嫌な予感しかしないの……
「勇者さま、お呼びでしょうか」
イリスが服飾ギルドの職人と話をしていると、背後から話しかけられた。
声の方を見ると、先ほどカーンに呼びに行かせたメリア、ミャーリー、デルフィニウムが中庭までやってきていた。
「みゃっ! なんにゃこれ! 勇ミャ、何を作ってるにゃ?」
「なんか……楽しそうなの……」
ミャーリーとデルフィニウムがそこに置かれていた完成直前のそれを見て興奮している。
今はまだその真の姿を現していないためにそれが何で、どんな役割を果たすのか理解できるものはいないだろう。
いや、この世界でそれを見て何をするものか正確に理解できるものはいないだろう。
――異世界から召喚された勇者達をのぞいて。
「よし。みんな揃ったことだし、テストを始めようか。おやっさん」
「あいよ」
イリスに言われておやっさんと呼ばれた職人の男が周囲の人々に指示を出し始めた。どうやらこの人がここに置かれているものを作った職人集団の頭領らしい。
地面に敷かれていた白い布に取り付いて作業していた何人かの女性が立ち上がって布を広げていった。
それは一部がロープで中庭の真ん中に置かれている大きな籠に繋がれていた。広げられていく布は畳四畳半はあろうかというほどの大きさだ。
布はさらに物干し竿のようなもので高く掲げられて籠の上にセットされていく。その下の部分は大きく切り取られており、真下に位置する籠から空気を取り込めるようにしてある。
「いいみたいだな」
イリスは満足そうに頷くと、籠の脇に備え付けてあった踏み台から籠の中に入っていった。
「おーい、お前らも入って来いよ」
籠の中から頭だけを突き出してイリスは仲間たちを呼んだ。呼ばれたメリア達は状況がわからず困惑している。
「は、はい。……それでは」
イリスに促されてメリアとミャーリーは軽々と、デルフィニウムはメリアに手伝われて恐る恐る籠に乗り込んだ。
「にゃー! 勇ミャ、これから何するにゃ? ミャー、ワクワクが止まらないにゃ!」
「嫌な予感しかしないの……」
「わ、私もです……」




