これで何をするんですか?
三人が籠に乗り込んだことを確認すると、イリスは職人達に手を振って合図した。
「テストを行うから、離れてくれ! カーンのおっさん、あんたもだ!」
「は、はいっ……!」
言われて今も布を棒で支えている数人を除き、職人達が籠から離れていく。カーンも慌ててその場から距離を置いた。
「勇者さま、何をなさるのですか?」
「まあ、見てればわかるって。メリア、その紐を引っ張ってくれ」
メリアの目の前には頭上から紐がぶら下がっている。紐は上部に取り付けられた金属製の箱に繋がっており、これを引くと箱の上に付いている蓋が開く仕組みになっているようだ。
「これですか?」
「おう、力任せに引くなよ。優しくだ」
「わ、わかってますよ」
言いながらもメリアは思いっきり力を込めようとした手の力を抜いた。言われたとおりに優しく紐を引くと、金属製の箱の蓋が開いて中のものが外気に晒される。
「にゃにゃっ!」
突然の轟音にミャーリーが驚きの声を上げたのは、蓋が開かれた箱から勢いよく炎が吹き出したからだ。
「魔封石……なの?」
それを見たデルフィニウムが聞いた。
魔封石とは、発動直前の魔法を封じ込めた石のことである。外気に含まれるマナを遮断するために金属製の箱に入れるのが普通である。
このタイプの炎の魔法が含まれている魔封石は王国で普及しており、一般家庭での普及はともかく、貴族の家や飲食店などでは当たり前に使われているものである。
「ああ。これで布の中に空気を送り込むようになっているんだ」
「大丈夫なのかにゃ? 燃えたりしないにゃ?」
ミャーリーは腰がひけてイリスにしがみついている。
「大丈夫だよ。その辺は何度もテストしてる。まあ、数枚燃やしたがな」
「ひえっ!?」
イリスがからかうと、驚いたデルフィニウムが籠から飛び降りようとしたのでメリアに止めさせた。
「しかし……これで何をするんですか?」
籠の上の布がまるく膨らんでいく様を見ながらメリアが言った。
「これか? 空を飛ぶんだよ」
「空を……トぶ?」
籠の中の三人が同様に目を丸くした。




