日起こらないとは限らない。

 ンジャーミンはいつもそう自分に言い聞かせて気が緩みがちな日々の任務を引き締めていた。


 そしてそれは今日この時間、実を結んだ。


「む……? あれは……?」

 岩の向こうから何か影が動いたように見えた。


 最初は見間違いかと思ったが、すぐにそうではないことがわかった。人間はこの暗闇の中、ろくに周囲を見渡すことができないので明かりが必要になるのだ。


 山道の向こうから現れたランタンの明かりはひとつ、また一つと数を増やしていく。その灯りに照らされたのはフル装備をした人間の軍勢。


「て、敵襲! 敵襲ー!」

 ンジャーミンは叫びながら見張り塔に設置されている鐘をかき鳴らした。


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